521.戦闘艦が行く
「戦闘艦パージ!」
「戦闘艦パージ!!連結を切れ!」
水上要塞の西部端に位置する船が一隻外れ、天上の海を惰性でもったりと動き始める。
戦闘員及び水中要員を満載し、動き始める戦闘艦に帆などはかかっていない、溜め込んだ精神力で輪を回して動く外輪船。
自分からすると観光船にしか見えないのだが、一応大砲もついているので戦えるのだろう。
まぁ、水中にいる敵にどうやってぶっ放すかは不明なんだけどさ。
南に進路を取り水面を走り出す船、船が大きい所為かスピードをあまり感じないが、
あっという間に初めて見た天上のセーフゾーンに辿り着いたので、相当のスピードだろう。
何気に蛇行しているのは、世界樹の根を傷つけたり、船が転覆しないように障害物を避けて通っているからだろうか?
順調に進むと、いきなり船底から大きな衝撃が走り、甲板にいた戦闘員達が尻餅をつく。
すぐに自分と偵察に行った一人から、その地域にいた魔物の情報を確認すると、オニオコゼのレギオンボスがいるらしい。
「おっしゃぁ!世界樹様の根を齧る不届き者を狩るぞ~!!」
と銀髪エルフが息巻いているがオニヒトデゾーンはもっと先だ。
「ここはオコゼがいるらしい、毒持ちだし戦い慣れておくには丁度いいかもね」
「そうか、隊長がそう言うなら肩慣らしと行こうじゃないか」
「エリーゼ様に聞いておきたいんだけど、水中の魔物ってどうやって水上に誘き出すの?」
「それは誰か潜って囮になるしかないな。そして浮いて来たら投網や銛で固定し、艦上から一斉射撃!以上だ」
「オニヒトデやる前に消費しちゃってって大丈夫かね、網とか」
「修理は出来るが、出来れば消耗せずに行きたいところではあるな」
「分かった。じゃあ自分が囮になるから皆には力を溜めておく様に指示しておいて」
それだけ言い置き<青蓮地獄>からの、
気脈術 冷気
オコゼは確か毒がある筈だし、耐性を高めて海に飛び込む。当然水中装備の水中呼吸具とヒレも忘れない。
妙に棘の多いオコゼ。まるでいかにもなやられ役の悪役って感じ。意味があるのか無いのかトゲトゲだ。
でっかい魚が悠然とうろうろ泳ぎ回っているが、先に鞘当してきたのはそっちだからな?
一応動きを見守っていると、船に体当たりをかました。
ハイ!決定!このオコゼ、ヤル気なので容赦しません!まあ、魔物だし遠慮も何も無いんだけどさ!最初から!
泳いで近づいていきヒレの隙間を抜け、ヒレの付け根を一発剣で裂いてやる。
一瞬びくっとしたが、そのまま泳いでいるのでもう一発かまし、更にそこから胴体に剣を突きたてた。
そこでようやっと慌てたのかスピードを上げたものの、ヒレを掴んでいる自分も一緒に移動しているので意味がない。
「根住!」
『分かった!任せて』
根住を纏い、尻尾でオコゼにくっついて胴体を刺しまくる。
特に反撃される訳でも無いのでひたすら滅多刺し、多分このオコゼ体当たりと毒ヒレ位しか出来ることないんじゃ?
水中戦闘だもんな~あれもこれも出来る敵じゃ、逆にプレイヤーが対応出来ないもんな~。
なんて考えていると、何か怪しげな茶色い液体を毒棘と見られる部分から噴出しているが、耐性を高めている自分には効果が無い。
しかし、そこから急旋回と急発進、急停止を繰り返され、一瞬手が滑って離れてしまった。
この時とばかりに自分を顔の正面で捉えて、体当たりをかましてくるオコゼにそのままの勢いで水面まで押し込まれ、
凍剣術 獄結界
水上に顔を出したのが運の尽き、そのままの状態で体を凍らせ動きを止める。
しかし、体をくねらせどうにか凍った海を抜け出そうと足掻くオコゼの棘を一本<掴み>つつ、
気脈術 冷気
水上に出ている顔の上半分が、凍るもまだ水面下ではピチピチ暴れてるが、そんなの、もうただの悪あがきだ。
「じゃ、自分離れるから」
その場を離れて船に戻ると同時に、
ひゅるひゅるひゅる~っと何かの塊が飛んできたと思ったら、オコゼに着弾し爆散!
・・・ランチャーっすかね?そんなものあるんですね・・・。
その後は水上に固定されている部分に皆が滅多撃ち。
何が凄まじいって、エリーゼ様の超火力が全部吸い込まれていくんだよね。
かなり大味な武器の筈なのに全部オコゼに当たり、凶暴すぎる発射音と着弾音になれてきた頃。
オコゼを倒しきってしまった。
そして<解体>組と手に入ったオコゼの身で料理組に分かれて作業。
自分は勿論料理組だね。刺身は得意なエルフに任せて、お吸い物も作れる者がいるので任せて・・・、
じゃ、自分は揚げ物と言う事で鍋に油を入れて熱する。
一応戦闘艦にはちゃんと調理場があるので、火を使うのも問題ない!
オコゼなんていう高級魚扱ったこと無いからな~。
でもまあ<解体>されたものは切り身の状態だし、何とかなるかな。
塩コショウして、素揚げするだけだけどね!小麦粉がちょっと心許ないので勘弁な!
低温の鍋と高温の鍋を分けて、
低温でじっくり火を通した後に、さっと高温で仕上げれば、
サク!ぱり!オコゼ揚げの出来上がり!食いねぇ!