606.白竜の霊廟
決戦に向けて着々と準備が進む。出来るなら現地に罠でも仕掛けたかったが、流石に無理っぽい。
【偵察兵】や【工作兵】が牽制しあってる状況で、寧ろ先に動いたほうが負ける!って状況らしい。
一応、混成隊の指揮や動き方も【訓練】しているが、何とか形にはなりそう。
隊伍で【弓兵】を守る事を優先する事さえ教えておけば取り敢えずは何とかなるかな。
出来れば塹壕掘って、塹壕戦やりたかったな~。やっぱり広い平地で隊列組む相手に、隊列無しじゃきついよ。
大将の能力差が出ちゃってるよな~コレ。もう少し時間が有って、銃撃戦が当たり前になってたら状況も今とは違かったんだろうな。
とにかくいっぱい食べさせて、飲ませて、士気だけは下げない様に気をつけつつ【訓練】だ!
そんな折、ちょっとした隙間時間で【旧都】の一番奥、小さな森の中にある遺跡に案内された。
「隊長、ここが我らの祖が【帝国】統一を誓った霊廟だ」
「うん、何でもいいけど皇帝が一人でフラフラ出掛けてていいの?」
「一人ではない、隊長もいれば、憲兵総監もいれば、幕僚総監もいるし、秘書もいる。問題ない」
そういう事じゃないんだけどな~。本当にこのヒトどんどん自由になってるよ。
「まあいいや、それで何で自分をここに連れてきたの?」
「うむ、やはり【帝国】は分裂しててはいかんと言う気持ちを新たにする為、隊長に一度は見ておいて欲しかったからだな」
「ここに白竜がいて、その誓いを聞いて手伝ってくれたわけだ。それで一旦眠りについて、また起きたら内乱と……中々大変な存在だね~」
「実際にはこの霊廟の最奥に辿り着き、願い出たとか。今でもこの霊廟は魔物の巣になっている」
「何でまた白竜の住む霊廟が魔物の巣になっちゃうんだかね。あれか、闇雲に白竜に会いに来るヒトがいると困るからか」
「そうだろうな。それで白竜様の事だが、確か隊長は白竜様がどのような存在か知りたがっていただろう」
「そうね。あの時は何も言わずに殴っちゃったけど、やっぱり出来るならちゃんと話し合いたいもんね」
「多分、白竜様は許されるだろう。ドラゴンとは戦う為に生まれてきた存在らしい。それ故ヒトが強くなる事を目的とされ、その為に我らを庇護し【帝国】統一を助けてくださったとか」
「ああ、じゃあ寧ろ力を示した方が気に入られるパターンかな。それで?今は初代皇帝って呼ばれてるけど、権力のほうはどうなの?」
「詳しい事は分からないが、何しろ超越的存在ゆえ興味無いのではないか?神の意思に沿ってヒトを多く生かせる道をとったのだろう」
「脳筋か~。流石【帝国】の超越的存在。まずは拳で語れってやつか~」
「うむ、白竜様はドラゴンの形態の他、ヒトの形も取れるらしい。超越的存在の中では珍しいが、それだけヒトに近しい存在なのだろう。願い出ても許される、大らかな存在だ」
「まあ、超越的存在が大らかなのは、共通するけどね。霊鳥にせよ霊亀にせよ世界樹にせよ」
「それでだ。我らの先祖はこの霊廟を踏破した事で白竜様に認められる事になったが、国務尚書は多分ソタローを使って……」
「なるほど、ソタローが再び踏破して願い出たから白竜も力を貸したって事か、じゃあ完全に向こうの味方か……」
「ところが、そうでもない」
「何故?」
「皇帝の剣を国務尚書に渡していない。それを渡されたら、降伏する他無かったのだ」
「そんな大事な物なんだ?」
「ああ【帝国】の民の為に神より遣わされた神剣だ。【帝国】統一の後この国の象徴となる筈だったのだが、ずっと白竜様に委ねられていた」
「当初は白竜が初代皇帝になる予定だったんだもんね。そりゃ白竜が持ってるわ」
「うむ、だが先ほども言ったとおり白竜様は政治に興味は無かったようでな。皇帝全権代理の証明に使われる筈だったんじゃないか」
「じゃあ、さっさとそれを国務尚書に渡せば、話は済んだわけだ。何故そうならなかったのか……」
「我らの先祖との約束があったからだろうな。【帝国】を統一して、ヒトを増やし強くすると」
「……戦を終わらせた者が全権代理になるって事?」
「かもしれない。この国の歴史を洗い直して現状と照らし合わせた結果に過ぎない。もし白竜様が完全にあちらの味方だったら……」
「ボコボコにする。レギオン級ボスの魔石が必要になるな」
「ふふ……まさか邪神の化身の力を使って、世界を守る一柱をボコボコにするとか言う奴に全てを任せねばならないとは」
「人生ままならない物だよね~。正直ソタローとの正面戦闘は自信ないけど、お互いの切り札次第かな」
「ソタローは【帝国】の陣形を極めてるからな。状況を見極めて自在に隊列変更してくるだろうな」
「ん~自分は逆に陣形全く出来なくなっちゃったからな~どうなることやら」