563.胃防衛戦
覚悟を決めて学校の屋上に立ち校庭を覗き込めば、ざわざわと集められたエルフ達が思い思いに私語をしている。
これから正念場だというのにこんな所に集められたら、皆不満たらたらだろうにな。
「おい!隊長が屋上に立ったようだぞ!話を聞け!」
下でなんか仕切ってるヒトいるけど、やめてよそんなの!大した事喋れないし、いっそいつの間にか話し終えたかのように装うっていう手もあったのに!
エルフ達が自分の方を向き、一瞬の間を置いて完全に硬直。そんな動きが連鎖し、あっという間に皆完全に硬直してしまった。
う~ん滑ったかな~。ちょっと笑いかツッコミが入れば、話しやすくなると思ったのに皆ブロック硬直食らったみたいになってるじゃん?
完全に空気ごと硬直してしまった様な状態に何を言おうか迷っているうちに、下にいるエルフ達が次々と膝から崩れ落ちてしまう。
そして、何かぶつぶつ呟く者、両手で顔を覆ってしまう者など……、
滑ったのは分かるけど、そこまで絶望しなくてもさ~。
そこにスナイパーエルフが駆け寄り皆に告げる。
「見ろ!<巫士>様の再来の様な……世界樹様を彷彿とさせる髪を!感じるだろう!魂が震え上がるのを!この戦い……勝ったぞ!」
「「「「「「うおーーーー!!!」」」」」」
なんっっっでだよ!アフロで戦いに勝てるか!
装備屋のおっさんが困った時に使えと言って渡してきたのは、アフロのウイッグ……それはもうボリュームたっぷりのやつ。
雷羊の毛の織物を強引にほぐしてふわふわにして、真っ黒に染めたような。自分に分かるのはその程度の事だけども。
頭に思い切り耐寒耐冷積むとか、マフラー作りすぎておかしくなったのかおっさん!と思ったけど、
エルフがなんか、そもそもおかしかった。
でも一番おかしいのは自分の姿。頭ふわふわアフロだし、その上鬼面も被ってるから、雷様だよコレじゃ。
そして、皆各々持ち場に戻っていく。結局スピーチしたのスナイパーエルフじゃん!
自分アフロで恥じさらしただけじゃん!
アフロを脱ごうとするとスナイパーエルフに止められる。
「やめておけ!この状況は見えないが、非常に危険だという事だけが分かってる状況で、その髪が皆の心の支えなんだ……」
アフロに期待しすぎだろ?そんな物を心の支えにしてて、本当に勝てるのかよ!この戦い。
それも致し方なしか、自分は取り合えずこのまま屋上から戦況を見守るのみ、因みに <融力術> 鼓舞 とか使わなくても、エルフ達の士気はすでに高い。アフロ効果の意味が分からない。
こちらの陣地は、フィールドの形を中央のタワーを中心とした円と考えれば、食道側1/8って所。
真反対からぞろぞろと、大量すぎて何人いるかも分からない程の取り憑かれた東のヒト達が迫ってくる。
自分の位置からでは相手の形態まで把握できないが、とにかく数だけは多い。
大通りのみ隙を作り、他はバリケードで塞ぐ形で防衛陣地を形成しているが、精神を操られてるヒト達は果たして、バリケードを避けて大通りから突入してくれるのだろうか?
まあ、逆にあえて回り込むとか言うそんな器用な事をする敵がそもそもいないようだ。
敵が第一防衛ラインと接触、トーチカ化した家々から一斉に銃弾の嵐がばら撒かれる。
何の痛みも感じないかのようにただ真っ直ぐ進み続ける敵と、その歩みを緩め一人また一人と倒していく弾幕。
更には奥をかく乱、あわよくば削ってしまおうというのか、迫撃砲の攻撃を降り注ぐ。
しかし、敵の圧力も然るもので角のトーチカが襲撃されてしまう。
そこに銀髪エルフが乗り込み仲間を救助して下がる。角からどんどん切り崩されかねないので、第一防衛ラインのトーチカを廃棄。
第二防衛ラインから銃弾をばら撒き、第一防衛ラインのトーチカごと穴だらけに、それでも群がってくる敵を仕掛けておいた地雷で爆破!
吹き上がる粉塵にそれでも怯まない敵を銃弾で薙ぎ払う。地雷で爆破した事で、建物はなくなったが積まれた瓦礫が足止めになり、敵を倒す速度が上昇。
第二防衛ラインからはスナイパー達の援護射撃も入る。皆うつぶせ姿勢で射撃。
金の卵世代のスナイパーエルフみたいに立ったままで、ガンガン当てるようなヒトはいないようだ。
時折、少し大きめの敵が混ざっているようだが、そういった特殊固体はスナイパーにヘッドショットを食らう。
更には第一防衛ラインと第二防衛ラインの間は道路があるので、何も遮蔽物の無い所に飛び込んできた敵は砲の餌食に……、
迫撃砲の様な榴弾ではなく、道なりをほとんど弧を描かず打ち出される運動エネルギー弾で一気にぶっ飛ばされていく。
更にそれでも第二防衛ラインに取り付くところまで来た者は指向性対人地雷で吹き飛ばす。
取り合えず、戦端は拓かれた。相手の圧倒的圧力を凌ぎ切れるか、防衛戦は我慢。
メンタルが物を言うからな~。