44.すれ違いの騎士
「うむ、方々巡って色々とお土産が手に入ったの、過疎地だと思っていたが期待以上の成果じゃわい。プレイヤーこそ少ないが、やはり各地に特産品なんかが設定されてるんじゃろうな。今後も色々と巡ってみるのも面白いかもしれないの」
巡礼の騎士なんて物語にしか出てこないがロマン溢れること荒川の如しじゃ、昔は大雨降るたびに膝まで浸かってたが最近はどうなんじゃろうか。
「確かにお土産は手に入りましたが、肝心の【兵士】の方にはお会いできてませんよ?そして【帝国】東部を巡っているうちにまた【古都】にたどり着いてしまいました。」
「うむ、今はまだ出会うべきタイミングじゃなかったと思って諦めるのも一つかの。一応最後に【兵舎】によるとしよう」
「そうですわね。案外戻ってきているかもしれないですし、もし用事があるのなら伝言を頼んでもよろしいかと」
「その手があったか!なぜ前の時言わんかった。そうすればどこかで待ち合わせるなり出来たじゃろうに!」
「ええ、私もうっかり失念しておりましたわ。しかし、そろそろホームに戻りませんと次のイベントの準備もあることですし」
「まだ、発表にはなっておらんかったじゃろう。焦っても仕方ないわい。なにより【騎士】たるものの本分ではなかろう?」
「しかし、弱いままではその徳目も守れませぬ、実際的な強さはあってもそれを証明することが出来ねば、社会的不義をなすものの抑止力にはなりえません」
「まあ、良いわい、ワシはイベントには余り興味ないしの好きにするといい。なんだかんだしゃべっとるうちに【兵舎】に着いたようだしの」
すると先客がいたのか受付でスキンヘッドのおっさんと談笑するプレイヤーが一人。なんとも言い難い地味な見た目じゃ、が、妙にすわりのいい立ち姿、継ぎ目の分からない静かで自然な呼吸、何より後ろにも目が付いているような警戒域。普通後ろほど隙が多いものだが、まるで真円を描くようなパーソナルスペースに足を踏み込むのも躊躇われるが、逆に突っかけてみたくなる。そんないたずら心と挑戦心を湧かせる姿でもある。
こいつは面白い。素直にそう思える強者の匂いじゃ。いやらしさもはったりもない。ただあるがままに強い!
「おっ!しゃべりこんでたら他人の邪魔になってたか、悪かったね。んじゃ、兵長ちょっと逝ってくるわ」
こちらに気が付いて受付から離れる若者。
「いえ、別に今着いたばかりですので邪魔になどなっておりませんわ。こちらこそお話の邪魔して申し訳ないですわ。なんならお待ちしてますけど?」
「いや、兵長とはいつもしゃべってるし、いつでもしゃべれるからね、用件も済んでるから、もう行くよ」
出入り口のあるこちら側にゆっくりと歩み寄る若者とふと目が合うが、すぐに逸らし、そのまますれ違う。その瞬間、若者の後頭部を抜き打ちで剣でなぎ払う。
そして、ごく当たり前のように自然とナイフで受け止めて、笑みを浮かべながら平然としている若者
「すまんの、つい試したくなってしまっただけじゃわい」
「まあ、そう来るだろうと思ったし、気にしてないよ」
「でもの、もう少しで体から首が離れるところじゃった訳だがの」
「本気でその気なら、あんな早くから殺気向けてないでしょ?扉から入ってきた瞬間から分かったよ。あんた、できるんだろ?」
「ふむ、簡単に受け止められる程度にはの」
「まあ、いいさ、用事もあるしもう行くよ」
「また、会うことになるかの?」
「敵同士としてじゃないことを祈るよ」
「ワシもそう祈るとしようかの」
うむ、あやつできる!お約束というものを完全に分かっておるの、最近の若者にしてはなかなかじゃ。あえてあの見た目からのギャップがまた。ここぞという所でいつの間にか現れて全部掻っ攫っていく名脇役を彷彿とさせるわい。やはり騎士の物語にはヒロインと好敵手が無ければ色もへったくれもないからの。
「珍しいですわね、あんな風に挑発するのは初めて拝見しましたわ」
「それに見合う実力者がおらなんだからの。あやつは出来るぞ。見込みどおりじゃ」
「そういうのはいいがな。施設内で剣を振り回すんじゃねぇ。次やったら憲兵に突き出すぞ。牢屋でくさい飯をおごってやる」
「すまぬ」
怒られてしもうたわい。まあ、確かにいくら閑散としているからと言って、街中の施設内で剣振り回すなぞやっちゃいけないの。良い子は絶対真似しては駄目じゃ。いくらカッコイイからと言ってもやって良い事と悪い事があるからの、じいちゃんとの約束じゃ!!
「それほどの、実力者でしたか、残念ながら私にはそういったことは分かりかねますが『Kingdom Knights』に勧誘しても良かったかもしれないですわね?」
「多分、来ることは無かろう。独立不羈の強さを感じたわい。下手をすればうちのもんなぞ歯牙にもかけぬだろうの」
「しかし、小隊を組むことによるボーナスは我々と一緒で無ければ受けられませぬ。個人には無い強さという物を教えて差し上げれば、なびく可能性もあるのでは?」
「あいつは中隊長だぞ、小隊長よりずっと上だ。むしろお前さんが入れてもらえるように努力するんだな」
「な!?現状我々しか小隊の恩恵を受けることが出来ないはず。絶対的アドバンテージを圧倒的に覆される等、そうそう簡単に信じることが出来ません。中隊ということは一個上のユニオンということですか?」
「何言ってやがんだ?中隊ってのは100人に決まってるだろ」
「な、なんですって!!そんな圧倒的な・・・よっぽど特化したジョブなのかしら、何故こんな辺境で、いや辺境だからこその特殊な・・・」
「流石に100人隊長とは予想できなかったがの、じゃがそれ位の強さは感じたの」
「なにを驚いてるんだか知らんがな。あいつに用事があったんじゃないのか?」
「なにを言っておるんじゃ?勧誘も無理そうって話じゃろ?今は」
「いや、そうじゃなくて前に来た時あいつの話してたじゃないかこのあたりで【兵士】をメインでやってるニューターを探してるんだろ?この【古都】じゃあいつだけだぞ。後はサブジョブ位だな」
何~~孫~~
その見た目はいくらなんでも地味すぎるぞ!そして、いつの間にそんな達人みたいな佇まいになったんじゃ。確かに子供の頃から剣を持たせれば所構わず振り回し、斬りつけ、際限なく見たものを破壊する狂戦士のような子じゃったけど。何!その余裕の表情と受け答えは!!
でも、流石孫じゃ!!お約束というものをコレでもかって言うくらい分かっている。一切の照れも無くあんな格好良い台詞言えるとは、我が孫ながら恐ろしいぞ。
「なんと!道理であんな挑発の仕方をすると思いました。なるほどあのすれ違いざまで、剣で語り合ったというわけですか」
そんな格好いいものじゃないの、まあ、今回は仕方あるまい。元気に強くなっておる姿を見れれば十分じゃわい
「さてと、ワシらもお暇するかの。お土産が悪くならないうちに戻らなくては、の」