70.嵐の岬と前哨戦本番
■ 古代海鰐 ■
砂浜のヌシ
一定の釣りクエストで専用のルアーを使用することで遭遇できる。
釣り上げるだけでも相当な釣りスキルが必要となるが倒すにも相応の腕を持つ者を集めなくてはならない。
その皮から出来る防具は体にフィットし非常に動きやすく水に強い為、水場で働く者のなかでは非常に高い人気を誇る素材を手に入れることも出来る。
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15メートルは有ろうかと言う鰭付鰐が、砂浜に降り立つと同時にこちらを睥睨し、吠える。
『プーギューヤァァァ』
衝撃が体に当たるがノックバックも無ければダメージも無い。
全員一応防御態勢で耐えたが、ボス魔物の登場シーンって所か?
すると頭を低くした鰭付鰐が少し体を引いて身構える。
「突進来るぞ!全員防御構えろ!」とすぐに指示を出すが誰も動かない。
いや、動けないのか?
「くそ!そういうことか!」
誰が応えるわけでもないが自分が先陣に立つと同時に鰭付鰐が突進してくる。
支給品のショートソードを構えて防御する。
一瞬宝剣を使うか迷ったが多分イベントアイテムであろうこいつをおいそれと野良魔物相手には使えないだろう。
少し押し込まれたが、仲間を巻き込まずに済んだ。鰭付鰐が硬直している間に低い位置に来てる目に剣を突き立てる。
『プギィアァァ』
叫び声と共にのけぞる鰭付鰐、今度は衝撃は無い。
そのまま回転し、尻尾で攻撃してくるがコレもブロック。
背中側は刃がたちそうも無いので、砂浜に擦っている腹側に無理やり剣をねじ込み斬り裂く。
尻尾はそれほどダメージが無いのか、のそのそとこちらに向きなおる鰭付鰐。
自分を完全にターゲットしたようだ。もうちょっとだけ時間を稼がねば。
今度は横を向いた鰭付鰐が転がるようにして半身を持ち上げる。
こいつはヤバイ!そう思った瞬間には相手とは逆方向に走り始める。砂浜は大分走りにくいがギリギリ相手の攻撃圏から抜け出す。
持ち上げられた半身が地面に叩きつけられて、砂浜の砂と衝撃が逃げる自分の背中にあたり、転がす。
そろそろ頃合だろうか?「そろそろ参加してもらうぞ!『行くぞ!』」
戦陣術 激励
動き出す嵐の岬の面々
「うおっ何とかなったぜ!いつもは動けないまま蹂躙されて終わりなのにな!今回は!今回こそは!ついに俺も称号を手に入れちゃうのか?!うお~ぶっ倒すぜ~」
テンションの高い麦わらのおっさんは釣竿を振り回しながら叫んでいるがその格好で戦うのか?
「おい、どういうことだ?隊長よ」
「要は最初の雄たけびは士気を下げる効果があるんだろうな。恐慌状態で動けなくなってたから激励をかけたそれだけだ。軍狼装備してた方が良かったかもな。
ちなみに激励も最低限の士気が必要だからなちょっと時間は稼いだよ」
話している間に再度鰭付鰐が突進してきたが、今度はタンク隊があっさり防ぐ。
「何でおまえさんは大丈夫かってのは分かるのか?」
「平常心取って大分経つから士気の下がり方が低いんじゃない?」
「なるほどな、まあ最初の山場は越えたわけだ。行くとするか」
「あいよ!もういっちょ『行くぞ!』」
戦陣術 激励
念のため癒丸薬を飲み精神力を回復しておく
今のところ相手の攻撃はうまいことタンク隊が防いでいる。
すると今度は思い切り振り上げた頭を急落下させてくる。
「避けろ!」言ってはみたものの、タイミングが遅かった。
タンクの内の一人が噛み付かれそのまま持ち上げられる。
「全員攻撃だ!ありったけぶち込め!支援隊は回復に使える分は残しつつもバフを順次かけていけ!」
流石にトッププレイヤーを名乗る連中だ。大振りの武技や術は圧巻としか言えない。
支援術は一回に一人づつしかターゲット出来ないのか時間がかかっているがここは任せよう。
各々もてる技を叩き込んでいく。ちなみに麦わらのおっさんは支援隊だった。
どうやら釣竿は戦闘時には杖として扱うのか?
バルトの大剣も抜いているところを始めて見たが、真っ黒く荒々しい雰囲気の紅い装飾がされている。
抜くとプレッシャーが上がった気がする。そしてそれを思い切り鰭付鰐に叩きつける。
武技 シェルクラッシュ
明らかに硬そうな背中の甲殻部分に叩きつけているがダメージが通っているようだ。
鰭付鰐が咥えて持ち上げていたタンクを投げ出したのですぐさま支援隊が回復する。
鰭付鰐の様子が少し変わった。息が荒くなったかと思ったら、こちらを睥睨し思い切り息を吸い込む。
「『行くぞ!』」
戦陣術 激励
『プーギューヤァァァ』
タイミングギリギリだった。
そして、今度は前と後ろの鰭を思い切り地面に叩きつけたかと思うと飛び上がり、部隊の中心に落っこちてくる。
全員必死で避けるが、落ちてきた時の衝撃に吹っ飛ばされる。
隊列も何もあった物じゃないが、次に何をしてくるか分からない。
戦陣術 戦線維持
全員の防御力を上げておく。
隊の中心に来た鰭付鰐は、そのままぐるぐると腹で回転し、尻尾で攻撃しながら移動する。
ここは、自分が体を張って回転に割って入りブロックする。
跳ね飛ばされたが相手にも硬直がかかる。
一瞬の隙にまた一斉に攻撃にかかる。そして自分が立ち上がる頃には間合いを開けている。
何の指示が無くてもヒットアンドアウェイで様子を見ながらもダメージを与えている嵐の岬。
何度か吹っ飛ばされたので回復丸を飲みながら様子を伺う。
再び最初の攻撃パターンに戻ったかのように突進、半身うち下ろし、尻尾攻撃、噛み付きを繰り返す鰭付鰐
すっかり攻撃パターンに慣れ、攻撃の合間の隙に攻撃を当てていく嵐の岬、とうとう荒い息をつきながら横倒しになる鰭付鰐、全員で畳み掛ける。
自分も相手の柔らかそうな場所を狙ってショートソードを突きこむ。
元の腹ばいの体勢に戻った鰭付鰐が、再び全ての鰭で地面を叩くと思い切り砂が巻き上がり何も見えなくなる。
砂が収まるのを待ってから、見渡すといつの間にか海に浮かんでいる鰭付鰐。
海を前鰭で叩きつけると・・・・
津波だ。
「全員固まれ!『防御だ!』」
戦陣術 岩陣
密集隊形で効力を発揮する完全防御体勢だ。動くことも反撃することも出来ない、使いどころを選ぶ術だがここは我慢だ。
水が引くのをひたすら待つ。
水が引いたところで、陣を解除。
鰭付鰐がずるずると浜に戻ってきた。
タンク隊は大分ダメージを負っているので、回復に専念。
術隊と近接アタッカー隊でこれが最後とばかりに畳み掛ける。自分もとにかく使える技を使って切り込む。
武技 追突剣
相手の首に突きこむ、そして切り裂く。そうしている内に、とうとう喉の下に魔石らしき物が露出したので、バルトに視線を送ると
「おい、いいのかよ?」
と聞いてくるので
「構わないからやっちゃってよ」
大剣を思い切り魔石に叩きつけると魔石が割れて鰭付鰐からも力が抜けて完全に伏せてしまう。
すると久しぶりに聞いた懐かしさを感じるファンファーレとアナウンスが流れる。
今回はファーストアタックボーナスとやらが貰えるらしい。
「うお、うお!やったー!クエスト発見者ボーナスで『砂浜のヌシ』の称号を手に入れたー!」
物凄い勢いで喜ぶ麦わらのおっさん
「悪いな。あいつはこのゲーム初めて以来ずっと釣りばかりやってる釣り馬鹿でな。
それでも【海国】は水棲魔物も多いんでうちでは重宝している奴なんだがな」
バルトがちょっと困った顔で謝ってくるので
「別に好きなことをやって悪いことはないんじゃないの?ゲームなんだし。
むしろ誰かに弟子入りしたかジョブクエストをこなしたか知らないけど、称号を得たって事は新しいジョブに就ける様になるなあの人。
戦闘はどうか知らないけど釣りに関しては人の先行くプレイヤーになるわけだ。
ある意味最強のクランに相応しい人材だね」
「そういうもんかね?まあ、いいさ」
「ところで自分のボーナスは何か釣竿みたいなんだけどいるかい?」
「どんな物だ?」
「悪いけど<分析>とか<生活>とか付けてきてないから分からないな」
「それならうちの鑑定係を紹介するか。シャーロッテ!」
「はいはい、大きな声出さなくてもここにいるヨ。戦闘終わったんだからアイテム鑑定タイムなのはあたりまえダロ!さあさあどれを見てもらいたいんダイ!」
なんか語尾が怪しい女の子が出てきたので手に入れた釣竿を渡すと
「うんうん、〔とび丸の竿 TW〕ダネ。銘竿とび丸シリーズの海釣りverダネ」
「な、なんだって~!ととととび丸シリーズに海釣り用が存在するなんて!欲しい!すごい欲しい!!」
「んじゃ、持ってきなよ」
といって麦わらのおっさんに釣竿を渡すと
「いや、こんな貴重な物と交換できるような物は持ち合わせてない。ここは涙を飲んで諦めるしか・・・」
とか言いながら釣竿から手を放す気配が一切無い。
「んじゃよ、隊長よ。俺のラストアタックボーナスと交換でどうだ?」
と言ってバルトが真っ黒い全身タイツを渡してくる。
「こりゃあ〔古代海鰐の服〕ダネ。ウエットスーツみたいだけど、服に分類されてるから、鎧やなんかの下に着るものダネ。防御力は服に類するものだしそれなりみたいだけど、一応耐寒耐暑効果があるネ。ただし完全上下セットだから上衣と下衣を別々に、なんてことはできないヨ。
さらにコレ一つで<水泳>の装備スキルがあるヨ。
フレーバーテキストを見る限り、伸縮性柔軟性に優れ動きを邪魔しない上、保温性、吸汗性、速乾性にも優れた機能的な服みたいだヨ。コレはいいものダネ」
「そんなに良いものと使わない釣竿を交換するわけにも行かないし、今回は世話になるお礼代わりに譲るよ」
「世話になるのはこっちも同じことだ。今まで倒せなかったユニオンボスを倒す方法を聞いて実際に見せてもらった上、未だ発見すら困難なレギオンボスを倒せるかもしれないチャンスまで与えられてるんだからな」
バルトも結構かたくななところがある。
「素直に受け取っといたらどうダイ?今勝手にあんたの装備鑑定させてもらったけど、どれも真っ赤ジャナイカ。気がついてないわけじゃないヨネ?」
確かに手入れをする時に装備の色で耐久値が分かる。白→青→緑→黄→橙→赤って感じで徐々に色が変わっていく。
当然装備の元の色と耐久値の色の違いは分かる。装備品に色つきのフィルターがかかるといったところだろうか。
ヒュージスライムにやられて以来、店に頼んで修理してもらっても自分で手入れしてもほぼ朱~赤で、限界だとは思っていたのだ。
「分かった。ありがたく貰っておくよ。釣竿と交換だ」
そう言って、釣竿を渡し服を貰う。
大切そうに釣竿を抱えて眺める麦わらのおっさん。相当欲しかったのだろう、大事にしてくれるならそれでいいのだが。
帰りも船に乗り、トルトゥーガからポータルで帰る。
【兵舎】でスキルを取得しておく
<水泳> アビリティ 潜泳
と
<威圧> アビリティ 殺意
を取得する。
水泳は折角のウエットスーツだし潜るのを強化する。
威圧と殺意は物騒な名前のアビリティだが、殺気をぶつけて相手を硬直させたり麻痺させたり出来るらしい。
とりあえず、久々に大型魔物を狩ってちょっと疲れた。
だが、泣き言は言っていられない。
今度は近い内に渓谷の生き字引に会わなきゃな。
速乾性のウエットスーツは筆者の「もっと早くウエットスーツが乾けばいいのに」と言う筆者の夢の詰まった
地味にファンタジーな素材だと思ってください