581.第6部 白竜 ~プロローグ~
「え?内乱なんて事になってんの?」
「らしいぞ?噂でしか聞いてないけどな。ただ現皇帝が劣勢で、もしかしたら亡命か流れ者になるのかってな」
「現皇帝って事は相手は誰よ?」
「初代皇帝と宰相って話だな」
「宰相?そんないたっけか?後初代皇帝って……そもそも今何代目よ!」
「【帝国】人なのに何言ってんだ?初代皇帝ってのは世界を守る一柱である白いドラゴンだろ?」
「いやいやいや、自分一応ちゃんと【座学】やってたし!初代皇帝はヒトの筈。白いドラゴンは【帝国】統一に出てくる伝説の存在?あと宰相なんてのはいなかったと思う」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
河族のヒトにたまたまお世話になって、泊めてもらった挙句聞いた話がコレ。
「まぁ、皇帝陛下が地位を捨てて世捨て人になって、行く所無かったらいつでも迎えてやるよ。俺達河族ってのはそういうあぶれものの集まりだしさ」
「分かった、皇帝陛下と直接会う機会があったら話してみるわ」
という訳で、大急ぎで【帝国】へ!川沿いを全力で走って下るのみ。
あっという間に【鉱国】の入り口の前を通り抜け、そろそろ【帝国】ってところで、検問。
「はい!並んでくださいね。ご用件は?」
「帰国かな?」
「ああ、はいはい。今内乱中って言うのは聞いてる?聞いてるよね。そりゃ」
「まあ、それを聞いて急いで帰ってきたんだけど」
「その割りに随分遅いみたいだけどね。詳しい事は言えないけど、ほぼ戦況は固まったし、もうちょっと待ったほうが安全だよ」
「いや~そう?そうかな?皇帝陛下ってどうなりそう?」
「現皇帝?まあうまく逃げられれば、いいけどね。自分も直接面識あるわけじゃないけど、ずっと陛下として慕ってたわけだし……」
「最悪自分が力になれるかもしれないからさ」
「え?皇帝陛下と面識ある方ですか!」
「ああ、うん。隊長だけど」
「失礼しました!現状を報告させていただきます!」
そして、説明してもらったのは、内乱によるニューターの特殊ルール。
まずは、どちらの勢力にも加担してない場合は、割と自由。ただ物流その他かなり制限されてるので何の旨味も無いよと。
どちらかの勢力に所属した場合、命を狙われるし、一回死に戻れば内乱が終わるまで【帝国】から弾かれる。
それはそう。何回でも生き返るからねプレイヤーは。
現皇帝陛下は【古都】の他は渓谷の街、北砦や小さい村町位しか味方がいない状態。ほぼ詰み。
対して宰相勢力はソタロー将軍の破竹の快進撃で、ほとんどの地域を制圧済み。
まずおかしいのは宰相って言う役職名だけど、国務尚書だとさ!初代皇帝がドラゴンなんで代わって親政してるんだって。
そして、ソタローの将軍って言う称号も【将官】じゃ潰しが効かないからって、自分に対抗して宰相が付けちゃったんだって。
まあ、状況も良く分からないし、一旦無所属で【古都】に向かう。
そして【古都】には大行列が出来ていた。
逃げてきたヒトかな?と思い、声をかけたら。
「おい!割り込みか?皆腹を空かせてるんだ!順番は守れよ!」
「いや、列に並ぶのはいいんですけど、何の列なのか聞きたくて」
「あ?見れば分かるだろう?炊き出しの列だ!分かったらちゃんと並べよ」
「いやいや、内乱ってのは聞いてるけど、なんで食えない状態になってるの?焼け出された?」
「ああん?つべこべうるせーぞ!やんのか!」
「こら!何喧嘩してるんだ!皆腹減ってるの我慢してるんだ。イライラしてるんじゃ……隊長?」
「あっラズノース!」
久しぶりに見た顔は渓谷出身の商人ラズノース。儲からないのを承知で【帝国】東部の御用商人をやってる変わり者だ。
「ここじゃ、場所が悪い。炊き出しが終わったら、話をしよう」
「分かった。じゃあ手伝うよ。魚だったらいっぱい持ってるから」
「ああ、助かる。隊長なら大人数分一気に作るの慣れてるもんな」
何がなんだかよく分からないが、腹を減らしたヒトが一杯いて、炊き出しの列を作って待ってるんだから、せめて温かい物を作って出さねば将軍という称号の名折れ!
メインになる食材は少なかったが、調味料だけはあって助かった。天上だとそれこそ調味料のほうが足りなくなってたからね。
って言っても【帝国】の調味料って基本塩と香草だけどね。あとは酢とか?胡椒は今少ないみたい。
まあ、白身魚をオリーブとケッパーとジャガイモと炒めつつ、白ワインと香草で軽く蒸し焼き。
あっという間で簡単に作った筈なんだけど、
なんか、難民が食べるにはお洒落な感じになっちゃった?
ん~あるもので適当に感覚で作ると、こういう事もある!仕方なし!
寧ろ心に潤いが出来ていいじゃん!食事はお腹を満たすだけの物じゃないしさ!
だから皆こっち見んな!
その後、自分の前はひたすら炊き出しの大行列が終わらず、事情を聞くにも随分と遅くなってしまうのだった。