489.連行
ゆっくり動き、剣と銃を戻す。
両手を挙げ、攻撃意思のない事を示し状況の変化を待つ。
「あなたは何者ですか?」
「何者って言われるとなんとも難しい所だけど、放浪者かな?」
「何の目的で【巫士】様を狙った!正直に答えないとただじゃ置かないぞ!あぁん!」
めっちゃ下から煽るようにガンくれてくるけど、殴っていいのかな?
落ち着いて見ればエルフのようだが、柄悪いな~。おい原初のヒト・・・。
「おやめなさい。狙っていたならもっと早く動いてもいい筈、私が祈る間待っていたようですし、何か用があったのでしょう」
流石【巫士】様幼そうに見えても話が分かる。
「いや!どうせ【巫士】様のお髪に見蕩れてた変態ですよ!」
いつの間にか小船が陸に着き、長いライフルを抱えたエルフがこちらに向かいながら失礼な事を言ってきた。
全く、自分はドスケベだと言うのに、嘘だと思うならピンク師匠に聞いてみればいい。
しかし、まあエルフの女性三人こんな所で何してたんだか。
何か三人に睨み付けられて居心地悪いし、一応自分の身分だけでも伝えておかないと、話が進まないかな。
「一応自分は西の山の向こうに居たんだけど、ちょっと身辺煩くなったから原初のヒトを訪ねてこの下で最近までお世話になってたって感じ」
「あぁん!!!下は海だろうが!海底人でもいるってのか!」
「そうだ!しかも西の山の向こうは世界樹様が去った後何も無くなって少ない物資を巡って欲望の赴くままに奪い合う地獄になったと聞いてるぞ!」
「ふむ、色々と疑問点はありますが、この辺りでは見ない装束である事は確かですね。しかし私が気になるのは、身辺が煩くなったと言うのはどういう事でしょう?問題を起こすような方は流石に受け入れられませんよ」
「頼まれて邪神の化身討伐を指揮したんだけど、その結果アレのコレのと煩い人が一杯いて嫌になっちゃったの。一年半かそれ位潜伏したいなって言うのが正直な気持ち」
「下で暮らせるなら潜伏しておけば良かっただろう!わざわざここまで来るなんてきっと何かあるんだろう!」
「そうだぞ!こいつ絶対危ない奴ですよ【巫士】様!目に狂気が宿ってる!様な気がする。もしくはエロい波動を感じる!」
「おやめなさい!初対面のヒトに。それで?もし邪神の化身を倒したと言うなら証明できる物が有るのですか?」
「そうだそうだ!伝説に謳われる邪神の化身を倒すなんて、よくそんな嘘が言えたもんだ!」
「我らの先祖でも世界樹様の根を使い尽くしてしまったと言うのに、そう簡単に倒せる訳が無い!嘘も大概にしろ!」
はぁ・・・、ため息をつきつつ、称号を一番話の分かりそうな【巫士】様に渡すと。
「ふむ、どうやら真実のようですね。邪神の化身を倒すような方が悪である筈もありません。我らの拠点にて詳しいお話を伺いましょう」
「ええええ!!こんなしょぼそうなのが、邪神の化身を??」
「やっぱり私の目に狂いはなかった。一見しょぼそうに見えてその目の奥には世界を憎みつくした狂気が・・・」
何かボロクソに言われながらも、小船に乗せられる。
「さて、拠点に向かうまでに聞ける事は聞いて置きましょう」
「別に隠す事も無いし、素直に答えますよ」
「じゃあ、海の中に住んでるヒトについて吐いてもらおうか!」
「海の中に住むヒトも西にはいますがね、この下の海の更に下には空間があって、そこに住んでるヒトの世話になってたんですよ」
「何ぃ!?水の下に空間・・・何言ってるんだ?意味分からんぞ」
「いや、でもエルフって山の上の物資が少ないから、已む無く地下に向かって世界樹の根を育てるヒト達と別れたって聞いたけど」
「ほぅ、我らがエルフと分かると言う事は同族にあった事があるのは間違い無さそうだな。しかし分かれた者達と言うのは・・・」
【巫士】の少女に自然と視線が集まる。
「伝承が残っています。その者の言う通りかつて西の山の山頂に暮らしていた頃は物資に困る日々だったとか。当時の陽精の【巫士】達が山頂の霊鳥と交渉し、色々分けていただいていたそうです。そして世界樹様が移動するに連れて、そのままこの海に出るものと地下に潜り根を育てるものに分かれたとか」
「そう、なんか根を育てる方の代表が陰精の【巫士】様だったみたいで」
「そうですね。何代にも渡り日の目を見ることが出来なくとも使い尽くしてしまった世界樹様の根を守り育てると誓い、道を別ったとか」
「閉ざされた地下で静かに慎ましく生活してましたよ」
「うぅぅ、ぐす・・・」
「なんて・・・なんて・・・尊いんだ・・・。誰に見られることも無く崇高に生きるなんて簡単に出来ることじゃない!私は地下エルフになる!」
ん~大丈夫か?天上エルフ直情的過ぎやしないか?
「それで、あなたは潜伏したかったと聞きましたが何故そこから出てきたのです?」
「何だかんだエルフのみならず、その地の種族が何代にも渡って閉じ込められてたフラストレーションが爆発しましてね。諸々あって西側の自分がいた土地と繋がってしまったんですよ。それで逃げてきたと」
「ふむ、そうでしたか。この地で生活出来るかは皆に相談してからになりますが、仕事はどんな事を得意としてますか?」
「ん~<料理><手入れ><手当て>に戦闘もまあまあ、後は荷物運びかな。移動力がそれなりなので」
「そうですか・・・。ではその辺りも相談ですね。アレが我らの拠点になります」
そこには巨大な船?水上要塞が浮いていた。