611.ドラゴンブレス
いきなり撃ってくるのかな~って身構えてたら、
「準備してよいぞ。ヒトの身でそうそう受けきれる物ではないが、な」
「ああ、じゃあレギオン級の魔石を……」
「邪神の化身の力は無しで」
駄目か!異常に堅い外殻で防ごうと思ったのに!
となると、防具は耐性の上がる制服のままでいいか。竜の一撃ってのが物理なのか術なのかも良く分からないし。
剣は防御用ならクラーヴンの剣かな。世界樹(枝)の剣も術効果は高いけど、受ける事を考慮するなら、クラーヴンの鉄剣が一番安心できる。
後は頭だよな~。どうするか……何か~頭装備~っと……。
今あるのはアフロだけか、仕方ない。
「根住!」
『うん?どうしたの?』
「アフロ押えてもらっててもいい?」
『いいよ!』
頼れる相棒を纏い、頭のアフロを押えてもらう。コレでどんな攻撃がきても簡単には飛ばされないだろう。
生命力も精神力も完全に回復し<青蓮地獄>を発動、精神力の自然回復が止まる。
〔土精の腕輪〕を使用し、最大生命力と精神力に補正をかかけておく。
全身の服に精神力を流した所で、白竜も空気を察したのか、全身から光を放つ。
何がどうなったのか、いつの間にか目の前には巨大な竜がこちらを見下ろしていた。
そのまま空を向いて、一声鳴けば、ステンドグラスが震えて割れ落ち、色鮮やかで硬質な雨が降りそそぐ。
自分に降りかかる分のガラスだけを最低限剣で払いのけた所で、
白竜の口に柔らかい光と共に危険なエネルギーの奔流が臨界まで蓄積され、
触れた物全てを消滅させる白い光、世界を削り取り彼方へと送る概念を本能で理解したと自覚した瞬間。
放たれる。今まで感じた事のない圧倒的エネルギー、
体を限界まで縮め、剣で出来るだけの範囲を防御。
しかし、剣腹とエネルギーが触れた瞬間を知覚できる程に圧倒的なエネルギーに、腕が持っていかれそうになってしまう。
しかし、本当に持っていかれるまでの刹那に呪印を解放。
呪印が広がりきるのを待つ間も無く何とか押し返す。
それでも、数秒と保てず浮きそうになる体を相棒の影脚と尻尾が地面にくっついて支えてくれる。
凶暴な優しい光の中、例えですらなく、ただの事実として指一本動かせない。
そんな状態のままどれ位経ったのか、不意に力が抜け崩れ落ちてしまった。
自分の意思とは何も関係ない。ただ重力に引っ張られて膝から落っこちた。
それは別に重力系の術を食らったとかそういう事じゃない。ただすべての力を使い尽くして、立っていられなくなっただけ。
それでも、白竜の方を見上げると、目の前には白皙の貴公子。
「ふむ、全て任せよう。望みを言うがよい」
ああ、自分まだ生きてるんだと、死に戻りしてないんだと実感して口から出た言葉は、
「だから自分が聞いてるんだよ。どうしたいの?って。上がそれを決めないから内乱が起きるんだよ。どうするの?」
「ふむ、そうか。我はヒトの望みを叶える存在だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。どうしたいの?っか……考えた事無かったな。ヒトを繁栄させるのが神より与えられた使命だからな」
「ヒトを繁栄させるにしたって色々あるじゃん。そこで意見が分かれてるんだから、国務尚書と現皇帝は」
「そうか……、どうしたものかな。ヒトをただ守ればいいと言うものではないのだな。内乱を起こした者達はどうなのだ?」
「詳しい事は分からないけど、現皇帝はヒトを強くする為に軍の力を高めようとしてるし、国務尚書は経済を発展させようとしてるのかな?貧しくて軍しか行く場所が無い民を無くそうとしているみたい」
「そうなのか、どちらが正しいと言う事でもないのだろうな。しかし今の我には分からぬ事だ。答えを出せぬ。お前の一存に任せよう」
「じゃあ……旅にでも出たら?」
「旅?」
「神様に遣わされた一柱だと世界の全てを知ってたりするの?」
「そんな事は無いな。神より与えられた使命と……後は自分の目で見、耳で聞いた物が全てだ」
「じゃあ、色んな所行って見てくればいいじゃない。それで何がしたいか決まったら、その時の皇帝と決めなよ。どうするのか」
「ふむ、良かろう。旅をして周り、世界を見て、その後この雪に埋もれた地をどうするのか決めるとしよう」
「うん、じゃあ解決って事で!一件落着」
「そうだな。早速我は旅に出るので、コレを預けよう」
そうして渡されるのは、柄から房の伸びる一本の直剣。鞘に収まっているが、それでも漏れ出るオーラは隠し切れない。
「この剣は?」
「皇帝の剣だ」
ああ、なんか聞いた気がするー……。
「自分は皇帝にはならないよ」
「だろうな。だからこの国を治めるべきだと思うものに預けるがいい。望みがあるならその者に言えばいい」
「別に望みなんて無いけどね」
「じゃあ、旅に出るか?」
「いや、散々旅してやりたい事は出来たけど、それは自分でやりたい事で、他人に頼むことじゃないから」
「そうか、じゃあ我の望みだけ言おう。旅から帰ったら、この国をどうしたいのか話し合おうと、次の支配者に伝えてくれ」
「分かった。じゃあ楽しい旅を……」
完全に力が抜けた体を引きずるように帝城を後にする。




