513.【巫士】様護衛
ログインして、今日こそカワハギの肝を手に入れると決心し、甲板に上がる。
「お早うございます。もし、お時間があればちょっとお付き合いいただけませんか?」
と【巫士】様に声を掛けられたが、残念ながら自分はとても忙しい。
「申し訳ないのですが、用がありますので、また後日で宜しいでしょうか?」
「アァン!お前!【巫士】様の誘いを断るなんてどういう了見だ!」
「そうだぞ!どんな用か言ってみろ!」
「林の下の海のダンジョンに行くんだけど」
「ダンジョンなんていつでも行けるだろうが!何考えてんだ!アァン!」
「あ゛?自分はダンジョンのカワハギの肝を食うって決めてんだよ・・・。邪魔するなら力づくで、押し通るよ?」
「いや・・・何キレてんだよ・・・いつも何も気にしない顔してるのに・・・」
「お止めなさい。変な絡み方をしてしまって申し訳無いのですど、あの地でカワハギの肝が出たという話は聞きません」
「え・・・」
駄目だ。もう駄目だ。全身から力が抜け膝から崩れ落ち、世界が真っ暗になる。
地に両手を着き・・・何も考えられない。
ただ、もう二度とこの両足で立ち上がることは無いんだろうなって、そんな確信だけが自分を支配した。
「カワハギの汁物なら普通に食えるけどな」
「!!!どこで!」
「どんな食いつき方だよ」
「いいから!どこで!!」
「いや、普通に飯食いにいけば売ってるだろ。別に珍しい物じゃ無いだろ?」
「ちょっと食べてくる」
「それなら、ちょっと付き合って腹ごなししてから食ってもいいだろ!」
「まあ、いつでも食べられるならいいけど」
ということで、本日は【巫士】様のお出掛けに付き合う事になった。
小船で漕ぎ出すのは東の方、って事は、
「世界樹にお祈りしに行くんですか?」
「ええ、どんなお告げがあるか分かりませんので、定期的に世界樹様には会いに行っています」
「それで?何でわざわざ自分まで?」
「【訓練】の進捗状況を忖度無しでうかがいたくて」
「なるほど、自分はそういうの遠慮するタイプじゃ無いし、本当の報告しか上げてないけど、悪くは無いと思ってますね」
「そうですか。やはり秘術に関しては皆興味がありますし、気が急いてる者もおりますので、それを聞けてほっとしました」
「それだけですか?」
「ええ、まあ、後は住み心地とか生活でお困りの事は無いかとかその程度です」
「おかげ様で快適に過ごせてますよ。なんかお金も順調に稼がせてもらってるし、ありがたいことです」
「そうですか。秘術の復活と合わせて、海中の魔物を狩っていただいたおかげで、活気も出てますしこちらこそありがたいですね」
陸に辿り着き【巫士】様が世界樹に祈り始めたところで、自分は手持ち無沙汰なので、東側の海を見に行く。
世界樹以外何も無い地をさっと走って駆け抜け反対側へ。
向こう側もただの海だな!
確認できた所で、戻ろうとすると人の気配。
「うぅぅ・・・」
東の陸と海の狭間辺りから聞こえる呻き声に、
嫌だな~、嫌だな~厄介事かな~。
と思いながらも声の発生源に近づくと、
「み、みず・・・」
「ミミズ?」
「水はもう嫌だ。陸が見たい・・・」
「ここが陸だよ。良かったね。それじゃあね」
立ち去ろうとした瞬間。
ぐーーーーー!
お腹の音で行くなと抗議されてしまった。
「何か食べ物を分けてはいただけませんか?」
「火があれば何か作っても良かったんだけど、生憎無理そうだから、帰るね」
ぐーーーーー!!
「おい!何の音だ!異常があったらすぐ知らせろと・・・誰だそれ?」
「知らない。なんか陸を目指してたみたいだから、辿り着けて良かったねって、今別れようと思った所」
「いや、絶対お腹空かせてるんだろうが!可哀想だから何か食わせてやれよ!」
「だから、火があれば作れるけどさ。無いんだもん。生林檎齧らせる訳にもさ・・・」
ぐーーーーー!!!
「林檎でいいからくれってよ」
「いいけど、よくお腹の音で分かるね」
そう言いながら倒れてるヒトに林檎を渡すと、勢いよく齧りつき、あっという間に平らげてしまった。
「うぅ、すまない恩に着る」
「いいって事よ。困った時はお互い様さ!見たところ東の者だろ。どうしたんだこんな所で」
自分を置いて二人で話し始める銀髪エルフと顔から腕から刺青だらけのお姉さん。
ぱっと見エルフっぽくないって事は東はエルフの勢力圏では無いんだな~。
そんな事を考えていると【巫士】様とスナイパーエルフも合流した。
「それで、どうなさったんです?」
「それが、私も分からなくて」
「分からないのに、こんな所にいるなんて、海に投げ出されたとか?」
「いや、それは自分の意思で逃げてきたんだが、何か皆急におかしくなっちゃって・・・」
「なんだそりゃ?いいから詳しく話してみろ」
「えっと、えっと・・・」
「そんなに焦らせるものでは無いですわ」
ぐーーーーーー!!!!
「いや、あの・・・」
「お腹が空いているのであれば、一緒に来ますか?落ち着いたらお話を聞かせてくださいね」
流石【巫士】様器が大きい。
皆で一緒に一旦水上要塞に帰る事になり、
自分は念願のカワハギの肝を使った汁を食べてご満悦。
刺青お姉さんはよっぽどお腹空いてたのか飯をかっ込んでるけど、お腹壊さないのかな?