583.聞きましょう言い分を
「久しぶり兵長、皇帝は?」
「陛下だろ?……お前がどういう奴かはよく分かってるがな、俺にも立場があるんだ一言言わない訳にはいかんだろ」
「宮仕えも大変だね。外の惨状見て黙ってられる性格じゃなくて悪かったね」
「ふん!別に俺も似たような気持ちさ。どうする気か知らんが、好きにしろ【座学】用の部屋にいるぞ」
「ありがとう。話聞いてくるよ」
「おう、まあ元気そうで何よりだ」
そして【座学】を受け慣れた部屋へ。一応ノックするとすぐ返事があったので、入室。
最初に口を開いたのは幕僚総監
「久しぶりだね隊長。帰ってくるなりこんな状況で申し訳ないね。折角君が邪神の化身討伐の指揮を執ってくれたおかげで世界的に発言権が増したというのに……」
「別にそういう事には興味ないし、別にいいよ」
「そうだね、君が怒ってるのは食い詰めてる難民の事だろう。我々も割けるだけの兵糧は出しているんだが、なにぶん量が量でね」
「やっぱりここには食うものは無いっと……国務尚書のところに行くしかないか」
「君は国務尚書に付くのかい?」
「いや、決めてない。取り敢えずは皆がご飯食べれるようにしないとさ」
「そうか……変わらないね君は。他人がどうしたいのか。そればっかりだ」
「今はやりたい事出来たよ。でもこの状況じゃ出来ないから、皆にご飯食わせてから考えようと思って」
その時憔悴して黙っていた現皇帝が口を開く。
「隊長……私の……いや俺を助けてくれないか?」
「皇帝はどうしたいのさ?」
「隊長、陛下だ」
「よい!民を路頭に迷わせる様な為政者には敬称なぞ付けなくてよいのだ。しかしこのままでもいられぬ」
「細かい事情が分からないんだけど、なんで皇帝は追われたの?初代皇帝が即位するのに邪魔だから?でも相手は世界を守る一柱だよね?ヒトとは存在の格が違うよね?」
「ふむ、初代皇帝は私の先祖だが、それは【帝国】統一直前で強敵が現れた為白竜様が離脱したからなのだ。本来なれば白竜様を皇帝に戴き、私の先祖が武を国務尚書の先祖が文を司り分ける手筈だったそうな」
「まだ戦争が残ってたから武の皇帝の先祖がそのまま即位したって事ね。でも大昔のわだかまりを今になってもってのはおかしくない?」
「何代も格下に置かれていた事にわだかまりが残り続けたのか、はたまた私……いや俺の事が嫌いなのか」
まあ、軍を握られたままってのは気持ち悪いだろうし、一掃したかったのかもね。
それにしても大胆だよな国務尚書も、普通こんな状況になるなら初代皇帝だって黙って無さそうなもんだけど、説き伏せる自信があったのか、
はたまた超越した存在である白竜は物の見え方がぶっ飛んでるから、そもそも気にしてないって可能性もあるか。
「それで?皇帝はどうしたい?」
「この様な内乱を起こして民を苦しめる国務尚書を追及したい。別に俺の地位などいいのだ。そもそも都合上皇帝の地位に就きそのまま代々引き継がれただけなのだからな。だが民を苦しめるような者を為政者として上に置く事は許されん!」
「……それじゃ駄目だね。自分は動かないよ。でも世話にはなったし、最初に助けてくれって言ったから、一旦国務尚書の話を聞いて、それ次第ではもう一回話を聞くよ。それまでにどうしたいか考えておいて」
「隊長……」
「いつも言ってるじゃん偉いヒトって苦手なんだよ。建前で話をしてそれで事が進むと思ってるから!結局は自分がどうしたいかじゃないの?偉そうなこと言わないでよ」
まあ本当は自分もそれなりの地位だし、建前で話をしなきゃいけないのかもしれないけどさ。如何せんそういうの苦手だし、嫌なんだよね。
勿論理想を掲げて具体的に活動するならそれを否定したりしないよ?
でも、本音を隠してうまい事自分の利益にしてやろうってのは知らん。
他人を利用するなら堂々とこういう事してくれって言うべきでしょ。後は報酬次第で相手が受けるかどうかじゃないの?
まあ、いいや!兎に角ここにいてもご飯は手に入らない。行くべきは国務尚書の所だな。西側の商人から食料を買い付けられるように交渉する。それが最優先だ。
【座学】の部屋を出て、兵長の所へ。
「国務尚書ってどこにいるのかな?」
「【帝都】にいるぞ。何だ向こうに付くのか?」
「いや決めてない。話を聞こうと思ってさ。後は食料を何とか買い付けたいと思って」
「食料は向こうの交渉の切り札だし無理じゃないか?」
「まあ、そこは話次第だよね。民には商人も含まれると思うし、食料が値崩れして商人が食い詰めても可哀想だからね」
「場合に寄っちゃ、値崩れするほど食料買い付けてくるつもりかよ」
「あのさ、自分が何者だと思ってるの?大陸を股にかける【輸送】隊だよ?このまま無所属で盛大に炊き出ししてもいいんだよ?」
「盛大な炊き出しね~。お前さんのやらかしそうな事に震えが止まらんよ俺は」
「自分で言うのもなんだけど、金も権力もコネもあるよ。それを盛大な炊き出しとか言うくだらない事に大いに使い込んだって、自分の自由だね!」
「本当に最低な奴だよ。全く最高に面白そうだなそれは……」