587.幕僚総監も大概性格悪い
「と、言うわけで各国のすれ違いから大きな不幸に発展する前に皆様にご協力願いたいのです」
かつて邪神の化身を倒すため魔物を駆逐した挙句、主要貿易路となった大道。
今はその道が出来た事件から天使大路と呼ばれる道沿いの町はすでに街となっていた。
そこの街の中でも特に有力な者達が集まる一角で、今話題になっている希少物産の話し合いが設けられた。
「そうですか、隊長様が困ってらっしゃるのであれば、私はかの物産に関しての利権一切から手を引いてもよろしいですわ」と年齢不詳の美しい女性
「流石レディ、隊長はきっと喜ばれる事でしょう」
「いやいや、お待ちくださいレディ。大きな利益の出るものから頂かなくては我々は食い詰めてしまいます。隊長殿は確かに武勇に優れ慈悲深いお方だが、商売と言うものを分かっていない。商人が利の無い話に乗るわけ無いでしょう?利になる話であればいつでも伺いますとお伝えください」と小太りの【王国】商人
「お待ちください!この物産は【砂国】において今後もずっと必要とされ続ける物なのです。どうかご協力いただけまいか?」と【砂国】の次世代を担う族長の息子
「でも、それは結局我ら商人に涙を飲めと言っているのとかわりませんぞ?」
「【海国】でも協力したいのは山々ですが、やはり我が国でも重宝されているものでして、どうにも……」とかつて海賊に占拠された街を隊長に解放してもらった若き領主の息子
「ふむ、仕方ないですね【砂国】の皆様には我慢を強いる事になってしまいますが……」
「ぐぅ……確かに今まで無かった便利なものが少量と言えども入ってきたのが、隊長のおかげと言われれば飲むが、しかしこの便利さに触れた今、ただ我慢しろと言うのは……」
「ええ、ですので隊長から預かってきたこの糸は、通常価格で全てお譲りするとの事。因みにこれは原産地である根の国に貯蔵されてたものを根こそぎ貰ってきたそうです」
「え?ええ?……え?まずこの糸の産地は【森国】ではないのか?しかもこの量!しかも値段もそんなに安く!今【帝国】は大変なことになっているであろうに、そんな良心的な!」
「詳しぃ事を言ぇば迷惑のかかる者もぃるでぁろうぅが、誰にでも生産できる糸ではなぃのぉ」
「更に隊長の計画を伝えるので、なんとか当面は我慢して欲しいとの事」
「当面?」
「ええ、この状況を解決する方法をすでに隊長は持っておりました。まず何でも【海国】は染料染め、【砂国】は顔料染めの物が本来のニーズに合うとか?」
「それは、そうです!我が【海国】では【森国】の草木染めの反物は人気がありますので」
「確かに、我が国では自国の物と【鉱国】で取れる石を顔料にして染をしている」
「ですので、生産拠点を二つに分け、それぞれから供給する計画があります。【森国】から【海国】コレはこれまで通り、原産地である根の国から【砂国】ルートの開発を内乱をおさめ次第行いたいと隊長は申しておりました」
「そんなことが可能なのか?」
「ええ、何でも根の国は鉱物資源が豊富らしく、基本顔料染めなのだとか。そして根の国は大霊峰の向こう側。火山帯を抜けるルートがあるのではないかと申してました」
「何を言ってるか!未だポータルでしか行った事無い場所の正確な位置が分かるものか!」
「そのポータルを解放したのが隊長なのですよ。あの大霊峰を越えてね。ところで【砂国】の奥地には火山帯はありますか?」
「ああ、寒さの苦手なリザードマンの故郷があるとか聞いた事あるが、普通では耐えられぬ土地だぞ?」
「やはり、火山帯があるのですか……、多分隊長なら抜けるでしょうね」
「ではこの路をこの物産が通ることも……」
「無くなるでしょうね。さらに北周りのルートもあるかもしれないとの事なので【帝国】直通ルートも出来るかもしれませんね」
「くっ!新規地区からの利益を独占か!鉱物が出るなら【鉱国】が黙ってないのじゃないか?なんなら大霊峰が邪魔で取引できない【馬国】だって!世界に混乱を齎す事になるようなら、調整役の【教国】だって黙ってないだろう!」
「どうされました?利の無い話に興味はないと思ってたのですが?すでに【鉱国】と【馬国】にはヒトを送っているそうですよ?さらに隊長の役職をご存じない?【教国】の第13機関長ですよ?」
脂汗をかきながらレディにすがるような視線を送る商人。
「そうねぇ、幾ら隊長様の事業とは言え【王国】だけ無視と言うのはね?」
「ええ、隊長はレディにとても深い感謝をしておりました。以前船を頂戴した事はくれぐれも礼を言って欲しいと、その上でまた我侭を聞いてくれないか?と」
「あらあら?」
「ええ、実は根の国の上には天上の国と言う、海に船を浮かべて住む人々がいるのだとか。そこの居住区を増やす為に木と鉄を【帝国】から持ち込むつもりらしいのですが、船が大量に必要になるので造船に強いレディと【海国】の方々にご協力いただきたいと」
「あら~【海国】と協力してなのね?まあ独占は良くないものね~、どうしようかしら?」
「あと、もう1個我侭を聞いて欲しいと、いずれ【闘技場】決闘王戦のプロモーションもお願いできないかと」
「あらそう!もう!殿方は本当に我侭で困ってしまいますわ。でもそれを受け入れるのも器かしらね。特に隊長様と言う世界有数の御方を受け入れるには、やはり私ではなくてはなりませんね」
レディの顔が赤く上気し、ワクワクが止められないと言う風情に【王国】商人は観念した。
「我らはどうすれば隊長殿の新規事業に一枚噛める?」
「隊長は兵糧と民に配る糧食について気にしていたようですよ」