566.胃ボス
壁のような巨大な影に飲まれる前に集められるだけヒトを集め、発動する。
融力術 鼓舞
暴走覚悟でエルフ達の士気を思い切り高め、
融力術 凍
一気に下がりきる気温、凍りついた空気がキラキラと光を撒き散らす。一帯の水気が凍りつき瓦礫や建物に薄い霜が張り付いて、
白い景観に黒い邪神の尖兵の姿が不気味に浮かぶ。
壁のような姿は……やっぱり壁だな~。ぶよぶよした壁が押し寄せて来て、今はまあ凍ってる訳だが、
でか過ぎて核が何処にあるかも分からないし、どう削っていくかな~。
凍結は攻撃すると解除されちゃうわけだが、この術はなんとなく特別っぽいから、一発で解除とかはないと思うんだけどな。
考え事をしている内に、いつの間にか耐寒耐冷装備を整えた姫毛カールの部下が、
ポンッと榴弾ぶち込みおるって言うね……。
爆発と共に表面が弾け飛んだが、なんとか凍結状態解除にはいたらなかったようだ。
うん、何かあったらどうするつもりだったのかな?この子……。
説教しようとした瞬間、一斉射撃が始まる。もうありったけの火力が前面の壁に降り注ぐ。
もうさ!エルフさ!ちょくちょく他人の話し聞かずに攻撃始めるよね!
まあ、おかげで敵の表面が削れていくが、状況は動かない。
正面は火力が集中してるので、壁の端まで行ってみようかと走り出し、割とあっという間に側面に出る。
横から見るとかなりの厚みがある壁だ。
「根住!」
相棒を身に纏い壁を登ってみるとしよう。凍り付いてつるつるの壁でも、根住がいれば大丈夫!
時折飛び出す突起は明らかにヒトの手足であり、ここに来るまで飲み込んだ東のヒトだろう。
取り合えず天辺まで登るが、やはり核は見当たらない。
この状況で自分が出せる最大の攻撃力とは?
やっぱり世界樹の剣を使った一撃で間違いないだろう。相手は色から見ても確実に邪神の尖兵だもの。
脚を大きく開き、仙骨を立てるように体の体勢を整えて、剣先を足元の邪神の尖兵に向けて逆手持ちで剣を構える。
そのまま力の限りいっぱいいっぱいまで耐えながら、どんどん重量を高めていく。
装備と黒蛇の印、そして自分が鍛えてきた身体能力全てで、耐え切れるだけ耐え抜き、
剣が手から滑って落ちた。
切っ先が当たったところから、邪神の尖兵に大きな稲妻型の罅が入り、銃撃の衝撃でどんどん裂けていく。
取り合えず、重量を戻した剣を引き抜き、他の場所でも試す。
4箇所菱形に剣を打ち込んだところで、かなりの量の削れ落ちた邪心の尖兵が瘴気に変わり、エルフ達は苦しいのか引き始めた。
まあ、自分はなんとも無いけどゲーム内のヒトにとったら瘴気ってのは、近づけないレベルの物だもんな~。
そんなタイミングで再び動き出す壁。最初迫ってきたときに比べれば圧倒的低速だが、それでもふるふる震えながら、ずるずる地面の上の物を根こそぎ取り込んでいく。
自分はひたすら核を見つけるために邪神の尖兵を削り倒す事しか出来ないが、なんと言ってもデカイってのが問題。
さっきまでの攻撃でかなり剥がれた筈なんだけどな~。
第二防衛ラインを飲み込まれ、第三防衛ラインもやられた。更には学校まで潰され、絶望的状況。
そこに風精のマスクをつけた近接戦闘員達が世界樹の装備を片手に合流してくれた。
皆で力を合わせ、残る邪心の尖兵部分を削り倒し、体積をどんどん縮めて、やっとの事で核を見つけ潰す。
一気に大量の瘴気が立ち上り、風精マスクを装備している者達も再び退避してしまった。
残ったピンクの壁が何なのか、胃壁が蠕動する変わりに、胃の中の獲物をすり潰す器官とか?
そんな物があったら暮らせないだろうしな~なんだろう。
禄に防衛ラインも残っていない状態で、むくむくと起き出す東のヒト達。
さっきの壁に取り込まれていたヒト達がそこら中にばら撒かれてしまったのだから、もう完全に無法地帯。
とりあえず、邪魔になる敵だけ切り倒しながら、退避したエルフ達の下に向かう。
一旦スーパーに集まったようだが、いつ囲まれるとも分からない状況だ。
「とりあえず、食道まで引く?食道で縦深陣を敷いて粘るしか無くない?」
「縦深陣?」
「要は懐を深くして、粘る陣形。自分は<戦陣術>無くなっちゃったから、効果を出したりは出来ないけど」
「そうだな、囲まれるよりはいいのか。折角ここまで占拠したが仕方ない」
「まあ元々東の者全員を収容するのは無理じゃない?って話だったんだし、防御さえ出来るなら粘ってくれてる間に自分が脳まで行くよ」
「本当に最後まで頼る事になるが、現状それしか手は無いか。幸い敵もあの異常密度を再現できるような状態じゃなさそうだしな。見た感じばらばらにそこらを徘徊しているか、倒れているかだ」
「どれくらいもつかな?」
「さっきみたいな大きな奴が出てこなければ、それなりの時間を稼げるだろう。なんなら食道と胃を繋ぐ扉の所に、東の者を積み上げてバリケードにしてもいいんだ」
「そりゃまた酷い事を」
「我らにも利があることとは言え、問題を解決してやっているのだ。あまり文句言うなよと」
「分かった、一休みしたら脳に向かうよ」