433.初仕事
女のヒトが声を掛けても誰も反応しない。
正直、上から物を言われるのは気に入らないんだけど、まあ仕方ない割り切ってお仕事しますか。
「自分がやろうか?」
「あんた?何者だい?見ない顔どころか、見ない種族だね。なんでこんな所にいる?」
「何でって言われると、まあ、元いた場所が煩わしくなったからかな」
「ふん、外にもヒトはいるって話は聞いてたが、初めて見たね。ここじゃ歓迎はされないよ?まあ、来ちまったものはしょうがない。働きな。じゃなきゃ食うものは無いよ」
「だからそう言ってるじゃん。そして食うものは当面自分の手持ちで足りてるし、さっきそっちの人にも奢ったばかり」
「そうかい、仕事は簡単さ。この手紙を北にいるイタチに渡してくるだけさ。これくらいなら出来るだろ?」
「まあ、向こうじゃ【運び屋】をやってたからね。手紙なら問題ないよ」
「【運び屋】ってのは知らないけど、手紙を渡したらこの板にサインを貰ってきな」
そう言って、丸めた羊皮紙と木切れを渡された。
基本は【運び屋】と一緒のルールなのだろう。アイテムバッグには入らないので、薬をさしてるポシェットに突っ込む。
そして、街を出る。
「それで、イタチってのはどこにいるか分かる?」
『イタチはね、北で穴掘ってるよ』
へ~イタチは穴掘ってるのか~、よく分からん。
やっぱり現地で現物見るのが一番間違いないな。
「おい、あんた」
さっき飯を奢ったおじさんだ。
「ん?何かありました?」
「行くなら、水源の方を一回経由した方がいいぞ。それだけだ」
それだけ言って、また街中に帰ってしまう。
好感度低い筈なのに、一応教えに来てくれたって事は、食事とお酒の効果ありなのかな。
折角教えてもらったし、ここは一回水源まで走りますかね!
ほとんど何も無い平地、折角生えた草地だけは避けて水源に向かう。
あまりに何も無さ過ぎて、どうしたもんか。
少しスピードを緩めると、陰に話しかけられた。
『早くなったり、遅くなったりするものな~んだ』
なぞなぞか?鳥っぽい見た目の陰が自分に併走するように飛びながら、話しかけてきたんだが、意図が分からない。
「心臓の鼓動?」
『お前だーーー!!ひゃひゃひゃひゃひゃ』
そう言いながら空中を宙返りして、遠くに飛び去って行く。
『そーらをじゆうにと~びた~いな~・・・』
飛んでるじゃん?
やっぱり陰の生態はいまいち分からない。そもそも何も食べないらしいし生態も何も無いのか。
契約できるって話だもんな。ヒントがまだ少ない。
いや、前になんか聞いたよな。
【森国】か、酒呑童子が何か言ってた真名がどうとか、確か具現化して・・・?忘れた。
でもお酒飲んでたよな。陰は何も食べないって聞いたけど?
「ねぇ、陰ってお酒だけは飲めたりするの?」
『え?無理だよ?何で?』
「いや、前に具現化した鬼にお酒と交換で玉をもらった事があったから」
『へ~具現化か~。ここの人は契約して使役させたり、身に纏ったり、武器にしたりするけど、具現化って何だろう?陰のままでも戦えるし、僕はそういうの苦手だけど』
「自分も聞きかじっただけだし、所変われば、ルールも違うのかな」
そんなこんな走りながら数日。ただの平原で、しかも暗いので、光ってる茸を探すのは簡単。
つまり、セーフゾーンで休むのも簡単。
水源に辿り着き、さてどこから北に向かうか。
『もし、分からない事があれば、アタマガイイダケに聞いてみたら?』
「何それ悪口じゃん」
『違うよ。そういう名前の茸。そこら辺に座って何もしないけど、いろいろ知ってる不思議な茸だよ』
「それは、確かに不思議な茸だ」
水源周りの草の多いところをうろうろ、アタマガイイダケを探す。
「オマエ ミミ マルイ! ニューター!」
「あっこんにちは、アタマガイイダケはどちらにいますか?」
もう慣れたので、普通に聞いてみる。
「アッチダ!」
「お礼はどうしましょう?」
何の事か分からないのか首をかしげているので、ムシャマッシュが指差した方に向かう。
すると、萎れかけのサルノコシカケのような茸が一本生えてる。
「何か用かの?」
「北のイタチに会いたいのですが」
「会ったらいい」
「向かうルートを窺いたくて」
「それなら、ここから真っ直ぐ向かうか、左に迂回するかじゃ」
「ありがとうございます。お礼はどうしたら?」
「別に我らは水があれば生きていける。何もせん方が助かるのでな」
と、言う事なので、北に向き真っ直ぐ走り出す。
「ちまみに真っ直ぐ抜けると乱暴者が居座ってるからおススメせんがな。だから迂回する道もあるのだが、そんな事は分かっておるから行ってしまったのだろう。もしそうでなかったとしたら、そんなせっかちな者はすぐに怪我か病で倒れるし、あまり気にしてもしょうがない」