577.制服完成とお祭り
ログインすると装備屋のおっさんが待ってた。
「起きたか。例のブツが完成してるぞ」
「ブツって物騒な言い方しないでも今頼んでるのって制服でしょ?」
「ああ、そうだ。一揃いできたから持ってけ」
という事で工房に向かい、渡されたのは本当に一揃いの制服。
制服上下にペリース、シャツ、ネクタイ、ベルト、手袋、半長靴、小物用の鞄、拳銃のホルスター、ナイフホルダー、剣鞘。
殆どが黒かグレー、多分グレーの所が精神力を込めると白くなるのかなーって感じ。
装備してみるとサイズはいい感じだし、着心地も悪くない。
「いい感じじゃん?自分は気に入った!」
「そうか……だが残念なお知らせがある」
「え?何?」
「まず剣だが腰に下げるとどうしても重さでずり落ちちまう。肩掛けベルトで保持する形になった」
「まあそれは、この鞄も元々斜め掛けだし気にしないけど」
「後は帽子と仮面だが、こいつはやはりその服に合うものが出来なかったんで、お前さんの所属する国で作ってもらってくれ」
「まあ、その辺は所属地域で変わるかもしれないし、大丈夫」
「そうか、一応白くなるパーツは氷精、黒いパーツは陰精の力を引き出せるようになってるからな」
「さらっと言ってくれるけどさ。陰精は聞いて無かったよ?」
「言ってなくても、お前さんが使えるのはその二つなんだから、結果的にそうなるだろ?手袋は白の方がいいって意見も合ったが、お前さんの場合吸収が使えた方がいいだろうから陰精だからな」
「ネクタイとブーツとベルトは?」
「陰精って言ったら、気配を消すに決まってるだろ?足音、心音、衣擦れ……、手袋だって吸収だけじゃなく、お前さんの手先の気配を消して何をするか分かりづらくしてるんだぞ?」
「コレは、また……、助かるよ」
「後コレな!」
と言って渡されたのは剣。
「何で今更?」
「世界樹様の根の剣は返す気なんだろ?だから変わりに世界樹様の枝の剣を渡しておくぞ」
「根の剣返して枝の剣て、意味あるの?それ?」
「邪神の尖兵と戦うには根の武器が必要だから返却してもらった方が助かるが、恩人から取り上げるばかりって訳にはいかんだろ?だから代わりだよ」
「枝じゃ邪神の尖兵は倒せないのか……」
「ああ、ただ術の媒介として使うには最高品質素材だぞ。そのまま使ったんじゃ斬撃は心許ないだろうが、精神力を込めれば十分な切断力も発揮するからな。防御に関しては金属に劣るが、氷精と陰精に合わせて石を嵌め込んであるから耐性と気配遮断の能力はかなりのもんだ」
ふーむ、制服の時は術系装備って事でこっちの剣使ってもいいのかな。
指三本くらいの幅のショートソード。木製だけあって綺麗に文様が刻み込まれ装飾品の様だが、多分相当実用的なんだろう。
「じゃあ、根の方の剣は返すよ」
「おう、俺も装備関係じゃこの船の責任者だし、ここで預かるぞ」
一先ず、予備用の装備は一揃い完成したので一安心。忍者装備も結構邪神の尖兵の攻撃食らって中々にぼろぼろだしな。
強いて言うならクラーヴン製の鉄剣だけは、全然平気だけども!
「さてと、外がどうなったか確認しようかな」
「状況も落ち着いたみたいだし、俺も行こうかな」
ということで、初心者服に着替え忍者装備を預けつつ、装備屋のおっさんと連れ立って世界樹様の元へ。
なんか、わいわいエルフと東のヒト達で盛り上がってるが、ただの宴会って感じ?
「もう祭りが始まってるみたいだな。各々好き放題飲み食いするだけだから、適当に過ごしたらいいぞ」
ふむ、どうやら東のヒトは織物とか日用品を売ってるみたいだな。天上のどこで生産するのかな?って思ったが、
そういえば東のヒトは東の地上のヒトとも交流あるから貿易で儲けを出す事ができるのか。
天上に無い物を東から運んでくるわけか~。今度は自分が西から持ち込もうとしてるわけだけどさ。
物品を色々見て回るうちに辿りつくのは、やたら盛り上がってる場所。
うん、闘技場!っていってもめっちゃ簡素だけどさ。
丁度刺青のお姉さんが戦っているが、相当人気らしい。めっちゃ強いな~とは思ってたんだけど有名人だったのか。
刺青の力を使わずとも、エルフの戦闘員を一方的に追い込んで倒してる。
そしてセコンド席らしき所に黒司祭……。
アンタ黒司祭の弟子的存在だったんかい!
櫂を媒介にした木精術を使うとは思ってたけど、そういうこと?やっぱり黒司祭は木精術使いだったのか。
だとすると肺とか呼吸器系の司祭だったのかな?確か肺で木と戦ったもんな。でも司祭はいなかった……。
「あっ隊長さん!」
試合が終わった刺青のお姉さんに声を掛けられると一斉に皆こっちを振り向く。
「やぁ、黒司祭の弟子だったんだね」
「言ってませんでしたっけ?そうだ!この度は本当にお世話になりました」
「いや、別にエルフと相談してやるって決めたんだし気にしなくていいよ」
「ふむ、アンタが噂の隊長か邪神の尖兵に取り憑かれていた間の事は記憶に無いが、世話になったな。ところでだ!記憶が無い筈なのに気持ちが高ぶってくるのは何故だろうな?」
明らかに臨戦態勢になる黒司祭、敵意とは違うが師匠たちを思い出させるプレッシャーに冷や汗が噴出す。
「さあ?何ででしょう?心当たりが無いので、お酒飲んできますね!」
「まあ、待て!」
ガシッと両肩を掴まれ、身動きが取れない。
掴むのは自分の得意だったんだけどな……。