584.前哨戦は口喧嘩
取りあえず、追い出されても困るので天上で作った制服を着て【帝都】の宮殿へ。
正直な所好き好んで近づく場所でもないし、勝手が分からない。でも声を掛けない事には始まらないか!
「たのも~~~!」
「おい!やめろ!馬鹿かお前!ここどこか分かってんのか?」
「宮殿」
「知ってるじゃねぇか!はぁ……思わぬ出来事につい地が出てしまったが、忘れてくれ。どういった御用向きでしょうか?」
「初代皇帝陛下に会いに来た」
「えっと……御約束は?」
「無いよ?」
「御用向きは?」
「殴る!」
「帰れ!アホ!帰れ!二度と来るな!」
多分この門番は悪い人じゃないんだろうな。あからさまに失礼な事言ってるのに、帰れ!で済ませてくれるとか、さ。
「ふむ、何事だね?」
「お騒がせしました。宰相閣下のお手を煩わせる様な事ではございません。すぐに引き取らせますので」
ふらっと背後に現れた人物は国務尚書。
数名護衛らしきヒトを連れているようだが、いずれも手練っぽい。緊張はしていないようだが、自分に対してかなり警戒している様子が見て取れる。
「いや、我が屋敷に招待しよう」
「初代皇帝陛下にお会いする事は?」
「それは叶わんな。だが私にも話があるだろう?」
黙って国務尚書の後ろを付いて歩き、
思っていたよりはずっと質素というか、しっとり落ち着いた風情の屋敷に通された。
「中々落ち着いた調度品ですね。割と好きな趣味ですよ」
「そうかい?まさか褒められるとは思っていなかったが、素直に受け取っておこう。それで?」
「初代皇帝に会いたい。そして【帝国】をどうしたいのか話を聞きたい」
「皇帝陛下は乱を治め国を統一し、ヒトが繁栄する事を御望みだ」
「それならそもそも乱を起こさなければ良かったよね?まあそれに気がつかない白竜様でもないんだろうから、大方白竜様のイメージではヒトは争うものだとか、そんな風に思ってるんじゃない?」
「ふむ、流石宝樹様はじめ霊鳥様や霊亀様達とも交流があるだけあって、超越的存在の物の考え方は何となく分かるか」
「現皇帝も多分白竜様の下になら黙って付くと思うんだよね。それを敢えて民を苦しめてまで、乱を起こしたのは何でなの?なんなら自分が白竜様に直接会ってこの内乱の仲裁に入る事すら嫌なんでしょ?」
「そうだな出来れば他国に落ち延びて貴族として生きるか、あの性格だ河族としてだってやっていけるだろう。この国には関わらないで欲しいな」
「だから、何故さ?」
「腹芸の出来ない男ですね。まあ端的に言って嫌いだからですよ。嫌いな人間の下風に立ち続けることのなんとストレスの溜まる事か」
「ふふ……なんか気が合いそうで嫌な奴。ソタローにはそんな事言ってないんでしょ?なんて言って丸め込んだの?」
「丸め込んだなどと言うことは無いですよ。彼は優秀だし上っ面の嘘などすぐばれる。ただ、彼の願いや望みを聞いて、それを叶える方法を提示しただけです」
「なんかアレだって?皆が好きに夢を追えるようにとか」
「ええ、初代皇帝陛下がいてくだされば、確実に軍縮は可能ですから」
「それにしたって、ワザワザ国を割って昨日まで同国人として手を取り合ってたヒト達を戦わせて、挙句飢えさせてどうするつもりなの?」
「それについては私は国民に選択肢を与えてるのですよ。国を富ませる事を目的とした私に付くか、国を強くする為に軍拡を図る前皇帝に付くか。ただ上の意思によって振り回されるより、自分たちで決めた方がよっぽど納得いくでしょう」
「だからって、やっていいことと悪い事があるじゃん」
「権力者には会いたくないとはっきりいい、敵を追い詰めるのに手段を選ばない。そんなあなたが子供の様な事を言うのですね」
「あんたは理想を口にする割には外道みたいだけどな」
国民を飢えさせる様な事をしているのはムカつくが、やり口は割りと納得出来るって言うか、分かっちゃうんだよな~効率いいの。
自分に置き変えて嫌いな相手追い落とすのに手段を選ぶか?それも普通じゃ手の届かない相手、千載一遇のチャンス。
ぶっ潰すよな。
ここは組んじゃうか?組んでとにかく早急に飢えてる民に食料配布。戦後の開発には当てがある。
なんなら戦後もたらされる利益を軍拡に使われるくらいなら、この宰相と組むのもありなんじゃないか?
「話は以上ですか?」
「いや、あんたはどうしたい?」
「ふむ、宰相としてこの国を富ませ、発展させたいですね。食い詰めて已む無く軍に入るような国民のいない。真に恵まれた国にしたい」
「……、建前はいいよ。それじゃ自分は動けない。あんたは何をしたい?」
「ふふ、あなたの力は借りませんよ。誰もがあなたを求めるとは思わないで下さい。はっきり言いましょう。力がありながら嫌な事からすぐ逃げるあなたのようなヒトも好きじゃないですよ。私は」
「……ふぅ……こりゃ一本とられたな。分かったじゃあ自分の望みを言うわ。これから商人に掛け合って食料を買い戻して一般国民に配布しようと思う。勿論兵糧にはしない。だから買い戻す邪魔をしないで欲しい」
「ふむ、正直あなたの一個人が持っていちゃいけない程の莫大な財は懸念材料でしたから、それを削れるのなら助かりますが……、もう一声」
「戦後の事だけど、もし自分が負けたとしても他国から圧力を掛ける様な事はしないよ。口約束だけど」
「十分!もし反故にすれば、味方を増やす理由が出来ます。都合がいいですね!分かりました。どうぞお好きに商人と交渉してください」
こうして、国務尚書邸を辞するとそこにはすぐにソタローが佇んでいた。
「隊長……随分と遅かったんですね」
「まあ、こっちの情報が入らない場所にいたからね」
「どうするんですか?宰相邸にいたって事はこちらに付く?」
「いや自分は宰相殿に嫌われてたよ。だから取り敢えずは商人と交渉して食料を買い込もうかと」
「向こうの陣営に持ち込むんですか?」
「いや、何言ってんの?巻き込まれた民に配るに決まってんじゃん」
「そうですか、じゃあ自分も付いて行きます。ずっと飢えたヒト達の事は気がかりだったので……それにしても、宰相閣下が隊長を嫌いだったなんて……気が合いそうなのに」