443.芋!テンションMAX
今日は白アラクネの所に手紙配達。
何気に、魔物の素材を治安維持のお姉さんに渡したら、店に買い取ってもらうのに間に入ってもらえたので、実は結構懐にも余裕が出てきた。
しかし、少しでも働いて好感度を上げておいてもいいだろう。
今のところここにいて困ることも無いし、当分の潜伏場所としては悪くない。
酒も食料もまだまだ有るしな。なんならお酒も交換してもらえたし。
ここのお酒は所謂ハーブリキュールと茸酒。
茸を酒にしちゃっていいんかい!って言ったら、あの歩いたり話したりするのとは別の食用だからいいんだって、なんぞそれ。
どっちも、それなりの量あるからって、まあ・・・結構な量を交換してもらったので、ホントにお酒には困らない。
なんなら、ハーブリキュールの方は予め飲んでおくと病毒や毒に多少耐性つくし、茸はなんかスタミナ回復するみたい。
自分は歩きすぎでスタミナのステータスが高いのか、スタミナが切れるって言う状態があまりなった事無いんだけどさ。
そんなこんな白アラクネの所に着くと、また黒アラクネと喧嘩してる。
喧嘩するほど仲がいいってね。
「手紙ですよ」
「あら、今日は私?まめね~、どうせこの時期の用事なんて決まってるのに」
「あっそうなんですか?じゃあいらなかった?」
「そんな事無いわよ!そう言えば、あんた闘技大会出るの?」
「出ないよ?別にどの種族にも属してないし」
「そ、そうよね。あんたが出ちゃったら・・・」
「え?」
「いやいいの!それよりこの前の食料どれも美味しかったけど、あの芋が美味しかった。この辺りの芋と違って甘くなかったけど、焼いて塩かけたら皆喜んでた」
「・・・?芋が甘い?この辺りは芋があ・ま・い!!!!?」
「ええ、一個上げるわ。火を通すと甘くなるわよ」
「こりゃ・・・サツマイモじゃないか!こんな物が土を掘るだけで出てくるだって!」
「そうだけど?でも毎日甘い物だとちょっとね」
「分かった!これを美味しく食べられればいいんだな!いいだろう!」
速攻細かく賽の目に切り、米と一緒に炊く。昆布を浮かせ、ちょっとだけ塩を足すのがポイントだ。
「え?何テンション上がってるの?ねぇ、怖いんだけど?」
「へい!お待ち!さつま芋ご飯食いねぇ!」
黒アラクネと白アラクネにそれぞれ芋ご飯を差し出す。
二人とももそもそと食べ出すが徐々に食べる速度が加速して、山盛りご飯があっという間に消えてしまった。
「うまかった。ご馳走様」
「おかわり!」
「もう、無いよ。さて後出しだけど、ご飯を奢ったらこの辺りの事を聞く事にしてるんだけどいい?後出しだから嫌なら別にいいよ」
「ガーン、口がちょっともそもそしたから、せめて水か何か」
「我ままなやつだ。食べた事も無い飯を奢ってもらっておいて」
「お酒でよければ出すよ」
と、米酒を二人に渡すと舐めるように飲みはじめる。一気にいかない辺り飲み慣れてる。娯楽が少ないからお酒の飲み方もうまいのかね。
適当にお湯を沸かして、味噌汁の準備をしていると、
「さて、この辺りの話だったな。俺は羊の事しか知らん。例えばこの辺りで火をつける時は、羊の毛を丸めて擦ると火種になるんだ」
「へ~不思議、何でだろう?」
「羊は雷精の力を纏っているからな、機嫌が悪いとバチバチはぜて大変なんだ。毛を丸めて擦ると雷精の力が走って、毛が燃える。毛をむしった皮は乾かして紙にする。肉は食う。骨や食えない部位はちょっとした材料に使ったり粉にして撒くと草が良く成長する」
「なるほどね~。ちなみに、ここの外に出たヒトの話とか知らない?」
「噂だけなら知ってるな。大昔北の絶望の地の氷壁を溶かそうと、南の赤い川の主に追いかけさせて、数日間走り続けた者がいるという話が残っている」
「そりゃ、また凄いヒトがいたもんだ」
「うむ、黒蜘蛛族は足が速い者が生まれやすい。さらに足の速さを手伝ってくれる陰と偶々契約出来たらしい。はじめは白蜘蛛の蜘蛛絹の服で暑さを防ぎ、その後は雷羊の服で寒さを防ぎ走り続けたとか」
「へ~白蜘蛛の糸とその羊の羊毛にそんな効果があるとは」
「そうなんだ。それで最後には絶望の地の氷壁との間に挟まれたと思ったら、赤い川の主はその場で凍りつき、その追いかけられていた者がどうなったか分からない。もしかしたら挟まれて死んだかもしれないし、もしかしたら壁の向こうに行けたのかもしれないとも言われてる」
「中々、壮絶な話だ。皆慎ましやかに暮らしてるのかと思ったら」
「そりゃ、この平和がいつまでも続けばいいと思う者がいれば、もっと外の世界を見てみたいと思う者がいるのも自然な事だ」
「そう、自分は外から逃げてきた身だしな。別に悪い事はしてないんだけど、面倒くさくてねしがらみとか。ところで外に出たら何かしたいとかあるの?」
「そうだな、もっとたくさんの羊を飼ってみたいかな。後は色んな所を思いっきり走ってみたい」
「こんな、だだっ広くて見晴らしがいいところ中々無いよ?」
「こいつは、暇さえあれば、西の端から東の端まで走り出すから、もう景色に飽きちゃってるのよ。そんな事よりその汁は食べれるの?」
「おい!まだ食べたり無いのか」
「ああ、足りないのかと思って作ったから、汁物でお酒飲むのも中々乙だよ」
二人に出来た味噌汁を差し出せば、味噌汁で米酒を飲み始める。
「それで、お前は食ってばかりで、何か無いのか?」
「私?私は種族をいっぱい増やして大族長になるわ!」
「そんなに増やしたらもっと優秀な者が現れて、取って代わられるだろう」
「そりゃそうだね」
「ムキーーー!!何よ!」