486.大災難
数日かけてエルフの街の奥の丘の上。本当に普通に皆で宴会中。
ここにいるのが全人口か~。フィールドの広さに対してヒトが少なすぎだろう。
だからこそ大きな喧嘩もなくやっていけるのかね、程よい距離感みたいなさ。
無理に上げて行くわけでもなく、程ほどに和やかに楽しい宴会。
無理しない程度に飲んでは寝る。食べては寝る。
お金を使わない贅沢な時間。コレこそが休暇だよな~とも思える時間の流れ方。
正直ゲームでこんな何もしない暇な時間を過ごせる事が、逆にありがたい。
休日も寝る時間も削り放題、長期休暇なんて望む事の出来ない現実からの逃避として、これ以上無い癒し時間。
しかし、そんな時間も終わりを告げる。
「皆!皆!ちょっと聞いて~!」
白蜘蛛族長・・・、今までどこ行ってたか知らないけど、現れた瞬間騒がしい。
「皆!休んでる所騒がしちまって悪いが、もうすぐ東に出られる筈なんだ!だから有志を募る!俺達が今まで見たこと無い地に向かうんだ。安全とは限らない!それでも外に行きたい奴はいるか?」
好奇心旺盛なイタチまで何やってるんだ?外に出られるって・・・、
え?出られるの?自分も結構色々考えてたんだけど、出る方法見つかっちゃったのかよ。
「何を寝ぼけた事言ってるんだ」
「そうだぞ。そんな簡単に出られたら、先祖も誰も苦労してないっての」
「白蜘蛛の糸で出来た服が出来たら、南の赤い川の主と戦おうって話じゃないのか?」
皆口々に思ったことを言っているが、現状イタチの言う事を疑っているようだ。
「ねぇ、具体的にどうやって出るのさ」
「おっ!いたのか丸耳!いやほら、木って燃えるって聞いたからさ。壁に詰まってる所燃やそうと思って」
「いや、世界樹燃やしちゃたらまずいでしょ!」
「ちょっとだけだって!こんなにでかいし、あちこち根はあるんだから、詰まってる所だけ開けてもらおうかと思って」
「ちょっとって、どうやってコントロールするのさ」
「それは分からないけど、まあ何とかなるだろ」
「いやいやいやいや・・・・」
そんな事言ってる間に他のエルフ達が詰め寄ってきて、自分は弾き出された。
「おい!世界樹様のおかげで今の生活があるってのに燃やすってのはどういう了見だ!」
「木って燃えるのか?」
「いや、世界樹に感謝はしてるが、閉じ込めてるのも世界樹だろ?」
「壁に詰まっているのは主根だからダメージを与えるのはまずい!側根ならまだしも・・・」
エルフを初め、イタチや白蜘蛛族長に詰め寄る者達、
少し落ち着くのを待つかと思っていると
「おい・・・アレなんだ?」
丘の西側に陣取ってた連中から声が上がるので見にいってみると。
西側が明るい。徐々に近づいてくるに連れて、正体が分かる。溶岩が流れてきているのだ。
うん、ほんとに何アレ?
しかし、ずんずん近づいて来て、先頭をへろへろになった黒蜘蛛族長が走っているのが見える。
いつの間にか丘の西縁に来ていた白蜘蛛族長が、
「後ちょっとだよ!頑張って!」
え?燃やすって溶岩引っ張ってくるって事?アホなの?
よーーく見ると溶岩の真ん中にトカゲがいる。
赤い川の主じゃん。先祖の真似しちゃったの?絶望の壁じゃなくて、世界樹の根を燃やす事にしちゃったの?
そして丘に辿り着き、白蜘蛛族長の操る糸で丘の上に引き上げられた黒蜘蛛族長。
あちこち火傷している様なので、薬を塗って包帯を巻いてやる。
丘の下は既に溶岩まみれ、凄い明るいが、地獄の様相。
「おい、暑過ぎるぞコレ」
「俺も耐えられん」
皆辛そうだし、トカゲ倒すしか無いか?でもレギオン級だし誰か協力してくれるヒト・・・。
ムシャマッシュ!
「ダメダ カワク・・・」
駄目か、イタチも駄目、エルフも駄目、白蜘蛛達は服がいい所為か何とかいける?、黒蜘蛛は駄目そうか?
包帯を巻き終わると黒蜘蛛族長が世界樹の根の方に向かうと丘を回り込む様にトカゲも付いてきて、溶岩が世界樹の根に触れる。
『熱い!なにこれ!熱い!』
唐突に頭に響く声!
「は!世界樹様が苦しんでる・・・」
陰精の【巫士】さんが反応しているという事はコレが世界樹の声か。
でも、確か驚くと天井の海から水漏れするんだよな。コレで何とかなるかね。
「一応皆避難しよう。どうなるか分からないけど、今のところこの暑さで動けるヒトほとんどいないでしょ」
「お前は大丈夫なのかよ?」
「自分が出す〔赤鳥蜥蜴〕の肉は南の赤い川の間の陸地で採って来てる物だからね。一人で対処出来る訳じゃないけど、様子は自分が見ておくから」
皆ぞろぞろと避難しだす。
まあ、自分も世界樹の水漏れ頼りなので、様子を見るしか出来ないんだけど。
『熱いよ~・・・でもこんな時こそ落ち着かなきゃ!』
いや、落ち着かないで!もっと焦って!水漏れして!
ん~どうするか~・・・、・・・、・・・、あっ閃いた。けどうまく行くかな?
でも、自分がこの地に来る少し前に雨が降ったっていう話だし、世界樹が驚いたのって多分あれだよな。
レギオン級の魔石を一個取り出し、取り合えず天に掲げる。
「破滅の光」
魔石が割れ光の粒子に変わった後、右腕に長大な砲身に形を変える。
世界樹が驚くか、ワンチャン天井に穴をあけて水がこぼれて来るのを期待しよう。
それで、この地下世界が水浸しになったとしたら・・・、溶岩まみれよりはいいだろう!
もう、やったれ!もう訳わかんないけど、折角邪神の化身から守った筈の世界樹が燃える方がまずいだろう。
世界樹に直撃しないように角度をつけ、まあ、枝には当たるかもしれないが、それは勘弁してねって事で!
『もうちょっと右』
なんか、自分の陰が右って言うので、右に角度をつけて、発射!
トリガーも何も無いが、右手に集中するエネルギーを放出するイメージと共に、
明るすぎて逆に周囲の色を奪うような閃光が放たれる。
邪天使の極太レーザーには遠く及ばない、しかし確実に大きな命を奪うエネルギーの奔流を感じ、
ひとつ思った。
トカゲの方やれば良かった・・・。
しかし、後悔先に立たず、久方ぶりにゲーム内で見た陽光が目に沁みる。
ちょうど、太陽の方向に穴をあけたらしい。
じわっっと空いた穴が塞がっていく?
いや、表面張力で盛り上がるように水が零れ落ちて来た。
『うわーー!なにこれ!なにこれ!』
世界樹の反応が白蜘蛛族長みたいなんだよな~。
さて、まずは<青蓮地獄>で白いエフェクトを纏い、
気脈術 冷気
耐性を高めて警戒する。
ゲームの世界で実装されてるのかどうか知らないが、水蒸気爆発とか起きたらヤバイじゃん。
自分の高めた耐性で耐えられる物なのかね~?
なんか、妙に時間がゆっくりに感じられる。
コレが、死の寸前の集中力って奴なのかな?何も聞こえない。
ただ、溶岩に零れ落ちた水が、まるで宇宙の始まりの一滴の様に一気に膨れ上がる。
まるで、世界の中にもう一つの世界が生まれ、
その世界の狭間に挟まれた自分の存在が消え行く瞬間を幻視し、声なき声を発してしまう。
「駄目だこりゃ」