75.死と再生の蛇
■ イルストーム ■
見た目は黄色い靄
あからさまに体に悪そうな煙に撒かれると病毒が発生する。
毒よりは少な目のスリップダメージ
倦怠感による動作制限
悪寒による感覚異常
などのデバフがかかる。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
「『行くぞ!』」
『シューシャー!』
戦陣術 激励
同時に衝撃がぶつかってくる。
前のユニオンボスのような明らかな鳴き声ではないが、こちらの士気を削りにかかってきている。
蛇が姿を現してからの妙な一瞬の間に術を使えたのはほとんど運だった。
とりあえず、戦闘開始の合図位のつもりだったがギリギリセーフだったようだ。
前回のボス戦の経験が生きてないな。落ち着いていこう。
徐々に姿を水面から伸ばしていく蛇
前衛のタンクは防御体勢をとりながら警戒している。
まずは弓使いと術士による 中、遠距離攻撃からだ。精神力を節約しつつ地味に削っていく。
この後まだ相手がどんな攻撃をしてくるか読めないのだから全力を出すのはまだ早い
まず最初の攻撃は頭での突進と見せかけて噛み付き。
タンクが一人噛み付かれ持ち上げられる。
頭は水面から出ているものの、胴体は水の中だ。近接攻撃部隊は未だ攻撃に参加できない。
一先ずタンクを放させる為に飛び道具と術を蛇に叩き込む。
そしてタンクが水に落ちる。
一瞬心配するも流石【海国】のプレイヤー、泳いで岸にたどり着く。
しかし、毒デバフと凍傷デバフが発生しているらしい。ろくに動けない上に生命力が見る見る減っていく。
まだまだ序盤生かせる面子は生かしていきたい、支援術士に回復をさせながら退かせる。
衛生兵がいればおぶって連れ出させたが、嵐の岬にはいないので現状仕事の無い近接アタッカーの一人に前線から連れ出させる。
次の突進は数人で止めて咥えられるのを防ぐ。
戦陣術 戦線維持
今度は頭を大きく振り回して、タンクの端からダメージを当てていく、
大盾で受けることでダメージを最小限に抑えて我慢するタンク達、
すぐさま支援術隊に回復をかけさせる。
弧を描くようになぎ払った後、間が空く。近くにいた近接アタッカーがすぐさま頭にもてる技を叩き込んでいく。
その攻撃を嫌ってか、また頭を持ち上げ近接攻撃が届かなくなる。
すると大きく息を吸い込む蛇、殺気の範囲が広い。
「全員下がれ!」
すぐに指示を出したが、タンク達は間に合わなかった。
周りに撒くように薙ぎ払う青いブレス。
凍傷と相応のダメージを負ったタンク達を近接アタッカーたち総出で背負わせて下げさせる。
中、遠距離攻撃で削れると思っていたら、一発がいやらしい相手だった。
ある程度出入りが出来て防御も出来る自分が前に出る。
時間を稼ぎながら、中遠距離で地道に削るしかあるまい。
するとバルトも前に出る。
「防御力はそれなりにあるからな、相打ち覚悟で殴ればダメージも出るだろう。
ブレスの時だけは全力で下がるがな」
ツートップでとりあえず行くしかあるまい。
死亡さえしてなければタンク達も前線に戻れる筈だ。
突進攻撃は口に注意してショートソードで受ける。
硬直した蛇の頭にバルトの一撃が入る。
武技 シェルクラッシュ
頭の攻撃が効いたのか、まだ動かない蛇の目にショートソードを突きこむが、攻撃力が足りないのか弾かれる。
すぐさまショートソードを腰に戻して、宝剣を抜くが相手も待っていてはくれない。
鎌首を持ち上げる。
「『行くぞ!』」
『シューシャー!』
戦陣術 激励
ギリギリ殺気の範囲で判断したが危なかった。
タンク達がぼちぼちと前線に戻り始めるが先ほどまでより引き気味で構えさせる。
どうやら人数が少し減ってしまったようだ。
その間にも中遠距離攻撃組は地道に相手の体力を削っていく。
そして ドボン!!
よろめいて池に体が落ちる蛇、だがすぐに水面から体を伸ばし、間合いを取ってこちらを睥睨する。
なんともいえない嫌な気配と共に蛇の口の周りに黄色い靄が見える。
そして、一気に部屋中に靄を吐き出す。
ひどい悪寒と倦怠感に襲われ思わず膝を突いてしまう。
今回は嵐の岬の面々の方が反応が早かった。薬を取り出しすぐに飲み始める。
その様子を見て自分も思い当たり、モリーさんメリーさんから買った病毒用の薬を飲む
非常に苦い
しかし、体が自由を取り戻す。
先ほどの怯みと広範囲デバフ攻撃はダメージがある程度蓄積した証拠だろう
ここから攻撃パターンが変わる予兆、第2ラウンドと言ったところか。
先ほどまでよりも短い間隔で攻撃を繰り出す蛇
頭でのなぎ払いも、一度行って折り返してきたときには、攻撃に出た近接アタッカーもタンク達も吹っ飛ばされた。
ブレスも薙ぐ様にゆっくり吐くこともあれば、点で吹く時は吐き出すまでの間隔が早くタンクの回避が間に合わない。
前線が崩れそうな時は自分とバルトで受け持ち、何とか支える。
<氷剣術>も使い少しでも硬直時間を延ばし、一撃のダメージの大きなバルトの攻撃ターンを増やす。
そうして相手の生命力をじりじりと削るが、こちらのメンバーも少しづつ削られていく。
近接で攻撃を当てられるタイミングが少ない所為か、焦れて強引に行った所にダメージと言うパターンがいやらしい。
すると、また黄色い靄を吐き出す蛇
今度はすぐに薬を飲み体勢を整えるが、蛇がなかなか攻撃を仕掛けてこない?
「ヤヴァイ回復してるぞ!!」
誰が言ったか分からないが、相手は引いた位置で休息を始めたらしい。
ギリギリあたるのは遠距離の弓攻撃のみだが、回復速度の方が早いようだ。
バルトがこちらに目配せをしてくる。
分かってるけども、
「そっちは【海国】のプレイヤーじゃないか、泳ぎは得意だろ?」
「暖かい場所でならな!隊長は耐寒耐暑付のウエットスーツを着てるんだ。任せたぞ。
何よりこの討伐はあんたの物だ。美味しい所は譲るぜ!」
絶対嘘だ。おいしいなんて思ってないだろうに
だが、現状いけるのが自分しかいないのも確かだ。覚悟を決めて池に浸かる。
まじで寒い!クッソ冷たい!それでも泳ぎながら相手に近づいていくと
水中がぼんやり光っている場所がある。
本当の本当に覚悟を決めて潜ってみる。
頭が凍りそうだ。まじでつらい。
水中の蛇の胴体に魔石が露出している。
そこを宝剣で突くと蛇が暴れだし、蛇の胴体に打たれて岸まで吹っ飛ばされる。
うまく受身を取れたのか、何とか死に戻りこそしなかったが、動けない、寒い、
いっそファイヤーボールでも食らわしてくれって気分だ。
支援術士の回復で生命力だけは何とか戻った。
口から黄色い靄を漏れ出させながら蛇の頭が岸辺に落ちる。
ふと、大事なことを思い出す。
「バルト!」と叫んで祝福済み卵を取り出すと背後から一人卵を奪うように持って行き、螺旋を描くような回転をかけながら投げると
別のメンバーが受け取り蛇の口の中にねじ込む。
すると蛇の体が持ち上がり、卵が体の奥に入り込んでいくのが見える。
蛇の胴体が卵の形に盛り上がっているのが妙に生々しい。
そして水中まで届いたと思った時、
目といわず口といわず、うろこの隙間からも光線のような光を撒き散らしながら
頭を振り回し、時折壁に激突を繰り返しながら暴れまわる。
「全員固まれ!『防御だ!』」
戦陣術 岩陣
とりあえず防御体勢で様子を見守る。
やっと光が収まり落ち着いた蛇が、また口から何かを吐き出そうとした。
しかし、何もでない。
もっと早くに卵を食わせて置けばよかった。
そして、そこからはほとんど突進系の攻撃しか繰り出してこない蛇、
ランダムで陸地に頭を叩きつけるように暴れまわる攻撃が追加されて、術士、支援術士に被害が出たが、もう虫の息だ。
とうとう陸地に頭を着いて動かなくなる。
最後はやっぱりあれだろう?
バルトがまた目配せをしてくる。
「いいのかよ?とか言うと思ったのかよ?出来れば嫌だぞ」
「分かってるぜ、だが決められるのはお前しかいない」
もう一度覚悟を決めて池に入り、魔石を宝剣で突く、今度は身じろぎこそするが暴れない。
何度か突くと魔石に完全に剣が突き刺さる。
完全に蛇から力が抜けると同時にいつものファンファーレとアナウンスが聞こえる
MVP
ラストアタック
クエスト発見者
三つのボーナスがもらえるようだ。
一つは勲章
一つは蛇を模した腕輪
一つは蛇が巻き付いた杖
以上だ。
シャーロッテに見てもらうと
クエスト発見者特典〔蛇使いの称号〕譲渡不可 再生の秘術を受け継ぐものの称号
ラストアタック特典〔青き息吹の腕輪〕氷精の力を使用する時にボーナスがつく術発動補助アクセサリー
MVP特典〔アスクレピオスの杖〕使用者の精神力と引き換えに死亡時帰還カウント中の者を復活させることが出来る。
なるほどねぇ。死と再生の蛇だけあってMVPは復活アイテムと来たか~
バルトに杖を投げて渡す。
「うぉぉぉい!いいのかよ!復活アイテムだぞ?」
「ん?MVP特典と引き換えで討伐部位は貰って行くって約束だったろうよ?最初から」
「いや、だからってよ!復活アイテムだぞ?」
「いや、RPGなんだからあるんじゃないの?復活アイテム。
まあ、自分はクエストのこと以外はあまり分からないから初めて見たけど」
「ねぇよ!このゲームでは皆血眼になって探してるけど、復活アイテムも復活術もねぇよ!」
「でも、譲渡不可の称号は再生の秘術を継ぐ者ってあるし」
「秘術だから、秘密なんだろうな。しかし、こんな物を手に入れちまっていくら最強を自称してるからって、こんなのぶっちぎりでヤヴァイじゃねぇか。他所のプレイヤー丸ごと敵に回しかねないと来た。
本当にいいんだな?」
「ああ、約束だからね構わないよ。持ってって。そもそも手伝ってもらわなきゃ、この討伐だって無理だったんだから、気にしないでよ」
そんなやり取りをしてる横で一部のメンバーは<解体>した素材の吟味と後なぜか壁を掘ってる奴がいる。
流石に声をかけずにいられまい。
「どうしたの?そんなところ掘って」
「いや、なんとなく雰囲気が坑道と露天掘りの中間みたいだったからさ、掘ってみたんだけど、どうやら大昔にここで鉱石を掘ってたんだろうな、そしたら水が出てきたと、そんなところじゃないかな?ストーリー的には。
こいつをやるよ。何か良いものうちのボスにくれたんだろ?」
と言いながら石を渡してくる。
シャーロッテが近づいてきたので見てもらうと
〔氷鉱石〕 氷精の力の宿る鉱石
そのまんまだ。
「その量だとショートソード位作れればいい方だろうが、ちょうど使い手だろ?もうあまり取れないみたいだし、うちに氷精使いいないし持っていくといい」
とのことなのでありがたく貰っていく。
準備の段階から色々と有ったが何とかうまく行って良かった。
たまにはプレイヤーとパーティ組んだりして狩をしても楽しいかもしれない。
また、いずれ嵐の岬と狩りに出かける約束をして、たまにはメールをすることも約束させられて
【兵舎】に帰り討伐証明部位を兵長に渡す。
「おう、疲れただろ。とりあえず休め」
とのことなので今日のところは寝る。