580.いつも別れは突然に
隠し通路を辿っていくと地図の外に出てしまい、そのまま謎の部屋に辿りついた。
その部屋の不思議な所は何故か上の方に空気が溜まっている事。
もし大昔からそこに空気があるなら悪い空気になっていそうなものだが、別段問題なさそう?
よく見ると、水中から気泡がポコポコ浮いてきている。
耐性のある自分だけじゃなく若いエルフも平気なのだから異常は無いのだろうが、どういうことだ?
そんな時、急に脳内に声が響く。
『あっ見つかっちゃった?』
「世界樹様ですか?なんなんです?ここ」
『そこから横穴に繋がってると思うんだけどね。元々いた土地とか宝樹達が気になったから地道に根っこ伸ばしてたらなんか空気入っちゃったの。誰か来てもいいように入れ替えはしてるから大丈夫でしょ?』
どういう状況なのか良く分かんないけど、世界樹も残してきた西の地とか宝樹は気になってたって事かな?
マイペースなのかと思ってたけど、そこは流石世界を支える一柱!面倒見がいい!
まあ、長く生きすぎてスケール感が違うだけで悪い存在じゃないもんな。
「じゃあ、この穴って西側に繋がってるんですか?」
『うん、この穴繋げたらいっぱい西側に水が流れちゃってさ~沈まなくて良かったね~』
やっぱりヤバイんだよ。この手の超越的存在ってさ!やっちゃった!てへ!のレベルが尋常じゃない。
「ちなみにこの部屋から上に直接抜けたりは出来ないんですか?」
『ああ~その方が便利?じゃあその空間の真ん中に伸びてる一番細い根っこを動かしてくれたら、上まで運んであげる』
「だってさ!あの細い根っこ動かせば戻れるみたいだから、皆にはよろしく伝えておいて」
「え?何言ってるんだ?急に」
「自分はこの穴通って西に帰ってみるわ。もしかしたら西側とここを結ぶ通路になるかもしれないし」
「そうか……、じゃあ皆にはまた来るって伝えておくわ」
そう言って、部屋の西縁に向かうと大穴が空いている。本当にどういう構造なのかはさっぱり分からんが上の方には空気がちゃんと溜まってる。
そこになんか木の板が流れてきた。
『使っていいよ。ちょっと剥がれ落ちた樹皮だから』
「使うってどうしろと……」
本当は分かってる。後ほんのちょっと進めば急流になっていて流されるしかないって事はさ。
そして板を使えって事はアレじゃん。ウォータースライダー。
いつもこういうの嫌だって言ってるのに、何で尽く用意してるのかな~。
やむを得ず、世界樹の樹皮を抱え込むように抱き、急流に身を投げ出す。
上から見た時とは明らかに角度が違うと見える急流、完全に落っこちてる!
割れる水飛沫が顔にバチバチ当たり、顔が痛い!仮面をしてなければ目を開けられない!
直線コースからの壁!絶妙に着いた角度で曲がり、曲がり、曲がる!
もう水飛沫で首を安定する事すら出来なくなり、視界がぐらぐら揺れているが、それでも容赦なくスピードが上がり続け、
空洞をひたすら進む。
見た感じかなり広い空洞である事だけは確かだが、なにぶんすでに自分は正気ではない。
構造を確認する余裕なぞ到底ない。ただ只管に押し流される様に、
思わず悠久の歴史に流されるしかない生物の儚さと、紡いで繋いできた命への尊さで胸が一杯になる。
頼むから!ここでは死にたくない!
揺れが、もはや振動としかいえないレベルになり、すでに<気脈術>と<呪印術>は使用しているのに耐えられない!
コレってヒトが受けていいレベルの苦行を超えてるんじゃないの?
あまりに勢いがつきすぎ、水面を跳ね始め、
ああ……もう……駄目だ。
全てを諦めた時、一気に視界が広がり目が外の光で焼かれる。と同時にこのまま飛び出したら死ぬという刹那よりも短い時間での直感。
「誰か助けて!」
『いいよ!』
根住を纏い、外に飛び出す瞬間尻尾で壁にくっつき、事なきを得た。
気持ちが落ち着くまでその状態で硬直し、
ようやっと呼吸が整った所で、抱えていた世界樹の樹皮は鞄の中にしまう。
壁を伝って外に出れば、下は崖。まあ高さはそれほどでもない。
滝から川に変わっている所で、地面に降り立つと周囲は森。
しかし、何となくヒトの手が入っている様にも見える。
散策していると熊が一匹出たので、さくっと倒して<採集>すれば肉だったので、今日は熊肉鍋にしよう!
どこかセーフゾーンでもないかな?とうろついていると、祠がある。
そして、よくよくその付近を観察すれば木陰に家らしきものも何軒か。
一軒の家を訪ねたら、雰囲気的にアウトローって言うか世捨て人って言うか、この感じは……。
「あんたは隊長だな?指名手配の手配書で見た事あるぞ」
「河族ですかね?」
「ああ、大河の源流を奉ってる者だ。なんかあったか?また指名手配とか」
「いや、たまたまあの水源の方から流れてきまして……」
「……はっはっは!噂どおり変なやつだな!上がっていけよ。話を聞かせてくれ」
「じゃあ、遠慮なく。熊肉が手に入ったんで鍋にしたいんですけど」
「いいじゃないか、じゃあついでにうちに泊まっていけよ!」
うん、ちょうど<野泊者>外してたし丁度いいか。怖かったし飯食って寝る。