596.【王国】騎士団は結局受難に見舞われる
「あ~~~どうしてこうなっちまったかね~!」
「何だ赤よ。また文句か?」
「そりゃ文句も出るだろう。ソタローとの誼で宰相陣営に付いたものの、巻き返されそうってんだぜ?」
「勝ち馬に乗ろうと言い出したのは赤!あなたですよ!押されているなら押し返しましょう!その為に雇われたんじゃないですか?」
「何だ白?地下ダンジョンの時は普通に話してたのに、またその喋り方に戻ったのか?」
「戦争だから、策士っぽさを出したくなったとかそんな所でしょう。それよりも巻き返された原因は隊長にあるとか?」
「らしいな。何処かにフラッと姿を消してたと思ったら、フラッと戻ってきてほぼ負け確の元皇帝派について、巻き返しちまった。隊長が向こうに付くなら俺も考えたんだがな~」
「ソタローは戦巧者だが、隊長は周りの状況環境も利用しつくすからな」
「財力もコネもある。悪知恵も働くし、敵に対して一切の容赦も無い。戦争なのに戦う以外の搦め手でハメてくる。本当に最悪に頼りになるやつだよ。仲間ならな」
「ふぅ、まあ隊長相手じゃ策士気取ってもダサいからやめるけど、それでもこっちに付いた以上、一戦一戦勝ち続けるしかないんじゃないの?それで最終的に陣営が負けても俺たちの所為じゃないし、俺たちの評判は俺たちの実績で語るしか無いじゃん」
「まっそりゃな!ダンジョンで戦闘漬けだった俺達の今の実力を見せ付けてやりたいのに、今まで出番なかったからな」
「切り札として温存しておいたと言われましたが、じゃあここで切る札なのかという所が疑問ですわね」
「ああ、何しろ大河側から【古都】を攻めて、なにやら新兵器でボロクソにやられたんだろ?俺達が大河沿いを侵攻したら……」
「二の舞だろうな。つまり体のいい囮という事だ。馬鹿にされてるな」
「ソタローはそんな事しないんだろうが、あの宰相ってのが食わせものだよな。どうしたもんかね~」
「最初から囮だって言われてるんだから暴れまわればいいじゃん!【古都】を攻めれば新兵器でやられるんだから、そこらの町とか村とか暴れまわって奪い返しまくれば?」
「なるほどな!大河沿いを侵攻しろとしか言われてないんだから、近隣の拠点になる町村を攻めても何も言われないよな!下手に策士のフリするより、余計なこと考えない方が頭回るんなじゃないか?白は!」
「全くですね。腕は立つし、脳筋的に動けばそれなりの戦果を上げられるのだから、普段からそうすればいいのです。ところで、また馬が通れそうも無い深雪地帯ですわ」
「全く!なんで大河沿いの主要路まで雪に埋まっちまうかね!全隊馬を下りて引いて進むぞ!」
【王国】の馬では到底進みかねる【帝国】の豪雪地帯、何度も馬を下りストレスの溜まる状況。
そんな折、遠くから飛んでくる矢が一人のクランメンバーの右目につき立つ。
急いで戦闘態勢を取るも、敵の姿が見えない。
ただでさえ雪深い地で、さらに街道沿いには深い森のような木々が生え、大よその方向は見当が付いても、敵を目視することは叶わない。
矢が飛んできた方向を幾ら睨んでも埒が明かないと、一歩踏み出した瞬間に、矢の雨が降り注ぐ。
すぐに防御を展開するも、騎士達の乗っていた馬は軒並みその場に倒れてしまった。
それでも敵のおおよその方向は分かったと両足で進みはじめる者が出てくるが、
そもそも深い豪雪地帯、その歩みは遅い、走ろうと思っても足が取られて到底不可能。
木の上でも走れればいくらか違うのだろうが、誰がそんな曲芸を可能とするのか?
それでも、相手に近寄らねば戦えないと、武器を手に盾を構えて進む勇敢な【王国】騎士団。
しかし無情にも一人また一人と倒れ伏してしまう。そんな中、
「おいおいおいおい!何チンタラやってんだよ!結局俺がいなくちゃ駄目か!」
それまで一言も喋らなかった黒騎士が、雪の上を滑るように駆け始める。
軽装で偵察を得意とする黒騎士がこんな時は頼りになり、少しでも状況が良くなればと信じたのも束の間。
あらゆる矢の射線が集まりハリネズミのようにされてしまう。
矢を射掛ける側からすれば、偵察型の黒はトラップによる足止めも効かず、動きも早い天敵。
裏を返せば盾を持たぬ軽装甲の相手、攻撃力を一点に集めて早目に狩ってしまった方がいい。
黒に攻撃を集めている間、騎士団の他の者も間合いを詰めてくるが、地形が邪魔をするおかげで歩みは遅い。
騎士団員が森にさしかかれば、そこからが本当の狩場。
ただでさえ歩みが遅く視界が悪い中、無数のトラップを張り巡らせ、隠蔽状態からの狙撃。
これが平地なら一瞬で蹂躙されてしまうであろう。弓使いだらけのクラン『六華』は地形、罠、隠蔽を駆使して一方的な狩りを展開。
折角出番の回ってきた王国騎士団は成すすべなく蹂躙されてしまう。