530.新銃
皆がお祭りの準備に夢中になっている間も自分とエリーゼ様はヒトを捕まえては【訓練】を忘れない。
なんなら【訓練】がいやで、仕事に打ち込む連中もいるくらいなので、とてもいい方向に回っている。
それでも嫌がらず【訓練】についてくる根性のあるヒトに手抜きなんてしては申し訳ない!全身全霊を込めて、鍛え上げ、ソルジャーにしていく。
ベテラン勢が前みたいに一斉に体が動かなくなる事こそ無いが、定期的に参加してくれるのもありがたい。若い連中がサボれないから、皆いい目になってきた。
そんな折、装備屋のおっさんに呼び出されたので、工房に向かうと目が血走っている。
「どうしたの?マフラー編むのに夜なべしすぎた?」
「それもあるが、そんなんじゃねぇ。凄い物が出来てしまったぞ。覚悟はあるか?」
「え?全然無いけど、どういうことよ?」
「お前が俺に預けたんだぞ!世界樹様の枝を!それをどうにかお前が使える様にと脳が引きちぎれるほど捻って考えた結果。お前のあの制服に合う拳銃を作った」
「木で作っちゃったの?そりゃ世界樹は丈夫かも知れないけど」
「木で作って何が悪いんだ?銃ってのは宝石から精霊の力を引き出して射出する武器だぞ?何なら木の方が相性がいい」
「丈夫さが必要だから金属で作ってたわけじゃないのか」
「物によってはそういう場合も有るが、拳銃なら丈夫な木があればそっちの方がいいだろ?そういう意味では超一級品の素材だぞ世界樹様の枝ってのは」
まあ、よく考えたら現実みたいに火薬を爆発させた勢いで飛ばすわけじゃないんだから、別に木でもいいのか。
「それで?その拳銃がよっぽど凄い事になったんだ?」
「ああ・・・取り合えず射撃【訓練】場で試し撃ちしてみろ。驚くぞ」
と言う事なので、おっさんと連れ立って射撃場へ。
渡されたのは妙にシリンダーの長いリボルバー。5発撃てる様になってるのかな?
「宝石のサイズが普段使ってる散弾銃より細くなってるから、いくらか威力は下がってるのかな?」
「と、思うだろ?撃ってみろよ」
言われるままに銃口を的に向け引き金を引く。
銃口から発射されるのは、白いビームか?標的に当たるなり的が凍り付き、そのままひび割れ砕けた。
「ナニコレ?ビーム出るじゃん」
「ああ、どうやら線状の冷気が発射されるみたいなんだ。ちょっとやそっとの物なら凍り付いちまう」
「ナニソレ?威力下がるどころか凶悪になってるじゃん」
「それが世界樹様のお力だ。精霊の力を世界樹様が増幅した結果そうなったみたいだ。俺もこんな事初めてでな受け留めきれないから、お前さんも巻き込んだ」
「えー・・・、まあ元々自分が頼んだ事だしいいけどさ」
「それでな、その引き金横にレバーが付いてるだろ、それをちょっと動かして設定を変えてみろ」
「これって安全装置じゃなかったんだ?」
言われるままに、安全装置にしか見えないレバーを切り替え、もう一発標的に向かってぶっ放すと、散弾!ちゃんと氷片も出るじゃん!
「分かったと思うが、質量を伴う威力を出したい場合は散弾状態で使ってくれ、収束すると凍りつく極低温の白い光が射出される」
なんちゅう、滅茶苦茶な物を作ってくれたんだ。
とは言え、作ってしまった物は仕方ない。一回弾を最大まで装填。そして試すべきは、
武技 縮砲
引き金を引くと銃口に白い光が収束し、輝く弾が発射される。
自分にはスローモーションに見えたが、どうやらほんの一瞬の間のことだったらしい。
装備屋のおっさんが瞬きした間に、標的を中心とした氷界が作られ、船の甲板が凍り付き、
そのまま崩壊・・・大穴が開いてしまった。
「何かごめん」
「ちょっと林行って木材採ってくるの手伝えよ」
「うん、分かったそれ位は全然やるけど、この銃さ危ないからちゃんと納まるホルスターも頼むね」
「初めからそのつもりだ。後その肩当も借りるぞ」
「ああ、これ?別にいいけどどうするの?」
「同じ形で世界樹様の枝素材で作り直した。水晶を嵌めこんでっと・・・、これも装備して使ってみてくれ」
「やばい事には、なら無いよね?」
「こっちは防具だから何かを傷つけるような事にはならんだろう」
と言う事なので、装備して氷盾を展開・・・。
なんだろう、氷の結晶を閉じ込めた透明の氷盾が展開されてるんだけど、明らかに周囲の温度が下がった。
盾から発する冷気に空気がうっすら白く煙りはじめ、装備屋のおっさんの顎がガチガチ鳴っている。
「寒いの?」
高速で首をたてに振るおっさん。流石に嫌がらせじゃ済まなさそうだし、氷盾を消す。
「こりゃまた、酷い代物になっちまったな」
「自分で作ったんじゃん。耐寒でも持ってないとこりゃ、動けなくなるかもね」
「耐冷は必要だろう。間合いに入る為に耐冷が必要とか、仕上がってきたな!」
ぽんっと軽く肩を叩いた来るおっさんだが、ちょっと仕上がり方が凶悪じゃないか?