451.祭壇を見に行く
数日はのんびり手紙配達したり、料理作ったり、魔物倒しに行ったりとマイペース生活。
そして、ふと思い立ち祈りの祭壇を訪ねてみる事にした。
エルフの街の奥、丘になっている場所に祭壇は有ると言う。
確かにずっとただ広いだけの平野なのに、街の奥だけは少しだけ高い。
しかし、丘に登ってもただ広い何も無い丘。
ただ暗く広がる丘の向こうには、この地域の縁、断崖絶壁の間に世界樹の根が見えるだけ、
丘の端と世界樹には距離があり、下には道とも言えない何も無い空間がある。
そして崖縁に天井?空?からかかる世界樹の細い側根、
どうやらその側根に取り込まれるように祭壇があるらしい。
ぐるっと周りを見てみるも、みっしり囲われていて祭壇の一部すら不明。
「ふむ、本当に何も無い。祭壇すら見えない。でも皆祈りたいんだよね~」
「そうですね」
急に返事をされて振り返れば、陰精の祭殿の【巫士】さんがいた。
「いつぞやはどうも、陰とはうまくやってますよ」
「そうですか、それは良かったです。それで、祈りの祭壇にご興味がおありで?」
「まあ、そんな所です。皆この根を取り払いたいのはなんでだろうな?と。強行しないのは勝手やって追放されても困るからでしょうけど」
「そうですね。街の奥ですから、犯人もすぐ分かりますし。闘技大会で何とか優勝すればいい訳ですから」
「それでも、長い事ムシャマッシュ一強みたいですが?」
「ええ、いつかは、と言ったところでしょうね。それで皆が祈りの祭壇を見たいのは、やはり外が気になるからでしょう」
「ああ、なんか道が開かれるとか」
「ええ、遠い昔その絶壁に世界樹様が挟まるまでは東に行く道があったとされています」
「え?挟まったんですか?」
「はい、伝説に世界樹様が狭間に詰まった時声が聞こえたと言います『あっ詰まった』と」
いや、そんな思ったより細くて動けなくなっちゃったみたいな伝説残したら世界樹可哀想じゃん。
「それで、道が開かれるって言うのは世界樹の詰まりが取れると?」
「そう信じてる方が多いですね。実際の所は分かりません。当時の【巫士】の聞いたお告げでは、世界が平和になったら道が開かれると、それだけですから」
「この場所に祭壇を作る様になったのもお告げ?」
「ええ、祭壇の形や材料もお告げだそうです」
「具体的なお告げですね」
「そういう事もございます。あなたはニューターだそうで、お告げにありました。肉体は仮初の物で、魂のみ異世界からやってくる新たな神の尖兵」
「そんな所です。ところでここより東については何か記録は残ってないんですか?」
「それが、残っていません。あなたは西の絶壁を降りてこられたとか」
あそこは西の絶壁って言うんだ?確かに滑ってきたけど。
「降りたというか、落ちたというか、まあここにヒトが住んでるって言う話は聞いたので」
「ほう?どなたからです?」
「遠い昔にあのつるつる壁を踏破して西の地域に行ったヒトの子孫です」
「そうでしたか、あの西の絶壁を踏破できる者がいたとは・・・どうですか?西は今も争いが絶えないのですか?」
「まあ、争いはあるんでしょうけど、そんな酷いものじゃないですよ。ヒトが協力して魔物と戦って何とか生活してるみたいな」
「ここほど安穏と生活してる訳ではないが、って所ですか?向こうが煩わしくなったと聞いてます」
「何でも聞いてるんですね」
「余所者は少ないですから、噂は全部耳に入ります。今のところ悪い噂は無いですが、何をしてもすぐに広まりますよ。食料をたくさんお持ちとか」
「まあ、手の空いてる限り、飽きない限りは料理してますし、勘弁してください」
「別に何も要求してませんし咎めてもいませんよ。聞いた限り地獄の様相では無いようなので、外に出れてもいい筈なのにと思っただけです」
「エルフにしては外に出たい派なんですね」
「エルフも外には興味ありますよ。ただ危険が無いか警戒しているだけです。ちなみにこの丘は避難所にもなっていますよ」
「へ~道理で広いと思ったら」
「大昔とても力のある【巫士】が予知夢を見たそうです。この地が水に飲み込まれ、あらゆる物が消し飛ぶ時、皆この丘に集まり、穴を掘り身を隠してやり過ごしたと言う夢を」
「ん~まず、何故予知夢と分かったのか、後は皆がここに集まるって、そんな事あるのかって言う」
「予知夢だと分かったのは力のある【巫士】だからでしょう。皆がこの丘に集まるのは年に一度祈りを捧げる日があるからですよ」
「じゃあ、その時隠れる用の穴も掘って有ると」
「ええ、勿論。何かあったら逃げ込むといいですよ。その為の穴です」
「それは、どうもその時はよろしくお願いします。どうもついでに氷精の冷気を自分に流した時の効果って教えていただいても?」
「氷精の力は状態の維持。もしヒトの身でその力を現すなれば、相手の行動停止」
「自分自身に使った場合は?」
「あらゆる事象に対する耐性、外部から受ける影響を減少する力です」
「ああ、やっぱりそうなんだ。氷精盛るしか無いか。ありがとうございます」
「いえ、それではまた。いずれ食事を食べにうかがいます」
何をしに来たか分からないけど、聞きたいことは聞けた。
丘の麓に降りて、世界樹を見上げ手をかけ様にも、取っ掛かりがどこにも無い。
世界樹が詰まった絶壁も同様に掴む場所が無い。
登れるなら登ってみようと思ったが、無理みたいだな。諦めるか。