461.派閥
「さて、まず何から話すかね。アタシが自分で調査出来ない理由からにしようか」
「治安維持が仕事だから後ろ暗いヒトは近づかないんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけどね。アタシは基本的に昔の【巫士】様の言葉を信じていてさ。外が平和になれば出られると思ってる。だから日々自分の仕事をしてれば、時にはアンタみたいな奇特な者が現れて珍しい飯とうまい酒にありつける。それで十分て考え方なのさ。変わらない日々が続く事が幸せだってね」
「じゃあ、外に特別興味があるわけじゃないんだ」
「そんな事は無いよ。平和なら見てみたいさ。危険ならいつか平和になった時に子孫がみればいいのさ」
「確かに平和に暮らせるならこの上ないよね」
「一応アタシみたいなのは維持派とか言われるんだけどね。何かやらかすのは大体他のやつらさ」
「他に何派があるのさ?」
「それがね、はっきりと分かれて喧嘩してるわけでもないんで、分からないんだよ」
「分からないんだ?」
「アタシは特にはっきり維持派だと言ってるタイプだからね。他人に迷惑かけるんじゃないって」
「なるほどね。でも何かきな臭い感じがするから、話を聞いて回って欲しいと」
「そう言うことさ。本当に何も無ければそれでいいんだけどね。時々やらかす奴が出てくるもんさ。特にアンタが来てから、ちょっと外に興味あるやつらがざわついてるからね」
「そっか、そりゃ悪い事しちゃったね」
「別に悪気があった訳じゃないんだし、皆アンタの恩恵に与ってる。どの種族にも平等に接して、仕事もする。アンタは何も悪くないさ」
「まあ、でも話は聞いてみるよ。ちなみにヒントとか無いの?他の派閥について」
「基本はどの言い伝えを心の拠り所にしてるかだね。大体は本当にあった話やお告げだが、解釈の仕方は変わってくるだろ?」
「ああ、道が出来るって聞いたけど、詰まった世界樹が早々抜けるとも思えないし、あそこに道が出来るってのは信じ難いかな」
「だろ?ヒトによって話の感じ方は違うもんさ。それでも似た言い伝えを拠り所にしてるもの同士が結構集まったりするもんなんだよ」
「なるほどね、まずは言い伝えを聞いて回れば、派閥が分かるかもしれないって訳か」
「そうだね、やり方は任せるさ。いきなり乱暴な事をしなけりゃそれでいいさ」
話を聞きつつ、自分は外のセーフゾーンで休み。治安維持のお姉さんは先に帰った。
自分はどうしても寝る時間があるからな~。
そんなこんな、再ログインして、久しぶりの酒場で料理タイム!
飯食わせて、酒飲ませてぽろっと話させちゃおうって訳!
「久しぶりに聞きたいことがあるんだけど」
「おっなんだ?話をするだけでただ飯食えるんだ。いくらでも話すぞ!」
と早速武器屋のおじさんが食いついてくる。
その後も続々と運が良かったとばかりに話に乗ってきてくれそうなお客さん達。
「今回は、言い伝えについてだね。どの種族にも色んな言い伝えが残ってるみたいだから、役に立つ情報でも無いかと思ってさ」
「なるほどな~。じゃあ、俺から行くとな。実は俺達エルフってのは西から世界樹を追って来たんだけど、西の壁の上で生活してた事があったらしい。そこでそのまま山の上を生きたものと、ここに来たものに分かれたらしい」
早速武器屋のおじさんが教えてくれるようだ。
「へ~なんでまた分かれたんだろう」
「詳しい事は分からないが、壁の上は生活が大変だったらしいな。それで力のある一部の者が上に残り、あとは下で世界樹様の根を育てようと生活する事になったとか。今では世界樹様に育てて貰ってるようなものだがな」
「ああ、それなら上に残った者を率いたのが陽精の【巫士】様で当時とても大きな力があったらしい、対になるのが陰精の【巫士】で、今の我らの【巫士】様の先祖じゃ」
とアクセサリー屋のお祖母さんが補足してくれた。
「それなら!陽精の【巫士】様ってのは一目見るだけで、世界樹様に愛されてると分かるような、魂を感じる方だったらしいな!」
いつだか治安の悪い闘技場で見た狼っぽい陰の使い手だったお兄さんが教えてくれた。
「一目で分かるって、そりゃよっぽどオーラのある人だったんだろうね」
「当時エルフの中心的存在で、世界樹様の根を使いすぎちゃいけないって、力を合わせればもっとうまく戦えるって言い続けたらしい」
さらに鎖分銅のお兄さんも話をしてくれた。
「力を合わせればって、邪神の化身相手に力を合わせないわけ無いじゃん?」
「どうやってだ?皆得意な武器も戦い方も違うんだ。それぞれに戦うだろ?勿論仲間割れをするとかそういう意味じゃないが」
まじか、そう言えば闘技場とかで個人の戦闘は見たことあるけど、コンビネーション的な物とかは見たこと無いわ。
「いや、でも何か同時に戦う方法があるんだろうな。そうすれば強大な敵とも戦える筈だし、なんなら誰も契約した事ない巨大な陰と契約出来るかもしれない。陰精の力の強いこの地に俺達が残されてるのは、そうやって力を手に入れろってことかもしれないし」
あ~自分がここに来るヒント貰えたのって、もしかしてそういうことか?
そんな話をしている内に、陰精の【巫士】が酒場にやってきて言う。
「それならば、あなたこそ外で数千人を率いて邪神の化身を倒したと聞きましたよ?」
「ああ、イタチとかから聞きましたか?多少心得はありますけどね」
その後もぽろぽろ言い伝えや噂話のようなものを聞くが、結局何派がいるんだ?
ちと、個人的にも色々聞いて回るしか無いかね。
ちなみに本日のメニューは、大量にある赤鳥蜥蜴をから揚げ定食にした。