47.大本営からの命令
■ 巫士 ■
世界を管理する一柱である精霊の祭殿を拠点とするジョブ
精霊の祭殿では<精霊術>をジョブを問わず獲得可能だが【巫士】となる場合 より上位の術や精霊の力を直接的に借り受けることの出来るスキルが手に入る
ただし 仕えることの出来る精霊は一柱のみである為 一属性に偏ることになる
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教官とミランダ様の助言に従い新たなスキルと術を取得した。
まず<戦形>は、近接系の職業必須のスキルだ。良くコレなしで今までやってきたなって感じだ。
俊足 すばやさを高める 先の先みたいなタイプの人と相性が良さそうだ。
加速 思考速度を加速させる どうやら戦闘中全ての動きをゆっくりに感じられるようだ。後の先カウンタータイプと相性がいいだろう。
予測 相手の攻撃の軌道を予測する 後の後、相手の攻撃をブロックして何ぼの自分にはコレしかないだろう。実際に使用してみると相手の攻撃軌道が白い影のように見えるのだ。
<精霊術>に関しては、全ての属性を総合した言い方らしく自分が取得したのは<氷精術>だった。
初めて訪れた祭殿には質素な宗教者って感じの細身で背の高いおばちゃ・・お姉さんが居り、多分氷精を象ったものと思われる狼にまたがった女性が彫刻された銅版のようなものが飾られていた。
あらかじめミランダ様に言われていたので、寄付を渡そうとすると大きな銀杯に入れるよう言われたので、兵舎でおろした時に貰った布袋ごと金貨50枚ほど投げ込んでおいた。
ちなみにそのお金を盗もうとすると氷精様に凍らされるそうだ。だから全然不安なことは無いとのこと。
嘘か本当か試す気にもなれない。なぜなら自分だってスキルさえ手に入れればきっと人を凍らせる事が出来る訳だから、世界を管理する一柱である精霊様であれば容易いのではないだろうか?
しかしこのお姉さん一応ジョブは【巫士】になるらしいけど、日頃から預かった子供達の面倒を見ているせいなのか、年齢の割りにやたらテンションが高い。
話し方とかは宗教家風の物静かで厳かな雰囲気すらあるのだが、リアクションがたまにやたら大きい。
はじめに吃驚したのは、氷精様の祝福を与えるとかで不思議な祝詞を唱えたと思ったら、室内にもかかわらず雪の結晶が祭殿中に広がった時。
凝った演出だなぁ。なんて思っていたら唐突に「クッキョーー!!」とか叫ばれた時は流石に驚かずにいられないだろう。それまでの厳かな感じ何処行ったよって誰でも思うはずだ。
それでも基本の術を教えてもらい。祭殿から出た時、建物の中から「クッペー!!」とか聞こえたときには、ちょっとここに近寄るのは出来るだけ控えようと思ったものだ。
訓練場に行ってみれば、教官とミランダ様のフルコース特訓だ。もはや【訓練】等と呼べる代物じゃない。
術に関しては新鮮で面白かったが、教官と一対一での特訓は訳がわからない。
白い靄が出てきたかと思ったら、あっと言う間に全方向の視界がゼロになる。靄が揺らめくのが見えると言うことは目が潰された訳ではないのだろうが【カトラビ街】にでも行けば時たまこういうこともあるし、変に動き回らなければ危険はない。
ここが訓練場じゃなく教官と一対一で特訓しているので無ければ・・・・
全方向に警戒して立っていると殺気を感じ取る。いつもならそれに合わせて剣を持っていけば自然とブロックできるが、まるで靄が殺気そのものとばかりに完全な全方位を囲まれては打つ手が無い。
靄に溶け込んだ教官の鋭すぎる剣に打たれる。
<予測>を取ったおかげで稀にブロックできるものもあるが目で見て反応して受けるということを本当に最初からやり直しているかのようだ。まるで自分が全然まだまだと言われているとしか思えない。圧倒的完全にボコボコにされた。手も足も出ないとはこのことを言うのだろう。
コレなら、数十人の弓兵に滅多撃ちにされているときの方がよっぽど対応できたし、自分が出来てる実感もあった。
そんな特訓と術の訓練を中心に任務もこつこつ受けていたある日のこと久しぶりに自分宛に手紙が届く。
と言っても自分に届く手紙と言えば運営からのお知らせくらいのものだ。
-運営からのおしらせ-
ゲーム一般公開から一周年(内部時間では3周年)記念イベントを行います。
場所は前回イベントMVPのポー様の所属国【帝国】となります。
内容は【集団戦】大会となっております。
集団VS集団の対人戦を思う存分に戦い抜いてください。
賞品につきましては、記念イベントに相応しいものをご用意いたしました。
また、賞金についても過去最高額をお約束いたします。
ただし【帝国】までなかなか来れないという方も多くいらっしゃるかと思います。
前回のイベントにおいても多くの意見をいただいた為、一部ポータル機能を開放いたします。
【都】と付く各国都市部のポータルより大会開催地である【帝都演習場】にイベント期間中は無料で跳ぶことが出来ます。ただし、演習場より外に出ることは不可能です。また【帝都演習場】より飛べる場所は各プレイヤーの所属地域のポータルのみとなります。
イベント以降は順次機能を拡張していく予定です。
今回も賭けを行います。
本選は、トーナメント形式となるため、その際の優勝者を予想していただく形となります。
また、予選時点でもどこの国に所属する参加者が優勝するか賭けることも出来ます。
今回はレギュレーションや勝敗判定等複雑な部分がございますので、参加される皆様につきましてはルールブックをよくお読みくださるようお願い申し上げます。
うん、いつも通りだな。とりあえず【帝国】にかけておけば良いかね。
「兵長、とりあえず今回も【帝国】に適当な額賭けておきたいんだけど」
「それは、構わんがその手紙を読んだら一つお前さんに指名で任務が来ているぞ【大本営】からだ」
「【大本営】て・・まだ【帝都】にも行ったことないのに何で目をつけられてるんですか」
「そりゃあ【ニューター】で中隊長なんてお前くらいだからな、諦めろ。目をつけられて当然だ。ちなみに任務の内容はこの祭りに参加しろってことだな」
「拒否権は?」
「無くは無いが、やめておけ【大本営】ってことは皇帝陛下じきじきの命令だと思って差し支えないぞ」
「いや、何で皇帝陛下がわざわざそんな命令してくるんですかおかしいでしょ?そもそもそういうのって勅命とかって言うんじゃないの?」
「まあ、この国は元々小国家群を併呑したところから歴史が始まるからな。基本的に皇帝陛下は軍部の最高司令官でもあるし、武官の方がなんだかんだ立場が高い部分があるからな。逆を言えば何気に中央の政治はさっぱりした部分があるともいえるがな」
「軍人だからってさっぱりしてるとは限らないじゃないですか」
「歴史を辿れば隣国の【鉱国】との重要な外交が結局殴り合いで決着が付いたなんて話もあるしな。脳味噌筋肉で出来てるような奴が結構高い位に多いし、国のために命を賭けるのが当たり前みたいなやつも多いんだよ。実は、な」
「まあ、いいですけど。それよりいくら拒否権が無いって言ったって、自分一人で集団相手にしろってそれはいくらなんでも無茶でしょう?」
「ルールを読めば分かるがな、所属国家の【ヒュム】の兵士をメンバーに入れることが出来る。基本的にステータスの伸びの良い【ニューター】は最大50人まで【ヒュム】なら最大100人までメンバーに加えることが出来る。それに【ニューター】の総指揮官が一人、【ヒュム】の副官が一人で総勢52~102人で戦うことになるな」
「じゃあ、自分が総指揮官で誰か副官を選ぶのはいいとして、兵士も選べるんですかね?」
「一人一人選ぶのは無理らしいな。ただ、20人セットで同じ兵科であれば兵科ボーナスで、ステータスの上昇か部隊長を選べるようだな。お前の得意なシチュエーションじゃないか」
「副官って言うのは、教官とかでも良いんですかね?」
「お前なら可能だな。結局どのくらい深く交流してるかって言うのがポイントらしいからな。ただし、何でもしてもらえるわけじゃないぞ、選べる副官リストはコレだ。一緒に書いてある技能やなんかを見ておくといい。教官だと常時士気上昇みたいなパッシブ系と、剣鬼なんていう単独でそれこそ多人数を引き付けて戦うような囮形に、氷剣なんていう大技といくつか違うパターンのことが出来る万能が使いやすいタイプだ。」
「まあ、その辺は直接一緒に戦いたい人たちに声かけて相談してみますよ。まあ、参加できるならしてみますかね。折角の地元のイベントだし、ところで集団戦って話だけど、怪我したりはしないの?特に【ヒュム】は」
「その辺は特殊な結界があるらしいぞ、生命力が切れたところで自動で一定の場所に送られて怪我も何も無い状態に戻るらしいな」
「相変わらず神様の改変ってやつですかね?」
「今回のは、改変と言うよりも祭りの為に神様が用意してくれたステージって感じだな」
ルールを読み込むと色々面倒なことが書いてある。例えば勝敗の判定方法、それぞれの守る砦のフラッグを取ればその時点で決着が付くらしいが、時間切れも設定されている。その場合の判定方法やら、道具類の使用禁止、ただし術士の触媒は一部登録可能だったり、【ヒュム】の衛生兵は手当て道具を自動で持ち込む設定だったりと全部理解するにはちょっと時間がかかりそうだ。
「とりあえず参加はしますよ。後は皆と相談します。後【帝国】に金貨20枚賭けておいてください」
なぜかいきなりのトップ命令でイベントに参加することになってしまったが、予選が始まるまでの短い期間、大急ぎで準備をすることにした。