441.そこまで治安の悪くなかった街と武器屋
「頼みがある」
街に戻って来るなりいつものエルフの女の人から頼み事。
「別に、出来ることならやるけど何かあったの?」
「ああ、今年の代表を決める為に、街中の人間が闘技場に集まって大会を開催するんだがな」
「それで?それに出場するの?何の代表か知らないけど」
「いや、オマエには料理を作ってもらいたい」
「ああ、戦うヒトの栄養補給的な」
「違う、オマエが配った食料が思いの他、好評なんでそれを使った料理に皆興味津々なんだ。それで優勝者だけに賞品として食べさせる事にすれば贔屓が無くなるだろ?」
「あんたは食べておいて今更贔屓とか」
「じゃあ、街中のエルフが集まって、死ぬほど料理作り続けるのか?」
「え?そんなんイライラするけど?」
「だろ?だから優勝者に作って欲しい。報酬は銀貨20枚だ」
「引き受けるかね!ところで、何で闘技大会とかやるの?しかも代表って」
「息抜きと今後の方針を決める為かね、勝ったからって何でも我侭を聞けるわけじゃないが、勝てば少しは要望が通ると思えば、少しは息抜きになるだろ」
「ふーん、その予選会みたいな感じか~」
ちょっとこの地域の戦い方とか気になるし、興味あるな。
陰と契約するっていうのが、自分は今のところ腕から伸びた尻尾で世界樹の根とかに登れるだけだからな。
まあ、この前確認したら、木に巻きついてるんじゃなくくて、くっついてたのは不思議。
「引き受けてくれるなら、3日後だ。会場は街中で騒がしい場所だからすぐ分かるだろう」
「分かった。3日後騒がしい場所ね」
自分の場合はログアウトしてログインしたら当日って寸法だ。
となると、お出かけしちゃうと大変な事になるな。街中散策でもして、本日は終了って感じで行くか。
初めて来た時は荒んだ治安悪げな街に見えたけど、よくよく考えたら、酔っ払いがそこらで寝てて、なんとも無いって逆に治安いいよね。
地元住民も掴んだらウエハースだったし、なんも怖い事ないわ。
建物はコンクリか土壁か、木がそもそも水源周りにちょっとしか生えてないんだから、木製は無理なのか。
流石に世界樹の根を使って木製の建物作ってたら、どんな高級な家だって話になるよな。
宝剣で作った家みたいなもんでしょ?大昔に邪神の化身を倒す為の材料に使うくらいなんだから、そん辺りは宝樹と同じなんだろうし。
その根を育てながら、慎ましやかに生活してるなら尚更家作るのに使わないだろうし。
そうなると、どこからか掘ってきた土とかを使うのが普通だもんな。多分世界樹は土とかにも影響与えるんだろうしさ。
あれなんかね、世界樹的には下にもヒトが住んでるのが分かるから、あえて水が落っこちないようにしつつ、色々整えてあげてるみたいな?
ん~分からんな。このゲームのヒト以外の存在って何となく気が長いけど結構雑って言うか、スケール感が違いすぎるからな。
そんなこんな考えながら、ふらふら街をうろついてると、明らかに客商売してそうな建物。
普通の集合住宅ではなく、扉が両開きに広く開き、尚且つ中が明るければ、お店と判断しても間違いないだろう。
現実ならそんな事は絶対にしないが、ゲームなので、入れる建物には声かけて入っちゃっても平気。
店は明らかに武器防具のお店、剣やらナイフやら槍やら普通に置いてある。
形状は割りとシンプル。直槍に直剣、特に意匠も何も無い攻撃する為だけの金属の塊にちょっとだけ宝石がついて若干ファンタジー。
嫌いじゃないセンスだな。
「ん?なんだ?店になんか用か?」
と、いつもご飯を食べるおじさん。この人の仕事場はここだったのか。
「ここって武器屋さんみたいだけど、装備の手入れとかもお願いできるの?」
「ああ、勿論それが仕事だからな。だが少々金が掛かるぞ。手紙配達だけじゃきついだろう」
ふむ、気ままに魔物狩りしちゃって、自分で<手入れ>はしたが、預けられるならちゃんと預けた方がいいだろう。
「お金貯めたら、また来ますわ」
「そうだな、それがいい。この前酒場の喧嘩は見たがそれなりにやるみたいだもんな。まあ相手も陰は出してなかったが」
「ああ、今度闘技大会で実際に見るつもりだけど、やっぱりこの辺りのヒトって陰で戦うんだ?」
「そうだな、陰と契約して、身に纏ったり使役したりだな。なんか大昔に得意としてた武器は二度と世界樹の根を使う事が無いように捨てたらしい。ここいらの武器は原始的な武器を模した物だが、まあ使えんことも無い」
「自分はまんま背中に背負ってメインで使ってますけどね」
「俺達は種族的に精神力と術の出力が上がりやすいが、こういう振り回すのはあまり得意じゃない。物を作れるくらいには器用だから、当てるだけなら得意なんだがな」
「じゃあ、弓矢とかの方が得意そうですけど」
「物を大事に細々と食ってこうってヒトがそんな消費武器使うと思うか?」
まあ、そりゃそうか一応弓矢って物は分かってるらしいが、そんな物使うわけが無いのか。
しかも精霊術を使うには賢者の石が必要。それがエルフがいた頃からの大昔からあったかは不明だけど。
でも陰精術は陰と契約すれば使えるのか。あれ?そうなると?
「陰精術を使うのに消費する代償とかって?」
「それは一つに契約する事。気があったり、話が合ったり、戦って屈服させたり、そこは色々だ。もう一つは常に身につけることだ。契約したら、契約解除するまで外せない。俺はこれだ」
そう言って、差し出してきたのは一指し指に嵌った陰の指輪。
「へ~自分はこれですね。まだ仮契約で力を全部使えるわけじゃないんですけど」
そう言って、腕輪を見せると、
「おいおい、そいつは止めておけ、ここらじゃ最弱でどこにでもいるやつらだぞ。子供でももう少しマシな陰と契約する。俺みたいに戦うのが得意じゃない者だって最低限危険から逃れるくらいの力は持っておくもんさ」
「そんなに弱いんですか?」
「ああ、そこらに引っ付く能力と周囲の気配を感じ取るくらいだ。弱いからその能力で逃げ回る事は出来るが、流石にな~」
「十分役に立つと思うけどな」
「まあ、あんたが、それでいいならいいんじゃないか?俺のも壁を造れるだけだし、壁を作って緊急避難したり、盾にしてもう片方の手で武器持って殴ったり、硬さやサイズを変えられるんでな、殴られるのが嫌いな俺には合ってる相棒だ」
「普段は指輪になる盾とかそれは便利だな。盾は嫌いじゃない」
んで、殴る武器ってのはこの辺に置いてある棍棒かな?
「おいおい、下手に触るなよ。うちの武器は雷精の力が宿ってるものが多いから、ビリッと来るぞ」
スタンロッドかよ!なるほどね。振り回すのが苦手だけど、取り合えず相手に当てて電気流すのか、そりゃいやらしいな。
「道理で外の明かりもなんか雷精の物っぽい」
「そうだな、雷精は陰を好むからな。この辺りでは陰精と並んでメジャーな精霊だな」
「あれ?でも<雷精術>ってどうやって鍛えるの?」
「ふむ、今度飯奢れよ」
「言われなくとも」
「街中の雷灯が有るだろ?あれってのは精神力で灯してるんだ。先に言った通り俺達は元々精神力が高いからな。なんならただ精神力を流し込むだけでその日の仕事をした事になるんで気楽なもんさ」
「・・・つまり全員<雷精術>習得してて、たまに暇な仕事すれば、習熟した事になっちゃうと」
「そう言う事だ」
発電所的な物があるわけじゃなく、人力発電だったのか。
こりゃ、<雷精術>も取得案件かな?今の自分は<精霊術>を持ってる分だけ<気脈術>の幅が広がる。
「雷精の祭殿てどこにあるの?」
「雷灯のバイトもはじめるのか?まあ、手紙配達と料理だけじゃ金も足りないもんな。陰精の祭殿の近くにある地下の奥だぞ。何しろ陰気を好むようで、変な場所が祭殿になってるのさ」
そりゃ、この前行った時に見つからないわけだな~。