488.第5部 天上の国~プロローグ~
天上の海はしょっぱくないので、実際には海とは言えないのかもしれない。
まあ、そりゃそうか。ここの水が大霊峰頂上の滝に流れ込んでて、飲めばすっきり回復するわけだから。
のんびり浮いて行きながら、時折空気玉を割って呼吸しつつ加速する。
水の中は世界樹の側根が張り巡らされ、避けるだけでも中々難儀だ。
<水泳>がまた上手くなっちゃうな~。
根の隙間を魚が泳いでいるので手近に泳いできた魚を狙い、時折切って<採集>していく。
南国で採れそうな綺麗な色と柄の魚達。どんな味がするのかなっと!
<分析>する限り毒なんかは無さそうなので、食べるのが楽しみ。食料を大量に下の地区に置いてきたし、現地調達って大事よね。
時折遠くに大きな影が見えるが、ユニオン級ボスに見えなくも無い。
まあ、単独で挑む相手でも無いし遠目から眺めつつ浮いて行く。見つかりそうになったら 気脈術 陰気 で隠れて進むとしよう。
側根の間を抜ける為に、ちょっと根を掴むと丁度そこに貝があったので、それも<採集>して進む。
よくよく見るとあちこち貝がくっついてるので、どんどん捥いで鞄につっこんでいく。
久しぶりの水中生活は癒されるな~とふわふわ泳いでいたが、流石にいい加減疲れてきたと思ったら、海面から顔を出せた。
ゆっくり泳ぎすぐ近くに見える陸地に上がる。
地面は普通の土面。位置的に言うと世界樹の根が挟まった崖。
かなりの高度に位置する場所の筈なのに、何故か程よい温かさと涼やかな風がさわさわと吹き抜け、
正面にはどう足掻いても全貌を確認出来ない程でかい木。
腹減ったし、ご飯にしようかな~と火を使える場所が無いか周囲を見回すと、木の根元に人影。
驚かしても悪いので、ゆっくり近づいて行くと、どうやら膝をついて木に向かって祈りを捧げているように見える。
今声をかけるのは流石に空気読めてないよね。ちょっと待つか。
待つ間に何とか食事出来ないかな~と周囲をふらふら探索しつつ、
世界樹を見上げ、心の中で先日のお礼を伝えておく。伝わってるかは知らんけど。
大きく息を吸い、ゆっくり細く吐く。
狙われてるな。
後頭部に感じる殺気に気がつかない振りをしつつ、頭の中を戦闘に切り替える。緊張感が高まり興奮して体と頭が熱を持ち始める。
殺気が膨らみ、攻撃の確信と同時に剣を抜き、殺気のラインに剣を割り込ませ攻撃を防ぐ。
遠距離攻撃だが、矢ではない。
って事は銃か・・・、遠方海の上に小船が浮かび、そこから狙撃されたらしい。
揺れる小船から狙撃なんていい腕だな。ビエーラといい勝負かもしれない。
遥か遠方ながらお互いに殺気をぶつけ合ってる。先に仕掛けたのはそっちだからな?
眼前の水中、やや左手からもう一つ膨れ上がる殺気。
一気に水が膨れ上がり、黒皮の服を着た銀髪の女が飛び出し、両手に一丁づつ銃を持ち乱射してきた。
下手すると祈ってるヒトに当たりかねないので、銀髪の女と祈ってるヒトの間に入りブロック。
一発腿に掠った。乱射とは言え射撃武器で自分の体に掠らせるなんて、こいつもいい腕だな。
警戒心が限界まで引き上げられ、全身の細胞からエネルギーを引き出すような感覚に、
ご飯食べておけば良かったとちょっと後悔。
銀髪が高くジャンプし斜め上から撃ち込んでくるが、後ろのヒトに当たるラインじゃないと確信し、転がって避ける。
立ち上がると同時に、狙撃の弾が飛んできたのをブロック。
散弾銃を引き抜き、銀髪に向ける。
射線から逃れるように左右に逃げ回られるが、自分なら十分追えるスピード。
しかし後ろのヒトを守る為に動けない。
相手の乱射を避けつつ、必要な所でブロック。
動き回ってる内に真後ろにヒトの気配を感じ、
「「逃げろ!」」
え?あれ?何で銀髪のヒトも逃げろって言うの?
ゆっくり振り向くと、かなり強めの癖っ毛が特徴的な金髪の少女がうっすら涙を浮かべてこちらを見てる。
両手でピンクの大型拳銃をぴったり両目の間に置き、サイトで完全にこちらを覗いて・・・。
「動かないで下さい!」
ここで確信した。やらかしたの自分だ・・・。