573.鷺パニック
「なんなんだこりゃ……こんな生き物見た事無いぞ?」
「御覧なさい!あの口!あの尖り様!人を殺す形をしてますわ!」
「確かにアレではまるでダツだ!しかしダツと違うのは曲がりくねった首?相当な力を発する証拠だ」
「それよりもあの巨体をどうやってあの細い足で支えてるんでしょう?どう考えても法則を無視しているとしか……」
え?何?皆何動揺してるの?
その時、真っ白な邪神の尖兵らしきボスがバサッと羽を広げる。
「ひぃぃぃ!なんだありゃ!何を広げたんだ?」
「分かったアレが、伝説の白い悪魔!」
「え?まさか御伽噺だとばかり思ってましたのに、実在するなんて……」
「コレはあくまで我々のイメージを反映した世界で邪神の尖兵がそれを象っているだけだ。ならば我らの最も恐れるものが出てきても不思議ではない!」
「しかし、こんな所で引く訳にはいきません。同胞の為にも!いざ!伝説の白い悪魔であろうと覚悟してください!」
「いや、ただの白鷺じゃん。何をそんなにびびってるのさ」
「隊長はアレが何か分かるのか?」
そりゃ、自分の地元に幾らでも飛んでくるもんよ。何なら学校の校章すら白鷺だよ。
そういえば、天上で鳥って見た事なかったか?生息圏より更に高い場所にあるもんな。
あれ?いやいやいや!思い出したぞ!
「でも昔大霊峰に住んでた頃に霊鳥と交流あったよね?鳥の姿だけでも伝わってないの?」
「霊鳥様は陽精の力を宿したお方だから、太陽のように美しく光り輝き直視する事すら適わぬと伝わってるな」
そりゃ、姿は伝わらないな。
「まあ、なんにせよあの嘴を気をつけつつ、倒そうよ。このタイミングで出てきたなら、どう考えてもボスじゃん」
「そ、そうだな。伝説ではある日突然現れて、そこらじゅうの魚を食い荒らして消えたと伝えられているが、どこから来てどこに消えたかも分からない。ただ空を飛んでいたなどと言うのは子供を怖がらせる作り話だろうがな」
「いや……鳥なら……」
その時大きく白鷺が鳴き叫び、ダメージの無い衝撃が体にぶつかる。
すぐさま対応するために、
融力術 鼓舞
パーティなので、大人数の時と比べれば効果は悪いかもしれないが、一応士気低下攻撃を中和。
そして、案の定嘴の高速突きを刺青のお姉さんに仕掛けてきたので、お姉さんを突き飛ばして回避させ、
伸びきった首に一太刀くれてやる。
すぐさま首を戻し、今度は自分をロックして打ち出してきた嘴をがっちりブロック。足場が砂だろうと受けきりで、硬直を発生させた。
でかいはでかいが、鳥だけあってサイズに対して大分軽いな。
そして、自分が冷静に対応している事に勇気が出たのか他のメンバー達の攻撃が始まり、そうなれば自分は見てればいい。
あっという間に押された白鷺は空にエスケープ。
「うわ!やっぱり飛んだ!飛んだぞ!」
「きっと跳ねただけですわ!すぐに落ちてきますわよ!」
「いや、ある程度の所で高度が変わっていない!やっぱり飛んでるぞ!」
「いや、だから鳥は飛ぶっての……」
「なんなんだ!こんなのどうすればいいんだよ!」
と空に向けて、両手の拳銃から弾丸を連射してる銀髪エルフはリボルバーの残弾が0になったことすら気がついてない。
完全に過呼吸になって両手を胸の前に合わせたまま動けない姫毛カール。
「あっエリーゼ様?……」
「やらせはせん!やらせはせんぞーーー!!!」
完全にバグって空に向かってガトリングを乱射し続けるエリーゼ様。
仲間を守ろうと勇壮なのは分かるが、完全に正気を失っている。
まあ確かに世界でも最も高い場所と言ってもいいような場所に位置して、敵は水中の魚とか水生生物ばかりの生活を送ってきたのだ。それも代々。
飛んで攻撃してくるとか、頭上を完全に取られるなんて想像もしたことない生活ではパニックも起こすのかもな。
そんな中刺青のお姉さんは警戒は怠っていないが、まだいくらか冷静っぽい。
「大丈夫ですか?」
「ええ、空を飛ぶ動物が存在するというのは普段貿易している、地に住む者から聞いた事がありますので」
「地に住む者?ああ、天上じゃなくて大地に住む人って事か」
「はい、地に住む者を見下ろすように飛ぶ生き物がいるとか」
「それなら、念の為防御準備だけお願いします。お互い攻撃の当たる位置ではないですが、下手したら、何か降らせてくる事も考えられるので」
「あまり強力なものではないですが、周囲を守るような術がありますけど?」
「じゃあ、現状敵が何をしてくるか分からないし、あの3人も集めて皆で身を守りますか」
という事で、まずは動けなくなってる姫毛カールの近くで術を展開する準備をしてもらう。
弾が出ないリボルバーの引き金を引き続けている銀髪エルフの首根っこを<掴み>引きずって刺青のお姉さんの近くまで連れて行って放置。
最後一番危険なエリーゼ様。
「一旦防御するので集まりましょう!」
「私がいる限り!仲間には手を出させはせんぞー!」
駄目だ。完全に正気を失ってる。
とは言え射線は完全に上なので、強引に力任せにガトリングを抑え動きを止めると、
ようやっと自分に気がついたらしく、射撃が止まり惰性でガトリングの先端がキュルキュル音をたてつつストップ。
「エリーゼ様!一旦皆で防御しますよ!敵が何やってくるかわからないので!」
そう言ってそのまま全員集合。
刺青のお姉さんが術を唱えると小枝が絡むようなドームが完成。とはいえ結構スカスカ。
隙間を埋めるようにやっと正気を取り戻した姫毛カールが光の盾を展開。
自分は<青蓮地獄>を発動からの
気脈術 冷気
体を張って防御しかないなと剣と肩から展開する氷盾、修理してもらった右手の筒籠手でとにかくガードできるだけガード。
敵の次の動きを待つ。