67.嵐の岬と強さの秘密
■ 狩人 ■
魔物や動物を狩り、その素材を世に流すことで世の中に貢献する職業。
魔物や動物の個体数や生息地域、習性を調べその情報をもって一般住人の安全を保つ仕事でもある。
また、危険な魔物のいる地域での採集等を請け負う者もいる。
使える武器に大型の物が多く対魔物では非常に有力なスキルや武器が扱える。
反面大振りの物が多く対人には向かない一面もある。
また、罠等を設置したり道具を使ったりと、器用さを求められる一面もある。
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「おいおい、そんな短い武器使いながら、足も使わずにじっとしていていいのかよ?先手はもらうぜ?」
いかにも身軽な装備をした拳士が、間合いを計りながらステップを刻んでいる。
動きは悪くはないが、遅すぎる。ステータスは高そうなのに違和感をぬぐえない。
さきのイベントの試合でやりあった赤い奴を思い出すが、あれよりも何段か下だ。
赤い奴もステータスの割りにすばやさも振りもいまいちだったが、間合いの取り方や斬りつけてくる方向がいやらしかった。
技の使いどころも良く、防御の上からでもダメージを与えたりデバフを与えたりする戦い方があってたのだろう。
今目の前にいる拳士は別に合ってるとか合ってないとかそんなんじゃない。単純に拳士だから素手で戦っているだけだ。
別にそれが悪いわけじゃないが、素手の戦い方をちゃんと習ってないのだろうか?
相手の動きを観察しながら黙っていると、急に相手の動きが止まる。
技のチャージか?
・・・・後頭部
殺気を感じると同時に体が動く、手に持っていた支給品のショートソードで、振り向かずにブロックする。
ドサッ という音共になぜか地面に転がっている拳士
すかさず、心臓に剣を突きこむ。
その後は急所攻撃の硬直が解けるタイミングを見計らって同じ場所を刺すだけだ。
手に乗った鳥を飛ばせないようにするより容易い
まあ、そんな中国拳法みたいな修行はしたことないけど。イメージだよ。
拳士の生命力が尽きる。
「ま、こんなところでいいかな?」
やや遠巻きに見ていた偉丈夫に声をかける。がっちりとした体型にやや長めで癖のある野生的な赤髪、背中には大剣を背負っている。剣からはなかなかの圧力を感じるので、良い物なのだろう。
「ああ、見せてもらった。本来あんたの討伐に乗っからせてもらうのに、わざわざこちらの頼みを聞いてもらって悪かったな。ちゃんと名乗るとしよう。バルト・ロメオだ。よろしくな隊長」
「いや、ボス!あれはチートじゃないっすか?アリの奴が負けるなんて。闘技場でもそこそこやるのに、何もさせてもらえず、圧倒されてたじゃないっすか?」
名前は知らないが、下っ端っぽい雰囲気抜群の奴が難癖をつけてくる。
「おい、証拠もないのに何でもチートだ何だ言ってるんじゃねぇ!自分に都合が悪ければなんでもチートか?
悪かったなうちの馬鹿が、ところでアリの奴はこいつの言うとおりそこそこやるんだがあんたから見てどうだった?」
「まあ、正直に言うなら強いとは思わないけど。そこそこやるって言うのは闘技場のランクとかのことなのかな?」
「それもあるが、アリが強く無いとなると俺も含めあんたから見て少しはやりそうな奴は、この場にいるか?」
「この場にはいないと思うけど主要メンバーは後から来るとかそういうことでしょ?」
「そうか・・・・一応俺がこのクラン嵐の岬の頭を張らせて貰ってる。そしてアリは対人戦なら、うちじゃ有数だ。状況によっては勝ち負けはあるがほぼトップクラスと言っていい」
うへぇ、まじかよ。アンデルセンの奴、自分のクランは最強を自負してるとか言ってたけど全然嘘じゃねぇか。
「おい、隊長さんから見てよ、俺のどの辺が悪いのかね?集団戦の指揮はこの前のイベントを見せてもらってるし、今の勝負の結果如何によらず、隊長さんの指示でやる気は有ったんだぜ今回の討伐!
ただよ。他の連中に対するしめしっつうか、けじめで勝負挑んじまったがよ。
まさかあっさり負けるとは思ってなかったぜ?」
先ほどの拳士だ。アリと言う名前らしい。訓練場なので生命力が吹っ飛んでも別に死亡扱いにはならない。
「う~ん、なんていうかステータスはそちらの方が上だと思うけどさ?ただ、手を抜いているって言うか、使いこなせてないって言うか?そんな感じかな」
「そんな感じ?じゃ無くてよもう少し具体的になんか無いのかよ」
あれかね?赤い奴の時に感じた違和感を自分なりに説明すれば良いのかね?
「イメージだけどそちらのステータスが100、自分が30~40くらいだとする」
「あん?じゃあ、俺のが圧勝じゃねぇか?」
「だけど、そちらは5~10%しか使ってない。自分は70~80%使ってるとなれば、多分自分のが倍以上強いってことになると思うけど」
「え~どういうことだよ?何でそんな事が起きるんだよ?」
感覚的なものを説明するのは難しいしもどかしいな。運営もステータスくらい数値化してくれれば良いのに
「さあ?なんていうか熊殺せる?」
「フォレストベアもシーベアも倒したことは有るぜ」
「じゃなくて、ヒグマとかだけど」
「どこにいるんだよ?」
「北海道だけど」
「倒せるか!馬鹿!」
「でも、ゲーム内では熊を倒せる。普通に体を使った感覚でだ。熊を倒せる体を持ってるのに熊を殺す動きをしてない。
むしろ現実のままの感覚で体動かしてたんじゃそこが限界。それ以上が出来るようになってるの、このゲームでは」
「言わんとしてることはなんとなく見えてきたけど、何だか納得いかねぇな」
「じゃあ、誰かこの剣でそこの案山子を斬ってみてもらえるかな?」
すると何も言わずバルトがこちらに来たので、剣の柄を向けて渡す。
剣を受け取ると思い切り振りかぶり案山子の胴の辺りまで剣がめり込む。そして剣は刺したまま下がる。
「おお~やっぱりステータスは高いな。現実じゃそんな風には行かないだろうに」
そう言いながらショートソードを鞘に戻す。
「いや、隊長さんも斬って見せろよ、でなきゃ差がわからねぇじゃねぇか!」
「もう斬ったよ」
ゆっくりと案山子の上半分がずれて、地面に落ちる。
「肝心なところはどうすりゃそれが出来るようになるかだ。なんか特別なことでもしたのか?」
今度はバルトが聞いてくる。やはり最強を自負するだけあって力には興味があるのだろう。
「逆に自分は今までほとんどクエストしかやってない」
「クエストって、お前ろくに報償もないし、拘束時間ばかり長いあれかよ。どんなメリットがあってそんな」
「いや、ジョブってのは職業だろ?クエストってのは仕事だろ?そりゃ、やるだろうよ?チュートリアルでもクエストを受けましょうって無かったかよ?」
「そりゃあ、はじめもはじめの初心者の話だろうが?」
「誰が決めたのさ?むしろあんたはジョブに就いてるのに何やってるのさ?」
「魔物討伐してその報酬でスキルや金を得て装備を更新してさらに強い魔物を倒してってそんな感じだな」
「要は、バイトしかしてないってことか?」
「バイトって言うな、一応狩人だし魔物倒すのが仕事だろうよ。まあ<解体>で一番稼げるし、使える武器の種類も多いってのが狩人の人気の理由だがな。対魔物に特化してる所為か対人はいまいちだがな」
「狩人のクエストで魔物倒してるの?」
「いや、むしろ今のところクエストだと薬草とって来いとか、草食獣の皮と肉とって来いとか、折角の獲物をただ監視しろとかそんなもんだ。誰もやらねぇ」
「そりゃ、いつまで経ってもバイトじゃないか。小金ばっかり稼いで仕事に何の貢献もしてない。だから弱いんじゃないの?狩人だって【訓練】くらいあるんじゃないの?」
「いや、一応魔物倒した報酬でジョブのランクも上がってるしよ。【訓練】てあれだろうが?剣構え!振れ!だろ?どうやって強くなるんだよ」
「ランクって何段階上がってるのかね?それに【訓練】も段階があるし、一斉に大量の矢が降ってきてショートソードだけで捌いたりとか色々あるよ」
「ジョブは下級職と上級職の二段階じゃないのかよ?後、矢が降ってきたってのはただの殺人だ」
「要はあんたはバイトじゃなくてバイトリーダーだと言いたい訳だ。まあ、大事だよ。下手な社員より現場知ってるバイトリーダーの方が、頼りになるなんてことは往々にしてあるもんだ。そういう人生もいいよな。
あと、ちゃんと訓練すれば矢は捌けるようになる」
バルトが頭を抱えてどうにも可哀想になってきた。言い過ぎただろうか?でも、まじめに今ここにいるメンバーが主要メンバーだとか言われたら、不安でしょうがなくなるわ。みんなどう見ても弱いもん。精々この前の試合の騎士に近いかな?くらいだ。このバルトが
「分かった。うちのメンバーはお前さんよりはログイン時間が長い奴らばかりだ。少しまじめに【訓練】してみよう。それでどこまで成果が上がるか分からないがな。
それと今回の指揮はあんたにとって貰うつもりだが、その辺は明らかにあんたのが上だ。この前の試合は見せてもらったし、正直あのルールで騎士に勝てる奴がいるとは思わなかった。で、うちの連中を好きに使ってもらって構わない」
「ログイン時間長いって一日何時間ゲームしてるのさ、体大事にしろよ?
後、集団でどれだけ動けるかは、これから見ていくしかないな」
「何時間って一日最大8時間だぞ?このゲームは。まあ、毎日一杯までって訳には行かないがな。
まあ、まだあんたの方に時間が有るなら一回動きを見てみるか?何でも瘴気が自然浄化されるまでのタイムリミットが有るんだろ?」
ほ~8時間てのは初めて聞いたわ。それとも説明書に書いてあったっけな?まあいい、自分もまだ時間有るしちょっと動きを見てみますか。
にしても、この前のちょっとした集団戦イベントまでチェックしてるなんて随分勉強熱心なんだな。ここのクラン。