466.閉塞環境に思う事
最近すっかり行きなれた店の扉を潜る。
「やぁ、この前酒と新しい食べ物賭けて闘技したけど、来なかったんだ?」
「俺は別にそこまで強くないからな」
「闘技大会予選に出るくらいには強い筈なのに?それとも甘い物は嫌いだった?」
一歩づつゆっくり店のカウンターに近づく。
「甘い物はここら辺だと芋だけだからな、興味はあるさ」
「ふーん、じゃあ隠したい事でもあった?」
後3歩でカウンターという所で、
「止まれ!・・・分かってるんだろう?俺が天界派だと、闘技場に行けば自制が利かないのは分かってたから行かなかっただけだ」
「そう、それで?何をやらかそうっての?他人に迷惑かかる事なら止めておこうよ」
「ぐぅ、もう遅い」
「事後か・・・今のところ騒ぎにはなってないみたいだけど、何したの?」
「これだ」
そう言って、カウンターの下から取り出したのは自分が持っているよりも更に一回りは大きい銃。
ソードオフの垂直2連散弾銃にしか見えない。その銃口は完全に自分を捉えてる。
「ああ、銃作ったの・・・え?それだけ?」
「それだけだと!この武器の事は武器屋になる者に伝わる禁忌だ。形と使い方だけ教えられ、絶対に作っちゃならないと言われた」
「世界樹の根を使い尽くしたからでしょ?でもそれとは若干違うんじゃないの?」
「そうだな。聞いていた物とは少し違うが、お前の持ってるそれを見た時にすぐに構造が理解できたって事は、きっと先祖の残したものなんだろうなと直感が働いた」
「でも、何で駄目って言われた物作っちゃったの」
「俺達天界派は力が無い所為でこの地で守られてるのだと、逆に言えば平和になるまで出られないのだと、そう感じている。だから先祖と同じ力を持てればって言う欲求に勝てなかった」
「ここから出たがってるヒトは多いけど、そんなに住みづらい場所かな?確かに食べ物の種類や娯楽は少ないかもしれないけど」
「そんな事じゃないさ。お前は他人との関係が嫌になって西から来たらしいが、ここはそんなにいい場所か?確かに平和だろう。しかし一生ここに住むとなれば、飲み込まなくてはならない事も数多ある。別に無法な事や非道な事をする奴はいない。それに不満が出るのは、どこに行ったって同じだという事は分かってる」
「一生同じ場所に居なきゃいけないから、飲み込まなくちゃいけない事」
「そうだ、小さな不満でも積もり積もれば、何が嫌なのかすら分かんなくなるし、ここじゃない何処かに行きたくなる」
「それは、そうかもしれないね」
「じゃあ、コミュニティを離れ単独で生きていけるか?ヒトはそんなに強くは無い」
「だから、何とかしてここじゃない何処かに行く方法を求めてるんだ?」
「そうさ、でも、こいつを作っても何も変わらなかった。だからと言っていつまでも隠しておける物でも無い」
「じゃあ、分解するなりしちゃえば?」
「どうせまた少しすれば作ってみたくなるのがオチだ。きっとどんどん自分なりに改良なんて加えてな。そして見つかって、問い詰められて、追放されるんだ」
「いや、悲観しすぎじゃない?武器屋以外には伝わってないんでしょ?」
「分からないじゃないか、作るのなんのは俺しか知らなくても、この武器の事自体はアクセサリー屋も知ってたんだぞ?」
「なるほどね。でもそれって、作るのがまずいだけなんだよね?」
「そうだと思うが?」
「じゃあ、自分のと交換する?自分のは西の山の上の遺跡で貰った物だし、多分エルフの先祖の物なんだろうから先祖の力って言う意味では間違いないし、逆にアンタが作ったものはしれっと、初めから持ってたかの様に使うよ」
「は?いいのか?そんな事」
「そりゃ自分が持ってるのは骨董品もいいところだろうし、最新式の方が自分は助かるけど?しかもそれ見るからに弾2発入ってるじゃん」
「あっああ・・・前に見た時、他の武器同様石から精霊の力を引き出してるのはすぐに分かったからな。後はどう飛ばすかそれだけの事。精神力を石に込め、溜めておき、放出する。この構造が分かれば実質何発でも出来るだろうと思った。想像以上に嵩張ったから2発にしたが、多分もっとうまくやれば、弾数も増えるだろう」
「うん、つまりそっちの方が性能が高いって事だ。自分としては交換してもらえたら得しかないね」
自分の銃を逆手に持ち、グリップ側を差し出すと、
武器屋のおじさんも銃口を下げたので、近づきカウンターの上にお互い置いて交換した。
「すまんな」
「いや、なんか何だかんだ外に出たいヒト多いみたいだし、今度結束派の集まりに参加してみるよ。これでも向こうでは何千人か率いた身だし」
「それで、外に出られる日が来たらいいな」
「あと、今度プリンの日をやるから酒場にきなよ。結局誰も自分に勝てなかったから、プリンだけ今度作る事にした」
「そりゃ、楽しみだな。慌てて無理して出ることも無いか」