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57.兵 詭道也

 相手の布陣は、相変わらず赤を先頭とした凸隊形。


 だが、いやらしいのは、先ほど凸の後方にいて被害を受けていない白が隊形から外れて端に寄っていることだ。


 こちらの壁の破れ目を狙ってますよとばかりだが、低い位置に布陣しているってことは、変化して側面攻撃狙いの可能性も見せているわけだ。


 相手に見せて対応させることで、相手を動かすタイプとなれば、予想通りかなりいやらしいタイプだ。

 受けさせて反応を見てそれを受ける。粘着質な変態だな確実に


 苦しいところだが、こちらが先に札をきろう。

 

 「ルーシー!」


 「ああ、分かってる。護衛を最低限伏せさせたまま、最悪白に対応する。

 でも奇襲攻撃じゃなきゃ、たいした被害は与えられないぜ。分かっていると思うが」


 偵察兵じゃ正面戦闘に向かないからな。だからと言って今更砦の護衛に引っ込めるわけには行かないし、護衛はルークに粘ってもらう。


 「ルーク!」


 「分かってますよ。何人かは階段に回して、上から打ち下ろせる形に待機させてます。

その分外のフォローは減りますけど、あんなに進んだ位置じゃ、そもそも自分たちの活躍の場は無いですからね。

隊長守る為に時間稼ぎますよ」


 もう、なんかうちの連中何も指示しなくても全部やってくれるんだけど~

 優秀な部下を持つ上司ってつらいわ~

 自分の存在価値に悩んでしまう。

 

 だからと言って部下に強気に出てみたり、自分のすごさを無理やりアピールしてみたり上下関係を強調してみたりするのはどこかの企業の社長みたいで、格好悪いからやらないけどさ。 


 主攻は実はそこまで心配していない。

 人数差が圧倒的過ぎて、隊列さえ維持していれば明らかに有利だ。

 

 もう、相手も捨石を使った揺さぶりをする程の余裕も無いだろう。


 「先輩!スペーヒ!カピヨン!」


 「ん?なんだ?」

 「相手の策に集中してください正面はきっちり受け持ちます」

 「温存と削りとバランスはきっちり見極めます。術は使っていきますので、士気だけは高く保ってください」

 「あ?何だそれだけのことか、もっと自分のことに集中しろ」


 ん~やっぱり優秀すぎる。自分ができることと言えば・・・・


 唐突に掛け声も無く相手が一斉に動き出す。

 

 呼吸を乱したつもりかもしれないが、こちらも準備万端だ。

「『行くぞ!』」


戦陣術 激励

戦陣術 戦線維持


 まずは、主攻同士のぶつかり合い、先ほどまでとは打って変わって赤が猛攻をかけてくる。

 押される内に自然と中央が凹みV字になって行く。


 「重装兵は中央に集中!抜かせるな!歩兵は左翼!衛生兵は右翼!横に広がりを持たせろ!」


 押されながらも動き出す。直接ぶつかっていない衛生兵は早く、重装兵をフォローしている歩兵はやや緩慢だが、何とかイメージどおりの形になったところで


戦陣術 鶴翼陣


 相手を押し包みつつ削っていく、人数差はこちらの方が上なのだ。かなり有利に展開する。


 すると、白が動く。


 左翼歩兵に向かって回り込みつつ突っ込んでくる。

 

 不利な戦況に痺れを切らしたか?少々迂闊なようだ。思わずにやりと笑いがこみ上げる。


 「ルーシー!今だ!!」


戦陣術 奇襲


 白があっという間に混乱し削れていく、スペーヒも立て直して白を削り潰す。

 最初に警戒した奴をやっと一人削れた。


 赤は粘っているが相手主攻もかなり削れてきた。


 「押し返せ!『行くぞ!』」


戦陣術 激励


 隊列を直して押し返そうと思ったところであわせて赤も敵陣に引き返す。

 本当は追いかけて潰しきりたかったが、まだ、青も金も黒も健在の状態で無理は出来ない。


 と、フィールドに集中していた時


 「隊長!気をつけて!!抜かれた!!!」


 ルークの叫び声に一気に体温が下がる。

 にもかかわらず汗は大量にかいている。

 心臓の鼓動も尋常じゃない。

 呼吸が浅くなってきたことを認識した時、やっと自分が本気で緊張していることに気づく。


 右サイドの階段から上がってきたのは黒だ。

 来るかもしれないと思っていたが、本当に来てしまうとは。


 「あ~あ~なっさけねぇ、主戦場はぼろぼろじゃねぇか、いつも格好つけてるくせに。

 結局きめるのは、俺って言うね!

 降参したら?

 流石に俺達騎士と一対一で勝てるようなプレイヤーはいないだろ?」


 騎士とは到底思えない喋りだが、フットワークが軽い、いやらしくサークリングしてこちらとの間合いを保ちつつ動きを止めずに話をしてくる。

 器用な奴だ。だが・・・・


 「おいおい、だんまりかよ!上から下まで真っ黒黒で顔も見せねぇ、しゃべりもしねぇ、中二病のボッチ君か!」


 と、言うが早いか正面からダガーで一突き入れてくる。


 が、フェイントだ。

 殺気は全然違う方から感じている。

 ロングソードで、右半身を守る。

 

 ブロックが決まり、硬直したところを一振りして相手の生命力をいくらか削る。

 振りと硬直解除のタイミングが合ったのか、カスル程度だ。

 

 <耐性>を持った相手か、やりづらい。

 後、お前も真っ黒黒だ。顔は見えるがな。


 「へぇ、よく今のフェイント見切ったな。ちっとは見直したぜ」


 何か言っているが、主戦場をこっそり見やると、ほぼ態勢は立て直したようだ。

 相手は、防御の構えだな。

 青を中心に砦入り口前をがっちり固めている。金の支援もばっちり届くだろう。

 守る方が強い。これがある意味自分の軍運用の哲学というか常識みたいなものだ。

 攻め破るには奇策と絶対的な勢いが必要だ。


 「まずは、2列縦隊『行くぞ!』」


戦陣術 激励


 「何が行くぞだよ。こっちも行くぞ!」と黒


 だがそれはブラフ。

 今は黒に正対している為、死角になっている左サイド階段から黒の取り巻きが足音も無く忍び寄り、突きこんでくる。

 円盾で背中を防御、カウンターで一発突きをお見舞いすると深追いせずすぐに距離を取る相手、多少は削れたか?


 その時、天啓がひらめく

 このタイミングであれ言わなきゃ!!ずっとこっそり練習してきたあのキメ台詞!!


 「ふっ見えて・・・「くそ!!見えてるってかよ!さっきからこっちの奇襲ことごとく防ぎやがって!どこに目ぇつけてやがる!」


 あぁん!こいつ言いやがった。俺がこの台詞どこまで暖めてきたと思っていやがる・・・・


 その時、先ほどの黒の取り巻きに突然矢が突き立つ


 「隊長!お待たせしました。すぐ援護しますよ!」


 急所に矢が当たったのか硬直した取り巻きにそのまま連続で矢が刺さり。取り巻きは光の粒子に変わる。


 余裕の笑みで手を振ってくるルークだが、


 「ルーク!」


 叫んだ時にはもう遅い。後ろから忍び寄ってきた黒の取り巻きの二人目がルークを刺し貫いていた。

 

 スローモーションかと思うほど、ゆっくり倒れたルークが光の粒子になって消える。


 「はっ勢い込んで出てきても一瞬で消えるな!どの雑魚も。そろそろお前も消えろよ!ボッチ将軍!」


 『てめぇこそ!少しはまともな攻撃してみろクソ雑魚が!!すっとろいフェイントだの!ばればれの奇襲だの!遊びにしても、もうちょっとマシなことしてみろや!!』


 左手に持つ盾を黒に投げつける。

 避けるのは予想済み。右手の剣も投げつける。

 当然いなすだろう。背中のショートソードをすぐに抜き


武技 追突剣


 黒の心臓を貫く、硬直したところを<掴み>で向こうを見せるように頭を抱えこみ鎖骨の間にショートソードを突きこみ、かき回す。


 そのまま手の中で黒が光の粒子になったところで、我に返りすぐ階段前の元のポジションに戻る。


 久々に完全に士気に酔ってた。

 黒の取り巻きがあっけに取られて呆けているが、隙を突いてフラッグを取るようなやつらじゃなくて助かった。

 いや、内容的には負けも同然か・・・クソッ。だが実際負けてないんだ。

 最後までやらなきゃ、

 落ち着く為に<戦陣術>使っておくか?


 戦場を見るとうちの連中も士気に逸って隊列を維持するのがもう限界みたいだ。

 やっぱり一呼吸入れるか?

 いや、もう、ここまで攻められて今更防御も何も無い。


 「カピヨン、スペーヒ、先輩の順で行く!ミランダ様は合わせてくれ、ここで決める」

 「あ?分かってる」

 「私が捨石ですね、珍しい。気合が入ります。温めてきた<戦陣術>使わせてもらいます」

 「じゃあ、自分が要ということですか、絶対やります。自分も思い切り使わせてもらいます」

 「任せな、長いこと伏せておるから腰が痛い」

 『行くぞ!』


戦陣術 激励

戦陣術 特攻

戦陣術 突撃


 青を中心とした防衛部隊に突っ込んでいく、

 

 そして自分の周りも佳境だ。黒の取り巻きの3人目が表れ、2と3が微妙にいやらしい距離から投擲で削ってきやがる。

 9割近くは防いでいるが、自然回復だけでは追いつかないダメージがちょっとづつ蓄積していく、生命力が減るごとに()()でダメージも減るが焦燥は増すばかりだ。


 そんな一番嫌なタイミングで、姿が見えないと思っていた赤が現れる。左サイドの階段から気負いも無く近づいてくる。


 「ここまで来れば顔を拝めるかと思ったが、隠していやがるとはな。っていうかよ?よく投擲武器をそんなショートソード一本で防げるな?おかしいだろ」


 ずんずん近づいてくる赤


 「お前らちょっと止めろ、俺が相手する」


 言うが早いか抜き打ちで両手剣を唐竹割に振りぬいてくるので、一歩下がる。

 

 異様だ。絶対できるやつだ。

 振り方も足運びも完全って言っていいほど同期してるし、ステータスも高い筈だ。

 なのに何でこんな手を抜いた振り方なんだ?振りが遅いと言うか、力が入ってないというか


 「おいおい、そんな簡単に見切るかよ。一応コレでも現実(むこう)じゃ、全国クラスなんだがな」

 

 「クレイモアの?」


 「剣道だよ!!当たり前だろ!っていうかそんな見た目の癖に普通にしゃべるんだな。中二病ロールかと思ってたんだがな。

 まあ、いいか、うちも大分押されてるし時間が無い。行くぞ」


氷精術 アブソリュート ゼロ


 その瞬間、空気が一気に収縮してひび割れるかのような不快な音が鳴り響く、オババの奥の手その2ははじめて見たが音が迷惑すぎる。

 

 青とその取り巻きの動きが止まる。


 ミランダ様の奥の手はばっちりはまった様だ。 


 「ふう、コレで最後だ『行くぞ!』『死中に活を拾え』」


戦陣術 激励

戦陣術 背水陣


 最後の切り札を切る事にする。

 ハイリスク・ハイリターンの<戦陣術>だ。

 一秒ごとに士気がゴリゴリ減る。

 その代わりステータスが倍化されている。全軍が。

 士気がなくなれば動けなくなる。完全に。


 「はは、いいなお前」と赤


 「隙あり・・・「ねぇよ」

 黒の取り巻きが一人背後から突っかかってきたので、ブロックもせずに手首を斬り捨てる。そのまま<掴み>


武技 身代わり


 「おいおい、俺に背中を見せるなよ。寂しいだろ!」


 と赤が斬りつけてきたので、掴んだ取り巻きで防御する。

 一撃で取り巻き盾は光の粒子になって消えた。


 赤の連撃は流石に全国だのと豪語するだけ合って流れるような動きだが、丁寧にブロックする。


 しかし、反撃しようにも絶妙にいやらしい角度から打ってくる所為か短い硬直では反撃が間に合わない。

 こいつも<耐性>持ちだろう、やっぱりいやらしい。


 ひたすらブロックで時間を稼ぐ、業を煮やしたのか赤が振りかぶり、溜めモーション

 それまでの息もつかせぬ連撃から余裕が生まれ確実なブロックの予感に硬直後の攻撃まで次の手を決めたところで、


武技 べクラッシュ


 ブロックした瞬間右手に痺れが走り、ショートソードを落とす。

 

 相手の読みの方が一段上だったか、部位破壊を誘発する技だったらしい

 右手がいうことをきかない。


 ニヤリと笑う赤が、今度は真横に剣を引き、さらにもう一度溜める。


 「コレで終わりだ」


武技 ブルクラッシュ


 「まだ、終われないだろ」


 左手で引き抜いたプギオでブロックする。今度は取り落とさない。

 が、相手の強攻撃に一瞬の硬直が生まれ動けない。


 その瞬間後ろから最後の黒の取り巻きが突きこんでくる。

 

 ヤヴァイ・・・・






 「ふっ隊長、俺への指示を出さなかったってのはこの為だろ?」


 いつの間にかここまで戻ってきていたルーシーが、最後の黒の取り巻きに奇襲をかけてあっさり屠る。


 ナイス!ルーシー!姿が見えなかったから忘れてただけだ。

 

 ルーシーを見やる流れで目の端に写る向かいの砦がなんか光ってる?・・・あっ


策戦 足止め


 相手が最後のあがきに奥の手を使おうと、していたらしい。

 同時にルーシーが赤に切り捨てられる。


 「ちっ切り札失敗するとか何があった!?」


 と、どうやら赤も向かい砦の切り札発動に気がついたようだが、そのファンブルに狼狽し、余所見をした所にプギオで喉を撫でるように裂く。

 多少えぐったか?【出血】のデバフが出ているようだが・・・


 「カハッ。そんな状態でまだ攻撃意思が残ってるかよ。本当はもう少し楽しみたいところだが、こっちも余裕が無いみたいだ。

 決めるぜ!」


剛剣術 泰山衝波


 プギオで、全力でブロックするも、生命力が削れて行く、ダメージを殺しきれない。

 

 それでも、ただ、ひたすら耐える。今はそれしか出来ない。


 何秒経ったか・・・・ふと、圧力が消えた瞬間。


 力が抜け、膝から崩れ落ちる。


 この脱力感は初めてだ。

 完全に力が入らない、ブロックはもちろん次の一撃を避ける事も出来ないだろう。

 辛うじてブラックアウトこそしていないが、自分の生命力の残量を確認する為に左手を持ち上げる事すら出来ない。

 

 駄目だったか?つい、うつむいて負けた理由を考えてしまう。

 黒を倒したとき熱くなりすぎたのがいけなかったか、壁に穴を開けられたのがいけなかったか、主攻が釣られて進みすぎたのか、士気管理が甘かったのか・・・・


 肩に何かが当たる

 最後の一撃かと思えば赤の手が置かれる。


 「今回は俺たちの負けだ。時間までにお前さんを倒しきれなかった」 


 気が付くと自分の頭上に花火が上がっている。

 向かいの砦でスペーヒが相手のフラッグを高く掲げて振っている。


 「嗚呼・・・・勝ったのか?」


 「おいおい、そんな反応じゃ、負けたこちらの立つ瀬が無いぜ」


 苦笑しながら赤が立ち去っていく。


 【帝国】にしては珍しい快晴の日、いつの間にか日が傾いて夕方になっている。

 快晴でも遠く山脈から千切れた雲が漂ってくる。

 晴れ間に降る粉雪を誰も気が付かずに踏みしめて行く。

 その誰も気が付かないオレンジのそれに確かな祝福を感じた。

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 自分もポータルから引き上げようとすると


 「隊長!駄目ですよ!待ったですよ!このあと表彰式があるから、もう少し待たないと!優勝チームの代表は皇帝からお言葉があるんですからね」


 試合が終わって復活したルークに呼び止められる


 「・・・・ルーク・・・・後は任せた」


 「いや、なんか格好いい雰囲気出しても騙されませんからね」


 「いやだ、俺は眠い、飯食って寝る」


 「もう少しの辛抱だから我慢してくださいよ!そもそも表彰式すっぽかす理由が飯食って寝るとか絶対駄目ですよ。絶対ですよ」


 「・・・・ルーク・・・・今の俺を止められると思うなよ」


 「いや、だからそういう雰囲気で誤魔化そうって・・・・行っちゃった。どうしよう」

一応、第一部-完-といったところでしょうか


この後にエピローグを入れるかは、考え中です。

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