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532.本気の<融力術>

 犬と言えば、幼い頃飼っていた犬の名前はクー。メスの雑種だった。


 最近ではすっかり見なくなったが自分が幼い頃はダンボールに入れられて犬が捨てられてるなんて事はままあった事だ。


 若い人でも漫画の演出で不良が捨てられた子犬に傘や餌をやってるシーンなんかを見た事があるだろう。


 まさにそれ、その状況で犬が捨てられていた。場所はうちのすぐ横の公園。


 小学生の頃から大人になるまで一緒だったが、最後はボケてそのままある朝死んじゃった。


 自分はクーを幸せに出来た自信は全く無い。あのまま捨てられてたら、そのまま死んじゃったかもしれないが、うちに来た事で幸せだったかどうかは分からない。


 別にいじめたりとかはしてないけどね。普通に飼ってただけ。


 それ以来犬とか動物を飼おうっていう気にはなれない。幸せにする自信がないもの・・・。


 ・・・完全に気持ちがそれた。しかも何かアンニュイな感情になっちゃった。


 うん、ヤバイ!や~ば~い~!どうしよう!時間が無い。


 ケーちゃんの巨体じゃあっという間にこの場に辿り着くだろう。そして自分達は丸ごと巨体に押し潰されて無事死に戻りってか!


 「おい!どうする?このままだと押し潰されるだけだぞ!」


 いや分かってるっての、だから自分も焦ってるんだっての。


 「そんな事よりも世界樹様だ!あんな巨体で激突されたら流石の世界樹様とてただじゃ済まない筈だ!我らで何とかお守りせねば!」


 守れるなら守りたいし、何なら力貸してくれたらいいのにとも思うけど、何にも思いつかないのよ。


 「隊長、やるしかないぞ!我らの力を一つにする時が来たのだ!」


 と、やたら雰囲気のあるエリーゼ様。その首にはマフラーが巻かれている。


 「総員!耐冷寒装備!時は来た!古の【巫士】様は当時の仲間と共に太陽を呼んだと言う!我らは異邦人の元にこの海をも凍てつかせる冷気と寒波を呼ぼう!」


 一斉にエルフ達がそろいのマフラーを巻き始める。服装はラフで泳ぎやすい格好のままなのに、おっさんの手編みのマフラーを装着した。


 自分から見た場面はどう見てもシュールでしかないのに、皆の顔は緊張に引き締まっている。


 戦闘員、海中潜行要員、要塞維持要員、ベテラン勢と戦える者はとにかく皆集まった。


 今回率いるのは100人どころじゃない。つまり集まる力も前回とは桁違いだ。どこまで寒くなるのだろうか?


 念のため自分の耐性を高めておくとしよう<青蓮地獄>からの、


気脈術 冷気


 さあ、やるぞ・・・。


 『ねぇ、どうするの?』


 「いや、あの、あのデカイの止める為に冷気を呼びます」


 『なるほど!海ごと凍らせちゃうのか!手伝うよ!』


 世界樹に声をかけられ、そのまま何か不思議な力が湧いてくる。


融力術 鼓舞


 まずは、士気上昇。皆鼻息が荒くなるが、敵はもうすぐそこ、もうちょっとだけ待って。


 どうせ他に手は無いのだ。ギリギリまで引き寄せて、全開でぶっ放そう。


 どんどん近づいてくるケーちゃんの犬の顔。


 確かによく見れば目に生気が無い・・・気がする。


 さっき昔飼ってた犬の事を思い出して、ちょっとだけ胸が痛むがここは本気でやらせてもらう。


融力術 凍


 一瞬にして空気が凍る。まるで空間の限界を超えたかのような、


 キーン・・・、 


 と引き裂くような音と共に、空気は真っ白に染まり、世界の時間が止まる。


 自分と世界樹はなんとも無いが、エルフ達は眉毛まで真っ白に凍り付いてしまい、


 そして肝心のケーちゃんも完全に動きを止めた。


 海も真っ白に完全に凍り付き、どれほどの厚さの氷に変わったかも分からない。


 どうしよう・・・と思ってたら、エルフ達が動き始め、ガタガタと異常に体を震わせはじめ、


 そのまま皆逃げるように凍った海を越えて水上要塞に逃げ帰ってしまった。


 うん、取り残されて困っちゃったなと、でもまあ皆無事なら別にいいかと、思っったのも束の間、


 自分が倒した司祭様が完全に凍って動かない状態で転がっている。


 仕方ないので担いで水上要塞に戻ると、皆お湯を沸かしてた。幸い水だけはいくらでもあるので、木の端材を燃やして暖を取っている様だ。


 自分は山程石炭も貰ってきているので、それを渡し燃やして貰った。


 司祭様もついでに溶かしてもらったが、邪神の尖兵に取り付かれていたダメージが大きいのか未だ意識が戻らない。


 外の冷気が消える気配も無いので、今のうちに確認しておきたい事を尋ねておく。


 刺青のお姉さんを探し、


 「司祭様は今融かしてるところだけど、先に知りたい事があるんだけどいいかな?」


 「それは別に構わないけど? 何を知りたいの?」


 「この司祭様って知り合いなんだよね? 東の者が出来るだけ高い場所に住みたいって言う価値観があるとは聞いてるんだけど、もしかしてそういう宗教?」


 「はい。東の者は天と呼ばれる空高き場所に神が住んでると考えていまして、出来るだけ近づいて暮らしたいと私は思ってます。しかし、それが一部の者であって、あえて高い場所に住まなくてもいいじゃないかという考え方も別に否定はしません」


 うわ~宗教か~【教国】みたいな事にならなければいいけど・・・。


 でも今回は邪神の尖兵に乗っ取られただけっぽいし、複雑な事にはならないだろう。大丈夫!

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― 新着の感想 ―
[一言] 某ダラけきった正義の人のそれやなぁ…
[一言] マフラーの耐寒性能をあっさり超えたか そしてやっぱりエルフたちは逃げたな…
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