601.隊長大いに怒られる
「何をやったのだ!!!隊長!」
「どうしたの?何をしたのか知らなかったら、そんな怒り方しないんじゃないの?」
「それはそうだが……世界を守る一柱である白竜様に、強力な光を発する攻撃を仕掛けたと聞いたぞ?」
「その通り、事実だね。白竜に破滅の光を使った。しかもなんか大技使おうとしたからそのタイミングに合わせて」
「は、破滅の光って、なんて事してくれるんだ」
「自分は予め白竜をぶん殴ることを宣言してたし、なんなら眠らせてやるって言ったじゃん。そもそも白竜って大怪我して眠りに付いたんだよね?じゃあ多分邪神の化身並みの相手と戦ったんだろうから、アレくらいじゃ死なないよ」
「そういう問題じゃない!」
「まあ落ち着きなよ。皇帝の肩書きが台無しだよ?折角中央まで押し返して、敵の兵力は削り倒し、さあ!ココからって時に浮き足立ってたら、将兵達の士気に関わるよ?」
「誰の所為だ!殴るのと破滅の光を撃つのでは話が違う……。そもそも敬っていないだろう?」
「敬ってない事は無いよ。タメ口やめておく?」
「いや、その方がしっくり来るし楽だからそのままでよい……まぁ、やってしまった事は仕方ないか」
「うん、自分何も後悔して無いし、もし白竜が自分に対して怒るようなら、徹底的にやり合うよ」
「……、何でこんな奴を頼ったんだろう……。世界を守る一柱相手に折れる事を知らないとか……」
「まぁ、いいじゃん。自分の目的を達する方が先になっちゃったけど、いよいよもって宰相殴るターンじゃない?」
「そうだな。まだ潰せる街はあれど【旧都】【帝都】の二つを押さえれば、完全にこちらの勝ちだろう」
「問題はどっちで決戦するかだよね」
「ふむ、確かに今の都は【帝都】であり、この国の中心である事は間違いないが……」
「元々この国の大本は【旧都】だよね?白竜が眠ってた場所って、まさか宿屋のベッドじゃないだろうしさ……」
「霊廟か」
「霊廟って普通は祖霊とかをまつる物だけどね?」
「長き眠りについた白竜様だぞ?生きていると伝承に残っていてもだな……」
「まあ、本当に生きてるか調べる術も無いか。そんなちょろちょろヒトが入りこめちゃ困るだろうし」
「そもそも調べるというのが、不敬だろう?」
「そりゃね。ぶん殴った自分が言うのもなんだけど。まあそういう事だからダメージを負った白竜がどこに運び込まれるのか、三羽烏に後をつけさせてる」
「周到だな。それまでにこちらは戦力を整えておくといった所か」
「そういう事。落とせる街はとっとと落として失地回復、それに伴ってこっちの陣営が膨らんでいくだろうから、陣容を整えていこう。じゃ!」
皇帝と今後の擦り合せを終えて【古都】を少しぶらつく。
すっかり平穏になった都。内乱の事など忘れたかのよう。
ただ【兵士】達だけが少々あわただしく働いているといった所か。
フラッと【訓練】場前を通りかかると、
「おっ!隊長いい所に来た!ちょっと寄っていけよ!」
「教官!久しぶり!あれ?軍務尚書と憲兵総監まで、どうしたんです?」
「久しぶりですね。まあいいからこちらにお越しなさい」
「はあ、いや~懐かしいですね。お三方に【訓練】をつけていただいたのもいつぶりか」
「久しぶりにどうですか?軽く汗を流すのも悪くないですよ。考え事ばかりでは体に悪いでしょう?」
「ああ、確かにたまには【訓練】ってのも乙ですよね~。じゃあよろしくお願いします」
言うが早いか、三人に取り囲まれてしまった。
各々武器を手にして、すでに殺気は十分だ!
「どうしたんです?そんな殺気立って」
「思い当たる事は無いですか?」
言うが早いか憲兵総監の打ち込みを避け、避けた先に突き込んでくる軍務尚書のナイフを持った手を<掴む>が、
教官が首を狙って水平斬りに払ってきたので、仰け反ってかわし掴んだ手は離してしまう。
「えっと……皇帝にため口なこと?」
「いいことではないですが、今更ですね」
軍務尚書の突きを腕を押さえて止めようとすれば、軌道が変わり、転がって大きく逃げる。
教官の蹴りが自分の頭を掠めるが、銃を引き抜いて照準を合わせて牽制。
どうやらすでに教官達は銃を理解しているらしく、照準が合わないように動き回るのだが、無駄の無い滑るような動きで逃げられ、寧ろその動きだけで脳が錯覚を起こしそうだ。
「じゃあ、なんですか?」
「白竜様を殴ると息巻いて、一発ぶちかましたとか?」
「そうだけど?はじめからそう言ってるし」
「世界を守る一柱に挑む意気や良し!ただ今回の事で、白竜様も本気になった筈だ。敵対する事になれば生半可な事では済まないぞ?」
「それは自分が徹底的にやるってば」
「俺達3人程度に翻弄される腕でか?お前がもし折れたら誰が白竜様の相手をすると思ってるんだ?」
「じゃあ、今回の原因を作った白竜に何もしないで、ただ神輿を担げっての?」
「そうじゃない、お前がそれをできない事くらい分かってる。だからせめて俺達を圧倒して安心させてくれ」
「いざとなれば、幾らでも力を貸しましょう。だから半端な事をしてはいけませんね」
「かの白竜様を殴るんだ。ここで徹底的に自身を追い込んで、折れない心を作っていってもいいだろう」
こうして、久しぶりの師匠sにぼっこぼこにされる代わりに、次は不意打ちじゃなく正面から白竜にぶち当たる覚悟を決めた。