445.ここが楽園だった
「あれ?丸耳の!俺のコレクション見に来たのか?」
自分は早速イタチの住む地域に来たが、とにかく冷静に落ち着いて、相手に反発心を生まないように、諭す必要がある。これはとても重要なミッションだ。
「うん、コレクションは他人がどう思おうが、本人にとってとても重要な物だって事は分かってる。一切否定する気は無いが、自分に言ってない事があるんじゃないか?」
「いや、何だろうな?ちょっと思い当たらないが」
「そうか、もしかしたら、日常の事になりすぎて気がついてないのかもな。とにかく冷静に聞いてくれ」
「あ、ああ・・・きっと重要な事なんだろう。言ってくれ」
「うん、イタチの仕事は土を掘って、出て来た塩や鉱物を供給する事だね?」
「ああ、その通りだな。なんかまずい事があるのか?」
「うん、非常にまずいぞ。宝石を使わないからと放置してると聞いたぞ?本当なのか?」
「ああ、使わない石なら、適当に山にしておいてあるぞ」
「おいおいおいおい、自分がそれに対してどれだけの価値をつけると思う?」
「いや、知らないけど、要は石が見たかったのか?別にいいぞ。誰も要らないから集落のはずれに山になってるから」
「え?いいの?」
「構わないぞ。何なら好きなだけ持って帰れよ」
「何言ってんの!もし今後余所者が来たら、そんな事言っちゃ駄目!外じゃ希少品なんだからね!」
「そうなのか?じゃあ、珍しい酒一杯と交換してもらうわ」
「このお馬鹿!貴石一個で酒何樽と交換できると思ってるの!」
「そうは言ってもここでは食料の方が希少なんだから、いいじゃないか」
「そうかもしれないけど!」
「じゃあ、米と交換しようぜ、蜘蛛の奴らが自慢してきたから、米食いたい」
「そんなんでいいのかよ・・・」
「まあ、余所者がたくさん来るなら考えるけど、今は別にいいじゃないか。お前しかいないんだから」
うん、そうだな。互い懐の痛まない物どうしを交換して納得できるならそれが一番だよな。
決して、買い叩こうとかそんな気は無いぞ。
そうして、居住区の外れに案内された。
そこには本当にごみのように、穴の中に大量に廃棄される石。
しかし、磨けば何が出てくるのか。
何でも出るって言うから、外れも多いのだろう。ただの石ころとか、そりゃあ廃棄しておくしか無いよな。
「あれだよね、宝石とか鑑定できるヒトがいないから、取り合えず何でもここに廃棄してるんだよね?」
「いや、一応名前がついてる物だけ積んでおいて、長耳の連中が使う分を持って行くんだ。トルマリン?あれは確実に使うから拾った奴はラッキーだな」
つまり、トルマリン以外の名前付きの宝石がこの深さがどれくらいかも分からない穴の中に無造作に投げ込まれてる?
うえぇぇぇぇ!じゃあ、もうぜー~んぶ自分の物ダーーーーー!!!
「いやっほー!!」
「おい、危ないぞ飛び込むな」
危ない、正気を失ってたぞ。これが宝石の魔力か、常人にこの状況はきつすぎる。
さっと選んでさっと立ち去ろう。またいつ意識をもっていかれるか分からない。
「じゃあ、米1俵といつ使えるか分からない外のお金置いて行くから、一個だけ貰って行くね」
「へ~珍しいな、いいぜ!どうせいつ使うとも分からん物だし」
精神を統一。
研磨前の原石の上にそっと降り、一個だけ石を拾って、すぐに穴の上に出る。
そして居住区に二人でさっさと引き上げだ。またおかしくなる前に!
さて、何を拾ったか確認タイム。
実際このゲーム内の宝石価値が外と一緒ってわけでも無いしな。いくら置いていくかな。
ん~なんか黒い原石、ヘマタイトでは無さそうだな。セレンディバイトにしては真っ黒だよな。
うん、そんな高級品な訳無いよな。期待しすぎだぞ・・・。
いや、でもワンチャン、ブラックスピネルとか・・・いやブラックダイヤ・・・。
やめとけ!期待すればするだけ後で傷つくぞ!そもそも全部当たりガチャなんだから、ただの石じゃなければ全部当たりでいいじゃないか!
普通にいけばこの黒さはオニキスか?いや、やたらマットに見えるんだよな。磨いてない所為か?
行くぞ<分析>。
「・・・なんでやねん・・・」
「ああ、そりゃハズレだな。いくらでも出てくるぞ」
「いや、おかしいじゃん。何でジェットが出てくるんだよ」
「シラネェヨ。土掘れば出てくるんだ」
そういや、石炭が出てくるんだから、出てもおかしくないのか。
高圧下で何万年もかけてされて炭化、石化した古代の樹がジェット。要は木の化石。
アンバーが木の樹液なら、木そのものが化石化したもの。
燃えるし、柔らかいからすぐに傷がつく、何より軽い。
いや、でも現実ではジュエリーとして取引されるし、昔から装飾として使われて、廃れてを繰り返してきたそんな宝石?だ。
「うむ、どうするか」
「もう一個拾いに行くか?流石にそれは外れもいいところだろ?」
「いや、自分は気に入ったし、いくら払おうかと思って」
「米でいいって、なんなら一食奢ってもらうだけでもいいぞ」
「何かリクエストは?」
「米を使った物で、なんか珍しいやつ」
よし、まずは持ち込んだ乾燥椎茸を鍋の水で戻す。
その間に適当な白身魚を適当サイズに切って、醤油と生姜に漬けておく。
人参ごぼうを細く削ぎ切りに、戻した椎茸も適当サイズに切る。
椎茸を戻した水に米を入れて水を吸わせ、醤油を少々、
昆布、切った根野菜、切った椎茸、白身魚を乗っけて炊く。
焚いてる間に、ごぼうと人参味噌汁もでっち上げ、完成!
「こんな物でどうよ?」
「へ~コリャうまそうだ」
白身魚の炊き込みご飯と根菜味噌汁をかっ込み始める。そっと米酒も添えておく。
「まあまあ、でしょ」
「まぁまぁ、どころじゃないぜ!この肉じゃないやつ?多分うちの連中は皆好きだし、ただの塩味じゃなくて深みがあるし、でも程よい甘みが塩味と合うし、腹にたまってほっとする。何か芯から温まるぜ」
うん、エルフや白蜘蛛、黒蜘蛛よりよっぽどちゃんとコメントしてくれるわ。
皆、速攻かっ込むからな。珍しいご飯に夢中になるのは分かるし、おいしく食べてくれるのは分かるけどさ。
それに米一俵といつ使うかも分からない金貨10万枚も渡す。
自分が手に入れたのは〔世界樹の黒玉〕。
長生きの世界樹が、自然と落っこちた部分を化石化しちゃったのかな?水も高圧も作り出せるもんな多分。