74.死と再生の蛇本番前
■ メール ■
ゲーム内のメール機能はプレイヤーが拠点としている場所に手紙が届くことになる。
届くまでに時間差は無いが、プレイヤーが拠点の受付に行くまでは受付NPCが預かっている形になる。
プレイヤーはマメに拠点に戻り受付に行くことをおススメする。
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【兵舎】に手紙が届いていた。
運営以外からの手紙は初めてのことだ。
相手はもちろん嵐の岬のバルト・ロメオから
一応一通りの準備は整ったようだ。
そして自分の準備も整った。薬良し、卵良し、装備はいまいちだが、折角タイミングの整った時に水をさすものでもないだろう。
本番の前に一度バルトと会って最終的な計画を詰めておく。
「少し緊張してるかい?バルト」
「そりゃあな、なんだかんだレギオン戦は初めてだからな」
「え?そうなの?まあ、自分もプレイヤーから手紙をもらったのは初めてさ。一年以上ゲームやってても初めてのことが一杯だ。面白いゲームだよね」
「いや、一年やってて他のプレイヤーから手紙をもらうのが初めてって、それはあまりにも人と交流しなさすぎだろうよ!MMOなんだぜもっと人と関われよ!」
「まあ、これからは考えるよ。
で、準備は整ったんだろ?こっちも物は整ったんだが一つだけ考え中のことがあってさ」
「なんだよ?ここに至って不安要素があるってのはいただけないぜ」
「ああ、卵を蛇に食わせる方法なんだけど」
「また、突拍子も無いことを言いやがって、卵ってのはどんなもんだよ?」
と言われたのでアイテムバックから卵を取り出してみせる。
「でかいな!また!でも100人で相手する蛇に食わせるもんだし仕方ないのか、このサイズなら、うちで<投擲>使いがいるから口を開けたところに投げ込ませるんだな。一応アメフトのQBやってるやつだ。
アメフトのボールよりはでかいが何とかなるだろう。
無理そうならRBも一人いるからな頭を下げさせたところにタッチダウンって寸法だな」
「何か妙なタレントが揃ってるよな嵐の岬は。まあ、方法があるならいいか。薬は用意したんだよね?」
「おう、今手に入れられるもんはそれなりにな。後おススメの店でも買えるだけな。蛇討伐用だって言ったら快く売ってくれたぜ」
「そっかじゃあ、後はそうだな、明かりと食料と手入れ用品と調理道具くらいか」
「おいおい、何で調理道具が必要なんだよ。明かりは空洞らしいから用意してるぜ、携帯食料もな」
ま・じ・か~しょうがないお椀だけでも100人分用意しておくか、何ならカップでもいいか。箸は売ってないからスプーンもだな。
「よし、じゃあ日曜日、蛇討伐としゃれ込もうかね」
「おう、やるぜ!うちの連中も気合は十分だ」
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-当日-
100人の行列を連れて渓谷の川沿いを歩いていく、田舎とは言え以前は人とすれ違うことも有ったが
今は足跡すら雪で埋もれてしまって人の気配は全く無い。
軍狼装備をしているが今のところ嵐の岬のメンバーが士気で暴走する様子は無い。
少しだけ安心した。
ウシエーリ街を抜け、後はひたすらチーリイ川沿いを上流に歩いていく
人の手の入らぬ土地になってからは、時折迂回することはあるものの
目印は川しかない、ひたすら川を頼りに上っていく。
木々が生え、草も生えているが不思議と行き詰ることは無い。
まるで通り道を誰かが造ったかのように
時折現れる普通のフィールド魔物は鎧袖一触、嵐の岬に倒される。
とうとう川が途切れたと思い、周囲を探索したところ、下に続く大きな穴が開いていた。
なだらかな道が曲がりくねりながら下に続いている。
もっと探索すると穴は開いているものの道ができている場所は一箇所だけのようだ。
たくさんの穴から入る光を雪と氷の壁が反射して中は明るい。
氷柱が鍾乳洞をイメージさせる不思議な洞窟だ。
道沿いにぞろぞろと歩いていると、今は明らかに使われていないと見える広い空間と焚き火跡がある。
多分ボス前のセーフゾーンと言うことなのだろう。
全員で休憩を取ることにする。
「いよいよだ。全員万全の準備を整えろ!事前に飲むタイプの薬はここで飲んでおけ!」
流石バルト、大手クランのトップだけあって仕切りが良い、全員から程よい緊張感を感じる。
しかし、焚き火跡があって助かった。
すぐに焚き火を起こし、料理を始める。
「まずは~でっかい卵の上だけ穴をあけますよ~・・・」
「いや、ちょっと待った!それ蛇に食わせるやつだろ、何で割ってるんだよ!」
「いや、これは無精卵だから大丈夫、続けるよ。
氷麦を鍋に入れ~水をたっぷり、青い瓶のスープの素もたっぷりと~ぐつぐつぐつぐつ煮立って~麦がぷっくりしてきたら~韮を上から散らします~ちょっとだけ我慢をしたら~最後に溶いた卵をぶっ掛けて~で~きあ~が~り~」
「何がだよ!何がしたいんだよ!変な歌を歌いだして緊張感が台無しだよ」
なんかバルトがテンション上がりすぎてしゃべり方がおかしくなってる。
いつもの余裕はどうしたよ全く、まあ腹の底が暖まれば少しは落ち着くか。
お椀によそった卵と麦の雑炊を渡す。
「まあ、食えよ。戦闘中に空腹で動けなくなったらどうする気だ。戦闘前こそ腹ごしらえ!腹が減っては戦は出来ぬ!」
「この料理は代謝、免疫機能を高める効果がアルヨ!具体的には
耐寒(小) 病毒効果減衰(小)が一定時間つくネ!悪い物じゃないヨ!」
いつのまにやらシャーロッテは自分が出しておいたお椀によそって食べ始めてた。
そして嵐の岬のメンバーももそもそと食べ始める。量はそこまで用意できなかったが、文句は出てないのだから問題ないだろう。
自分でも食べてみるとほっとする味だ。服に耐寒性能があるとはいえ寒くないわけではないのだ。
やっぱり温かい食事にしておいてよかった。卵も100人分となると物足りないかと思っていたが、思ったより濃い味が出て少なくてもそれなりだ。
今度手に入れたら巨大目玉焼きもいいかもしれない。
「おい、確かに<簡易調理>があればセーフゾーンで料理が出来るとはアンデルセンから聞いてたがよ。
まさかボス戦前に料理バフを付ける事ができるとか、どれだけボス攻略が捗るか。
こんなボスを倒す為の手段が色々用意されてたなんて聞いてないぜ」
「そりゃあ、普通に任務こなしてれば教えてもらえたがね、行軍する時は食事に気をつけろって教わるよ普通に」
「もう、普通の意味が分からなくなってきた。だがコレでさらに今後のボス攻略の糸口が見えてきたことは確かだ。礼を言うぜ」
「別にいいよ、それよりここからが本番だ。そろそろ行くとしよう」
後片付けをちゃっちゃと済まし、洞穴の奥へと進む。
すると広い空間に出る。
日が直接入るわけではないがぼんやりと明るく、視界に苦労することは無さそうだ。
100人が十分に展開できるスペースとそれ以上のスペースを占める池。
透き通っていて、本当に病毒を振りまく蛇が住んでいるのか疑問に思うほどだ。
前衛のタンク達が列を作ってゆっくり池に近づいていく、練習の跡が見える綺麗な隊列だ。
すると、ゆっくり池の水が持ち上がる。
紛れもなく蛇の頭だ。本当に頭だけなのに人間位はある。全長は想像もつかない。
池の中にあるので見ることもかなわない。
皆蛇から一切視線を外さない。
初のレギオンボスに緊張しているのか闘志を高めているのか
自分も嵐の岬のメンバー達につられて気分が高揚する。