593.焦るソタローと宰相
「宰相、なんで自分を【古都】殲滅戦に加わらせなかったんですか?正直このままだと勢力を盛り返されますよ?」
「それは何度も説明した筈ですよソタロー、あなたは勝ちすぎました。今後のバランスを考えれば、あの者達に手柄を立てさせねばなりませんでした」
「それで失敗していては元も子も無いでしょうと、自分は言ってます。相手はあの隊長。奇策をさも常道の様に使う相手ですよ?」
「ならば、あの雪崩や新兵器にソタローは対応できたというのですか?」
「無理でしょうね。だからこそ慎重に事を進め、被害を最小限に出来た筈ですけど」
「それは結果論に過ぎません。確かに隊長の危険性に一番警戒していたのはソタローあなたですが、それを説得するすべも持っていなかったのですから。しかしここに至って、皆もあなたの言葉に耳を傾けるようになったでしょう。ここから巻き返しましょう。結局私が一番信じているのはソタロー、あなたですよ」
「失礼します!!!報告!カトラビ街が占拠されました!」
「何ですって!敵勢力はどれ位いたのですか?かの地は難攻不落、部隊が駐留するだけで、当分は保つ筈なのに」
「隊長ですかね?」
「はっ!その通りであります。隊長単独で、絶壁を踏破!カトラビ街を維持していた【士官】を暗殺し、そのまま掌握したとの事」
「敵大将自ら暗殺とはなんと品の無い……」
「それが隊長です。自ら手を汚しておいて、一点の心の曇りも無いサイコパス。今頃街の者に食事でも作って大喜びで振舞っているでしょう」
「その通りであります!カトラビ街では現在宴会が開かれておりますが、いかがしますか?今なら再占領も可能かと」
「無理ですね。寧ろそちらに手を取られている内に、他を落とされかねません。【旧都】に人を回して防衛に専念させてください」
「しかし【旧都】はすでに食料が心許ない筈です。何度も支援要請が来ていますが、こちらもいっぱいいっぱい……」
「食料については心配ないという事では?」
「戦前はそうでした。しかしあの隊長が戻ってきてから【王国】に【森国】とこぞって何かと言い訳をして食料の輸出を渋ってきましてね」
「こちらが食料に困っているから足元を見ているとかでは?」
「それなら幾らでも出しますよ。何しろこちらの支持母体は西側商人達、お金だけはあります」
「じゃあ、大河を使って【馬国】とかですか?他国のことは詳しくないですけど、食料なら【馬国】では?」
「ソタローは大河を治める者達のことを知っていますか?大河はどこの国にも属さない国境なのですよ。そしてそこに住む者達も各国で生きる場所を失った者達」
「それが何だと言うのです?」
「隊長と何故か反りが合うのですよ彼らは……指名手配になった時も同情的だったという噂ですし」
「仕方ないですね。ここは自分が【旧都】に入り、せめて指揮だけでも崩壊させないようにしましょう」
「そうしてくれるか?出来るだけ早く、次の侵攻計画を立てよう。そして次は一気呵成に【古都】を攻め潰そうじゃないか」
「失礼します!黒の防壁も敵側に付きました!」
「どういう事です?あくまで中立を守り、民衆の為に戦うと言っていた筈ですよ。あそこの指揮官は!」
「それが、あそこに詰めている大半の者が農家出身でして、隊長に家族が飢えている所を助けてもらったからと……」
「くっ……ここにきて兵力増強の為の一手が裏目に出ましたか」
「それこそ隊長でもいなければこの状況はひっくり返せなかった筈なんですけどね。何故隊長と組まなかったんです?」
「それはああいった方が好きじゃないからですよ」
「なんだかんだ、腹黒い所も他人の為に動く所も似ていると思ったんですけどね」
「やめて下さい。私は嫌いな相手を追い落とす為にやっているだけですよ。他人を理由になんかしません」
「そういう己の思いを誤魔化す様な事を嫌う所も」
「それでも力があるなら立ち向かうべきだと私は思いますし、嫌だからと逃げ回るようなことはしません」
「分かりました。自分も乗りかかった船です。最後まで諦めません。出来るだけ早い決戦計画の策定をお願いします」
「分かってます。可及的速やかに進めましょう」
「ところで、話が変わるようですけど、何でこのタイミングで陛下を追い落とそうと思ったんですか?」
「ソタロー……あなたのおかげで、白竜様を復活できると知ったとき私は震えました。このときが来たと、まさに天の時だとね」
「天の時ですか?」
「ええ、天の時、地の利、ヒトの心。何かを成すにはこの三つが必要不可欠と言われています」
「そうですか」
「天の時は白竜様復活、地の利は豊かな西側商人が私の後ろ盾である事、ヒトの心は……」
「今の軍国主義を好んでいない者達がいた事」
「そういう事です。結局皆隊長の用意した目の前の食事に目が眩んでしまった」
「そうでしょうか?寧ろ食事を奪われた事を恨みに思ったのでは?」
「その可能性もありますか……」