50.故善戦者 求之於勢
■ 集団戦イベントルール2 ■
勝敗条件は相手砦屋上のフラッグを取ること
時間制限は、予選30分本選1時間となっている
もし 制限時間内にフラッグを取れなかった場合 指揮官の撃破の有無にて判定
それで決着が付かない場合双方のフィールド進入率にて判定
砦内侵入率、フィールドを半分に分けた時の進入率、さらに半分に分けた時の砦よりの進入率等
制限時間終了時点の状態で計算する
それで決着が付かなかった場合 進入時間での計算となる
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予選一回戦目会場にて頭を抱えてうずくまってしまう自分。
心配そうに少し距離を置いて囲む仲間達。
【古都】のポータルに触れるとぐにゃっと体が曲がるような感覚と共にいつの間にか土でならされた広い土地に立っていた。
久しく雪ばかり踏みしめていた自分にはちょっと新鮮な気分だ。
しかも【古都】の気候に慣れた自分からすると大分温かい、他の国から来る人たちに合わせて平均的な気温にしてあるのだろうか?
ぐるっと辺りを見渡すと石造りの簡素で小さな砦が向かい合わせで、フィールドの端と端に建っている。
フィールドの全域をどうやって認識しているかというと普通に壁があるので、そこが端なんだろうなって感覚だ。
すでに右方に仲間達が思い思いに密集しているのでそちらに向かう。
そして、完全に自分の都合だが、仲間達に告げなきゃならないことがある。
「今日は予選初日だが、出来うる限り戦う!戦数を稼ぐ!最大30戦って言うことだから出来うる限り戦い続ける。途中苦しい事もあるだろうが限界まで戦ってもらう」
「了解!つまり相手が慣れないうち、こちらの手の内を研究されないうちに叩く作戦ですね!」
違うんだスペーヒ、いい感じで反応してくれるのはありがたいのだが、完全に自分の都合なんだ。
一年に一度の大ピンチが何故このタイミングなんだ。
現実のISOの審査間近なんだよ!社長いつも知っててこちらに情報流すのが遅すぎるんだよ!完全に事実とは違うでっち上げで毎度乗り切ってるのは社長が一番良く知ってるだろ!日頃から活動してれば?社長が自分でやれ!!
脳の血管が切れるかと思った瞬間立ちくらみがして思わず、頭を抱えてうずくまってしまう。
「隊長!大本営からの命令で緊張するのは分かるし、自国開催のお祭りでむざむざ恥を晒せないっていう気持ちもよく分かりますけどね、そんなに悩まなくても自分たちが一緒にいるんだから、気持ちを楽にして精一杯がんばれば、それなりの結果も出る筈だし、大丈夫ですよ!苦楽を共にしてきた仲間を信じましょうよ!」
ありがとうルーク
いつも支えてくれることに本当に感謝している。
頭から手を離し、仲間達を見上げるとみんな一様に決意を秘めた目でこちらを見てくる。
なんて頼もしい仲間達だ。こいつらが現実で仲間だったらと本気で思う。
「ルーク、自分が悩んでいるのは所謂【管理】任務のことなんだ」
一斉に目を逸らす仲間達、本当に当てにならないやつらだ。
そんなに【管理】任務が嫌いか?だからなかなか昇格しないんだぞ!
目を逸らさないのはカピヨンか、そのでかくてごつい見た目がすごく頼もしく見える。
そんな会話をしていた時、いつのまにか相手もフィールドに立っていたようだ。
一応挨拶した方がいいのかと思って近づくと、
「おい、おい、おい、イベントの記念参加プレイヤーかよ。気持ちは分からなくはないけどよ。こっちはまじめにやる気出してんだぜ?それをNPCなんぞと談笑しやがってお友達はNPCだけですか?ってんだ!コミュ症野郎」
「そうだぜ、俺たちは激戦区の【王国】のクランでしかもクランメンバーで51人+NPC1でフルメンバー揃えてんだぜ?それを随分舐められたもんだな」
「まあ、NPC位しかまともに相手してくれないような奴に言ってもしょうがないがよ。精々あがけよ?面白くないからな」
「いや、むしろ邪魔すんな!開始と同時に降伏しろ!まじで時間取らせるなよ!余計なことしたらどうなるか分かってんだろうな?」
「っていうか、雑魚の仲間のNPCも貧相だな!どこにでもいそうな【兵士】ばっかりじゃねぇかよ。黙って門番でもしてろ」
「ええ~っていうか超ダサいんだけど、上から下まで真っ黒コーディネイトで挙句に目しか出てない冑とか中二病にも程があるんだけど」
なんて言うかあれだよな?お約束って言うか。こういうの鍛冶屋のクラーヴンから聞いた『雑魚ロール』って奴じゃないの?RPGだから、いろんな役になりきって楽しむ奴。ちなみに自分は『兵士ロール』って言われてるらしい。
しかし困ったのはうちの連中の煽り耐性の低さだ。そういう耐性スキルでもあればいいのにってまじめに思うくらい、キレていやがる。
目が血走りすぎだよ。特に先輩あんただ。メンチきりすぎ!まじで田舎のチンピラか!
時間が来たのでそれぞれの砦の方に向かう、10分の短い準備時間に作戦を詰めなおす。
「んじゃ、いつも通りまずは守って隙を・・・」
「なんてむかつく奴らですか!隊長が何も言い返さないから黙っていたけど!あういうやつらは一度痛い目にあわせないと駄目ですよ!自分は知ってますよ。隊長が実は最強だって事!あの程度の烏合の衆、一人でも一掃出来るってこと!そして一人の兵も率いれないくせに自分たちを貧相だなんてよく言えるってもんですよ。あっちこそただ突っ込んで死ぬだけが役割の雑兵以下じゃないですか!」
うん、ルークよ、自分の評価上げまくるの止めてくれな、本当に。
「そう苛立つなよ。士気管理が面倒になるだろうが。って言っても今更守ってからなんて言っても無理か。んじゃ、スペーヒお前が先鋒を勤めろ、凸隊形だ。左翼は先輩の重兵隊。右翼はカピヨンの衛生兵隊
中央後衛にルークの弓兵隊、攻撃は右側に集中しろ。左に流れてくる敵連中を先輩が・・・」
「あ?皆殺しにすりゃあいんだな?」
「いや、左翼の圧力が増える予定なんで防御形戦術で引かずに、隊形を保ってくださいよ。なんだかんだそこに負担がかかる予定なんだから、隊形が崩れれば<戦陣術>も弱まるし、肝はそこなんですから頼みますよ?」
「つまり、開戦速攻突っ込めばいいんですね?」
「違うだろ!スペーヒお前が全軍のペースメーカーなんだからくれぐれも逸るなよ。ゆっくり全軍の足並み揃えてじりじりと戦線を上げて行け!会敵したらスペーヒの<戦陣術>で攻撃に移れ」
「「「了解」」」
そして、それぞれ所定のポジションに付く、自分は屋上のフラッグの前だ。
砦の入り口は一つ、1Fから2Fに上がる階段も一つ2Fから屋上に上がる階段が両端に一つづつで2つ、最後にフラッグの台座に続く階段が一つ、その階段の前に陣取る。横にはミランダ様がいる。
ちなみにフラッグの横から上るようなことは出来なさそうだ。つまり自分が最終防衛ラインって訳だ。
さらにここからだと戦場全体が見渡せるし、向かいのほうにぼんやりとフラッグが見える。もしあれを取ることができればここからでも見えるだろう。
「何度も言うが始まったら逸るなよ?」
聞こえると思えないがつい一人で頼みとも願いともいえない台詞を吐き出してしまう。
「分かってます。自分に初戦の責がかかっているんです。慎重に行きますよ」
とフィールドに布陣している筈のスペーヒの声が聞こえる。その後もしゃべっているとどうやら、指揮官とそれ以外の者は会話できるらしい。ただ、横のつながりはあくまで声の届く範囲だけみたいだ。つまり指揮官の声は全軍に届くって訳だ。大分やり易くなってきた。
そして開戦「突撃~」なんて楽しそうな声が聞こえるが、相手の士気低すぎだろう。そんな状態で突っ込んできちゃ駄目じゃないの?
自軍は、自分の装備も有って、最初から士気が高い。一応指揮系のスキルを取っているとそういうのが分かるようになっている。むしろなっていなきゃ<戦陣術>みたいな士気を媒介にする術は使えないけどな。とりあえず「『行くぞ!』」
戦陣術 激励
まだ、一回しかかけてないのに今にも逸って突っ込んでいきそうな雰囲気だ。今後士気管理はもっと慎重にやらないとな。
とは言えだ、うちの連中もそれなりに場数を踏んでいるし士気に酔って突っ込んでいくような未熟者は今のところいない。
どんどん距離が縮む、相手が術を打ってこないって事は近接職がぶつかってから畳み掛けてくる予定なのかね?まあ、こちらはこちらのペースでやらせてもらう
「ルーク、合わせろよ?スペーヒ!今だ!!『行くぞ』」
戦陣術 激励
戦陣術 槍衾
戦陣術 援護
あ~りゃりゃ、完全に相手の前衛に【恐慌】が発生してるわ。そりゃあコレだけ士気に差があれば当然か。どちらに相手が流れるということもなくただ飲み込んでひき潰す。それだけだ。
散々煽った挙句【恐慌】状態のまま負けるってどれだけロールに忠実なんだよ。
まあ、それを楽しんでるなら別に構わないんだけどさ。
フラッグを奪った後はさっさと引き返して次の戦闘の準備だ。幸い全てのステータスは通常状態に戻っている。今日どこまで戦闘回数を稼げるかそれが勝負だ。平日はほとんど無理だぞ。