582.内乱の状況と難民
炊き出しのし過ぎで、ぐったり……流石に休みたいなって思ったけど、一応事情を聞かないわけにもいかない。
【古都】にあるラズノースの店で話し合い。
「それで?なんであんな炊き出しが必要になっちゃったの?ソタローがご乱心で街という街を焼き払ったって言うなら自分が報復として【帝都】を邪神の化身の力で消し飛ばそうか?」
「まあ、そう過激な事を言うな……ソタローは良くやってるよ。争いは最低限だし、理想の【帝国】像を説いて回って被害を減らそうとしてる」
「それは、偉いな。それでどんな理想なの?」
「今までは貧乏人は食い詰めて軍に入るしかなかったろ?初代皇帝陛下が復活された今、軍縮を行い余剰の予算で少しでも民の暮らしを向上させて、皆が自由に夢を追える様にしようって」
「要は職業選択の自由って事?」
「そういうことだな。立派だろ?」
「そりゃ、立派だけど……難民が出る理由と現皇帝が追われる理由が分からないかな」
「皇帝陛下だろ!一つは性悪宰相閣下が自分の支持母体である西側商人に事前に食料の値段が上がることをほのめかして、買占めに走らせたことだろうな」
「その辺の感覚が分からない農民達は作物がいつもより高く売れる事にころっと騙されて、今度はさらに高値で買わなきゃならなくなって、挙句食い詰めたと」
「正解……まあこの辺りは生き字引のミランダ様やメリーさんが家族で食べる分だけは残しておけって、厳しく言ってたからいくらかマシだったんだがな」
なるほどね。食料をたんまり持ってる国務尚書側は難民を兵力として吸収できる算段かな。
多分軍は割りと現皇帝支持寄りだろう。そもそも軍縮を唱える国務尚書を軍幹部が快く思うわけ無いもんな。
まあ、現皇帝側も将ばかりいたところで船頭多くして船山登る状態か。
元々【帝国】ってのは西側は海もあって商人が多く栄えてる。逆に東は農村や木々の伐採や鉱山採掘みたいな肉体労働関係者が多い。
皆が富む事を唱えて人気取りをしつつ、実際には食いたきゃうちの軍に来いとは性悪だな確かに。
ふーむ、でも普段の【帝国】食料生産量と物流量じゃ足りないもんな。じゃ無きゃ輸入に頼ったりしないし……。って事は短期決戦か……、次の一戦次第で……。
「食料輸入の状態ってどうなってる?」
「なんだよ。急に考え事を始めたと思ったら、今度は藪から棒に……、悪いぜそりゃ内乱だからな。普通の商人は巻き込まれたくないだろ?もし他所の国から買い込めるなら買ってるっての」
「私財を崩してまでか?」
「そりゃ、俺は渓谷出身だからここらで商いやらせてもらってる様なもんだからな」
「ふむ、ラズノースはどうしたい?」
「え?そりゃ皆がちゃんと食えて元の仕事に戻れれば一番いいと思うぜ。そりゃ仕事を選べりゃそれもいいけど、別に軍が全部駄目って訳でもないだろ?」
「うん、基本的に神はヒトが強くなる事を望んでるんでしょ?邪神勢力と戦う為に」
「まあ、そりゃそうだな。でも戦うのが苦手な奴もいる。俺とか」
「そりゃね。でも誰かが戦わなきゃ奪われるのみだし、軍縮は多分出来ないよ。幾ら初代皇帝がいるって言っても、魔物が出る度に出張ってもらうわけにゃ行かないんだし」
「でも、それこそ邪神の化身とか強敵が現れたら」
「初代皇帝のみに任せるの?ずっとヒトが弱いままでいいなんて自分は思わないよ」
「結局隊長は何が言いたいんだ?」
「ん?国務尚書は嘘を言ってる。軍縮はするかもしれないけど、そんな大幅なものは出来ない。なのに何故現皇帝を追ったのか?」
「分からんな。一介の商人が知ってる情報の範疇を越えてる気がするな」
「直接聞いてみるしかないか!答え次第でどっちに付くか考えよう」
「え?現皇帝陛下に付くんじゃないのかよ?」
「なんでよ?そもそも自分が内乱に加わる必要も無いよね?なんならヒトを食わせられない為政者なら、両方やっちゃおうか?」
「いやいやいや!そんな反社会的な事言うなら追い出すぞ!」
「まあ、じゃあ誰が政治主導するの?って話だからそんな事はしないけどさ。でも自分ちょっと怒ってるよ」
「本当にちょっとかよ?」
「いや、かなりかな?そもそも偉いヒトと関わりたくないけど、現皇帝はまだいくらかマシだったんだけどね~」
「ふん、皇帝陛下相手にマシとか、よく分からんよ。取りあえず俺は何したら皆が食えるようになるんだ?」
「一応自分が現皇帝と国務尚書に掛け合ってみる。もし会えれば初代皇帝にも言いたい事あるし、何なら殴る」
「いや!それはやめてくれ!世界を守る一柱だぞ?ドラゴンだぞ?ドラゴンってのは戦う事で世界を守る存在だぞ?一瞬で消し炭にされるっての」
「そもそも今迄何やってたのさ初代皇帝」
「何でも深い傷を負って眠りに付いて傷を癒していたとか」
「もう一回眠らせてやるよ」
「いや~やめてくれ~やめろ~」
「そもそも、陛下とか閣下とか、平気で民を飢えさせる様な奴に敬称なんか付けないよ自分は」
「隊長のそういう所が好きだけど、嫌いだよ」