68.引き続き嵐の岬と責任
■ 案山子 ■
訓練場に設置してあることが多い。
現実の案山子のように鳥を追い払うような効果は期待できないが、武器の的に使われることが多い。
どこの訓練場でも一律の素材でできている為検証等で使われることも多い
敵としてターゲットすることも可能な為様々なスキルの実験にも使用されることがある。
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「よう隊長!うちの幹部連中との顔合わせはどうだった?こっちは場を温めといたぜ!」
訓練場で大人数でざわついていると思ってたら、こいつだったのか。
皆一様に目を輝かせてこっちを見ている。さっきのが幹部連中だとしたら、こっちのは普通のメンバーってことかよ。
大丈夫か本当に・・・・いや、まじで
でも自分には大人数のプレイヤーの知り合いなんてものはいない。人数揃えてくれただけでも感謝しなければ。
結局のところ今まで他のプレイヤーとの交流を疎かにしてきた自分の責任だ。
何とかする方法を考えねば。
「アンデルセン、人数集めてくれてありがとうよ。ところでどの位できるんだ?正直に言わせて貰うと幹部連中も普通の戦闘力はいまいちっぽい、後は大人数抱えてるクランの連携にかかってるんだけど」
ざわつく嵐の岬のメンバー達
まあ、そりゃあ自分のところの幹部がいまいちって言われたらムカつきもするか、ちょっと言葉が悪かったな。謝ろう
「まあ、隊長から見ればそうかもな。俺から見ても隊長の方が強いからな。その辺のところ話してくれたんだろ?隊長のことだから聞かれりゃ隠さずに平気で教えちまうもんな」
「いや、俺も言葉が悪かったよ。すまん。普通に【訓練】するようには言ったしやってみるとも言ってたよ」
さらにざわつく嵐の岬のメンバー達
今度は何が悪かったってんだ?
「そりゃあ助かるぜ。俺が言ってもなかなか理解してもらえなかったしな。元々支援系術士の俺じゃ近接戦闘のことでアドバイスも出来ないしな、さてと次は士気についてこいつらに教えてやってくれよ。俺たちの使う<戦陣術>は結局そこが肝だしな」
「そうだな、でもさっきも話してて思ったけど自分は説明があまり得意じゃない。
普通にレギオン組んで、士気の高い状態を感じてもらうのが良いかね?
それで問題なければ、隊列と<戦陣術>にどんどん進んでいこうか」
「どんどん進んでいくってな・・・・まあ、いいや。やってくれ」
アンデルセンの許可も出たのでさっさとレギオンを組んでいく、いつの間にか幹部もいたので幹部を20人長の形で組んでいく。5人組まではこちらから指示しなくても組める辺り流石に大手のクランなのだろう。こういう場面に強い筈だ。ちょっと希望が湧いてきた。
最近はすっかり外しっぱなしだった軍狼装備を装着する。
なんかまたざわつき始めるが、とりあえずさっさと一回試してみよう。
案山子をターゲットにして戦闘状態に入る。すると
「うおぉぉ!」「やってやるぜぇ!」「おらおらおらおら」なんていう叫び声が聞こえてくる。
もうちょっと冷静に士気を高揚して欲しいんだが、次の段階に行ってみよう
「『いくぞ!』」
戦陣術 激励
「うぉぉぉらぁぁぁ!!!あばばばば」「アンギャーオー!!」「うほ!うほ!うほ!うほ!」
何か暴れまくったりドラミングしたりしてる。こりゃあもう駄目だ中止しよう。
案山子を破壊して戦闘状態を解除する。
「アーンデールセーン?」
「いや、ちょっと待て、前に言ったよな?いまいち士気を理解してくれないって、しかもだ今のはヤバイだろ?俺ですらもってかれたぜ」
「うちじゃあそこからスタートだよ。士気が上がるほどコンディションも上がるんだから、コレくらいは普通でいてくれないとどうやって戦うんだよ?」
「おい、そうアンデルセンを責めてくれるな。俺がそもそもそいつの話を聞いても対処してこなかったんだ。
とにかく今回お前さんと話せただけでも大分収穫があったし必要なことが増えた。ちっと時間をくれ、すぐに何とかする。折角のチャンスを棒に振る気は無い」
バルトが自分の肩を軽く叩きながら言う
「分かった。ただ時間制限がある。そのことだけは忘れないでくれ、また次のログインの時に今後の方針を話し合おう」
「おう、じゃあな」
「悪かったな隊長。ボスとよく話し合っておくぜ」
訓練場から立ち去り【兵舎】へと行く
すると、最近見なかった顔を見かける
「あっ隊長!ご無沙汰じゃないですか?隊長が対スライム先行部隊の実働部隊隊長になっちゃうせいで今は先輩のところで任務やってますよ。何でも今度は蛇と戦うとか?瘴気さえなければ自分達の出番だったのになぁ。噂じゃヒュージスライムも結局一人で倒しちゃったらしいじゃないですか?流石ですよね!」
「いや、本当にルークと一緒に戦えてたらどれだけ心強いかって思ってたとこだよ」
「なんかあれですね?隊長妙に力入ってませんか?出陣式で緊張してた時は分かりますけど。もっとこう隊長は嫌な物は嫌、欲しい物は欲しい、寝る時は寝るって感じじゃないですか?もし、どうしても嫌なら兵長に相談してみたらどうですか?」
「そういう訳にもいかないだろ?瘴気が出てて【ニューター】しかいけない場所で強敵と思われる奴と戦わなきゃならない。しかも病毒を撒き散らす敵だ。そうそう時間もかけられないと来た。多少無理でもやるしかないじゃないか。失敗したって責任の取りようなんて無いだろ?」
「おう、お前いつから責任なんぞ取れるほど偉くなった?」
兵長が珍しく受付から出て話しかけてくる。
「いや、一応中隊長でしかも出陣式でわざわざ剣まで預かって、責任取らずに済むんですか?」
「何を言ってるんだ。お前にちょっと行って蛇倒して来いって言ったやつは誰だ?嵐の岬が参加するのを了承したのは?幕僚総監だろ?だったら責任取るのは幕僚総監だ。
お前は【兵士】らしく言われたまま戦いに行って生きて帰って来いそれだけでいい」
嗚呼、確かにそうだ。
そりゃあやるからには責任が無いとは言えないだろうが、このゲームには無理なことを言った挙句全部自分に責任をおっ被せてくるようなそんな上司はいない。
むしろ危うく任務失敗の責任を嵐の岬に押し付けるところだったかもしれない。
最低だ。
別にいつも通りやれることをやればいい。出来たら出来た。駄目なら駄目。とにかく今出来る事に集中するそれだけだ。一個づつ片付けていけばいずれ終わりは見えるもんだ。
そう思ったら力が抜けた。肩からも目じりからも眉間からも腹からも爪先からも。
「了解。なんとか戦ってみます」
「そうだ!隊長!今度避難している人に話を聞いてみましょうよ。渓谷の生き字引って呼ばれる人に心当たりがあるんですよ。もしかしたら何かいい話が聞けるかもしれませんよ?」
「そうか、今度行ってみるか。
ちょっと話を聞かせて欲しいって先方に伝えてもらっていいかね?ルーク。
後、手土産は何が良いかね?」
「伝えるのはいいですけど、手土産は要らないと思いますよ?少しでも早く渓谷に帰れることが一番でしょうし」
「そっか、分かった。とりあえず今日のところは飯食って寝ます」
「おう、分かった。よく寝ろよ」
「おやすみなさい隊長」
「またなルーク」
「(隊長随分と緊張が抜けちゃいましたけど大丈夫ですかね?もうちょっときりっとしてたほうが良かったんじゃ?)」
「(何言ってやがる。あいつはあれ位のほうが実力を発揮できるタイプだ多分)」
「(多分じゃ駄目じゃないですか兵長)」
「(じゃあ、お前はどうなんだ?どっちの方があいつらしいと思うんだ?)」
「(どっちでも自分は付いて行きますよ。でも今のほうが隊長らしいのは確かですけど)」
「(だろ?)」