612.industry leader
しかしゲームなのになんとも体が重い。
手には皇帝の剣を持ってるので、部位破壊では無いのだろうが、
それにしても体が全然動かん。そんな事を思いながら摺り足と変わらないような歩速で、帝城外へ。
庭園から出れば、律儀に皇帝も国務尚書も待っていた。
全身を部位破壊まで追い込んでるため、二人とも誰かに支えられて何とか立ってる。
全身の力を振り絞って剣を天に掲げれば、周辺にいたヒト達からどよめきが発せられ、静かになるまでしばし休憩。
本当はもう疲れたし寝たいけど、一応この場で決着はつけないとね。
「じゃあ、これ皇帝の剣だから、後任せた」
ハイ!終了~!
「うん、駄目だろ!」
そう言いながら何とか一人で歩き、自分の元に来た皇帝に剣を渡す。
「白竜から伝言、次に【帝国】に戻ってきた時、この国をどうしたいか話すってさ」
「次にとはどういうことだ?やはり再び眠りに付かせたのか?」
この皇帝の発言にまた周囲がどよめくが、
「違う違う。竜の試練っての受けて、後は自分の好きにしろって言われたけど、白竜はどうしたいのか聞き返したら……」
「聞き返したら?」
「なんか白竜旅に出る事になった」
「何でそうなるんだ!!」
「いや、何したいか分からないなら、旅でもすればって言ったらそうなった」
「そうか、白竜様に望みを言うのではなく、寧ろどうしたいのか聞いたのか、まあよい。それでこの剣を持って皇帝として俺はどうしたらいい?」
「好きにして」
「そうもいかん、細かい事はこっちでやるが、方針はお前が決めろ。実質白竜様代理だぞ」
「え~……じゃあ、二人の間の事は水に流して復興支援、頑張って。どうせ国務尚書も腹案があって国民を離農させたんだろうし、自分が考えてる貿易事業で景気も良くなると思うし、多分いけるでしょ」
「それだけか?」
「それだけだよ」
「何か望みは無いのか?なんでも用意させるぞ?」
「別に、自分で何とかできるからいいや。じゃあ頑張ってね!白竜様との約束忘れないでね。何しろ向こうは時間の感覚がアレだから」
「そうだな。末代まで言い伝えよう」
今度こそ一件落着だ~っと、ポータルに向かうと、
「すみません、隊長疲れてるところ。ちょっとだけ聞いてもいいですか?」
「どうしたのソタロー深刻な顔して」
「隊長の望みは結局今迄通りの【帝国】である事なんですか?」
「ああ、変わらない事を目的としてたのかって事?別に【帝国】の将来はなる様にしかならないんじゃない?」
「じゃあ、誰も断罪せず何となく終わらせたのは……」
「まあ、ゲームだからね~誰も死なないじゃん基本。後は物質的な損だけど、そこは復興支援と共に頑張ってもらって、他になんか突っ込むところある?」
「そうですけど、もっと【帝国】をこうしたいとか、導きたいとか……」
「ああ、こう言っちゃなんだけど他人は他人だよ。好きにしなって感じ。他人をどうこうしたいとか、そういうの無いもん自分」
「じゃあ、隊長のやりたい事ってなんなんですか?」
「言ってなかったっけ?根の国と天上の国との貿易」
「お金儲けって事ですか?」
「まあ、そうだけど。なんていうかこのゲームって凄い不便じゃん。やたら歩かなきゃならないし、物資はすぐ偏るし、装備も壊れるし、魔物は集団で戦わないと勝てないし」
「そりゃそうですけど、それがこのゲームで言う所のリアリティなんじゃないですか?」
「うん、そうなんだけど、不便な割りに縛りが少ないって言うかさ。なんかいつの間にか街出来ちゃうし、知らないうちにコネクションできちゃうし」
「それは隊長だけなんで、誰にでも当て嵌めるのはちょっと……」
「まあ、いい例が他にないんだけど、結局何が言いたいかって、やろうと思えば便利に出来ると思うんだよね。このゲーム」
「ゲーム内の環境を整えようっていう事ですか?」
「そうそう!だから自分はこのゲームで実業家になるよ。どうせこつこつ戦うのとか向いてないし、それなら【輸送】とかして少しでも過ごしやすいゲームにしようかなと」
「それが、隊長のやりたい事なんですね」
「まあ、そういう事。じゃあ飯食って寝るよ」
「あっ後、髪がチリチリになってますけど、竜の試練ってどういうものだったんですか?」
「え?ああなんかドラゴンブレスをくらって耐えるだけ、後コレはかつらだよ。じゃあ、またね!」
ポータルで【古都】へと帰還する。




