485.大移動の裏で
「と言うわけで、今回も優勝はムシャマッシュだが望みは?」
「ミズ!」
「ではこれからもキノコ達に水源の管理は任せるとして、移動しよう」
移動?前回はここで宴会だったじゃん。
しかし、皆思い思い東に歩き始める。
「えっと、皆どこに向かってるんですかね?」
「ああ、毎年一回は祈りの日って言って皆で祈りの祭壇に集まるんだ」
「皆って言うのは、皆?」
「ああ、この地に住む種族全員だ。そこでのんびり宴会して休みつつ、最後祈りの祭壇に祈って終わりさ」
へ~初詣みたいな物なのかね?なら最初からエルフの街で闘技大会もやればいいのに・・・、まあいいか。
皆について歩いて行こうとすると、
「ねぇねぇ!何か保存が利いて歩きながらでも食べられる物知らない?」
「干し肉とピクルス位かな。歩きながらいけるかは微妙だけど」
「ピクルスって何?」
「野菜の酢漬けかな」
と言って、自分の漬物壷を渡す。以前に体力を消費して空腹が進むと衰弱になる事を知って以来、いざという時用の保存食も持ち歩いているが、正直種類は少ない。
因みに携帯食料みたいなプレイヤーが食べてるアレは、まずいので持ってない。
「これいいね!もらっていい?」
「いいよ、持っていきな」
壷を持ってあっという間に何処かに走り去って行く白蜘蛛族長。
仕方ないので、ぶらぶら歩き始める皆について行く。
程よいセーフゾーンでご飯にしながら寝ようとすると、誰かしら声掛けてきて一緒にご飯を食べつつ、またこの地で手に入る物資が諸々集まってくる。
まあ、皆で休暇みたいなものだし、のんびりやりますか。
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「おおい!こっちこっち準備は出来てるぜ」
「うわ~寒~い、羊の毛で服作っといて良かったね~」
「そうだな。あいつはよくこんな場所まで来て、調査なんかする気になったもんだな」
「何だかんだ協力的な奴だし、いい奴だよな。だからこそ俺達が結果出して、東の壁の向こうに一緒に連れて行ってやろうぜ」
「そうだね!あっそうだコレ貰ってきたから、走りながら食べなよ!」
「ほう、何だコレは?初めて見るが、ここから数日走り通しと思えば、食える物があるのは助かるな」
「うまそうだが、それはこれから一番大変なお前が食うべきだろうな。一応決めておいた場所に水と食料は置いてあるから補給しながら、頑張ってくれよ」
「ええっと、この糸を操作すればいいの?」
「ああ、それの先に例の『ふぇにっくすふれあぼむ』?とか言うのがくっついてる。握る感じで操作すれば、爆発する筈なんだが」
「爆発か・・・どんな物なんだろうな。家の一軒や二軒は簡単に吹き飛ぶという話だが」
好奇心旺盛なイタチ、白蜘蛛族長、黒蜘蛛族長が、絶望の壁に張り付くように今も凍っている赤い川の主を遠目に見ながら覚悟を決めて、
白蜘蛛族長が手元の糸を操作する。
すると、轟音と共に火柱が上がり赤い川の主を赤く包む。
「うわーーー!!なにあれ!なにあれ!」
「あ・・・ああ・・・ありゃ確かに家位は吹き飛びそうだな」
「あれだと、もしかしたら赤い川の主も消し飛んでしまうのではないか?」
「あっ!どどどどうしよう!壁に詰まった根が燃やせないじゃん!」
そんな白蜘蛛族長の不安を他所に、動き出す赤い川の主。
黒蜘蛛族長が一本の槍を構え大きく上体を反らし、赤い川の主に投げつける。
ざっくりと突き刺さる槍に、完全に黒蜘蛛族長をターゲットにする赤い川の主。
「よし!じゃあ、俺達は祈りの祭壇の丘に直線で向かうから・・・」
「俺は一旦最短で寒くない地域に抜けて、そこから西の壁に向かう」
「がんばってよ!不眠不休になるけど、踏ん張りどころだからね」
「そうだな。向こうで待ってるぞ!皆で外に出ようぜ!」
「任せろ。南からここまでこいつを引っ張ってきた先祖に賭けて、俺が西の壁まで連れて行ってやる」
壷からピクルスを一欠片取り出し口に含むと、
「え?うまいなコレ!」
ぽりぽりぽりぽりぽり・・・。
「全部食べちゃ駄目だよ!」
「はっ!よし、赤い川の主も長年の眠りから醒めたばかりで本調子じゃ無いようだが、こっちにとっては都合がいい」
のろのろと、足場が定まらない赤い川の主を見つめながら黒蜘蛛族長が動き出す。
白蜘蛛族長とイタチは東に向かって駆けはじめ、ここからが正念場。
一瞬イタチと白蜘蛛族長に目移りした赤い川の主に、もう一本槍を突きたて、
契約した陰を纏う。
黒蜘蛛族長の8本の足が更に深い黒になり、滑るように走りだす。
足をもつれさせながら4足のトカゲ型レギオンボスも徐々に加速し始めた。