43.スペーヒの決意
■ 軍狼 ■
指揮系ジョブを持っているプレイヤーが100人率いることが出来るようになった時 試練のように現れる魔物
率いる群れこそ現れる場所によって変わるが 軍狼は何処でも同じ姿をしており何処からとも無く現れる為生息地域も不明
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間もなく到着するであろう魔物の大群を待ち構えながら、この砦の各部隊長達の<戦陣術>を確認していると、結構自分とかぶっている。100人率いる場合はもっと複数同時に動かすような術に絞った方がよかったのかもしれない。
とりあえず指揮系スキルについては自分の下位互換って感じだ、精神力の足りない時に頼む形にしよう。
「隊長!魔物の群れが数100頭相手なんて正念場ですね。砦が抜かれるわけにはいかないですからね」
「スペーヒ、珍しく気負ってるな。いつも地味に淡々としてるだろ。流石に緊張するか?」
「そりゃあしますよ。隊長はそうでもないんですか?」
「いや、胃が痛い。なんだっていきなりこんな大役任されるんだかな?敵さんももう少し空気読んで欲しいぞ」
「むしろ、相手がペーペーだから狙ってきたんじゃないですかね?」
「まあ、100人率いるのは初めてだからな、確かにペーペーだわな」
「実は【旧都】は実家があるんですよ」
「おい、やめとけ、病気の妹やら弟やら婚約者やら出したらまずいことになるぞ、いや、マジで」
「兄弟は兄貴しかいないですし、都からは少し離れた場所で農家やってますよ。それにしたって、抜かれるわけにはいかない。死ぬ気で戦いますよ」
「死ぬ気とかいらないから、冷静に指示に従って戦ってくれよ。頼むから」
「了解、そろそろ見えてきましたかね」
「目がいいなスペーヒは。相手さんほとんど白ばっかりじゃないか、良く見えたな」
「慣れですよ。この辺りの魔物は皆白いですからね、雪に染められたような色してるやつらばかりだ」
「そうだな、一応あの赤と青と黒は見えるんだがな。黒大分でかそうだな」
「多分その黒がボスですね。どう来るか分からないですけど、くれぐれも気をつけて、隊長が倒れたら隊も総崩れですからね?」
「あいよ、じゃあ、総員警戒態勢そろそろ敵さんがやってくるぞ!!」
なんとも絶妙な間合いを開けて対陣してくる魔物の群れなんともいやらしい、野性の勘か、いっそ多人数戦が得意なのか。
「よし、全員分かっていると思うが、ここを抜かれるわけには行かないからな『いくぞ!』」
戦陣術 激励
一気に全軍の士気が上がる。なんかカッコイイ台詞の一つも言ったほうがいいのだろうが恥ずかしいし思いつかない。
相手も吠え声が聞こえる。お互い準備完了って訳だ。
一斉に白い犬型魔物が、迫ってくる雪崩を思わせるうねりに思わず気を飲まれそうになるが、踏みとどまる。
戦陣術 戦線維持
まずは、防御力を上げて我慢の時だ。クラウゼヴィッツの言うところの攻撃を待ち構える状態だ。
よく観察すれば、相手も主力と見られる三匹は後方から動いていない。
白い犬共を横隊ごとに順次ぶつけようとしてくるだけだ。まだ、本気じゃないってことだろう。そういうことであれば、
「重装兵は欲を出すな守りに専念しろ!弓兵は余力を残しつつ丁寧に相手を削れ、反撃の機会は来るからな落ち着けよ!歩兵は力を溜めて置け!」
徐々に重装兵にぶつかってくる犬の数が増えてくる。圧力がどんどん増してくるのを感じるが、コレだけでつぶされるわけにはいかない。
「重装部隊長!」
「了解!」
戦陣術 壁陣
自分は持ってない術だが、さらに防御力上昇と踏ん張りが利くようになる。重装部隊長のスキルなので重装兵隊20人にしか効果が無いが。ちなみに自分の術は全軍に届く。
さらに押し込んでくる魔物達。全軍の半数は、突っ込んでくる気か?まだ何とかなりそうだがここいらで、一度局面を変えよう。
「弓兵隊タイミング合わせろよ!いくぞ!歩兵隊と重装兵隊は入れ替わりだ!」
戦陣術 後詰
戦陣術 援護
歩兵が前に出る勢いのまま犬共をなぎ倒す。さらに弓が降り注ぐことで単純な弓ダメージだけではなく、歩兵の衝撃力と押し返し距離が伸びる。
一手で思ったよりも数を削れた。
「よし、押し返してる!『いくぞ!』」
戦陣術 激励
「弓兵隊はもう一仕事だ!牽制しろ!」
戦陣術 斉射
「歩兵隊、2列縦隊急げ!」
うまく牽制は出来たが、ちょっと退いた犬共が今度は横隊ごとなどと悠長なことを言わず一気に突っ込んでくる。
戦陣術 雁陣
攻防上がる良陣だが、効果時間が短い欠点がある。しかし、近接攻撃職で攻防バランスのいい歩兵にここで気張ってもらわねばならない。
「今のうちに、重装兵隊を手当てして置けよ。すぐに出番は来るんだ。衛生兵急げ!」
回復を促しつつ自分も癒丸薬を飲む<戦陣術>を使い始めたから買うようになったが、精神力を回復する薬だ。丸薬なので効果がじわじわだが<精神強化>も外してる今は十分な回復量だ。
ふと敵主力の方を見ると青い狼型が自分から見て左手に移動している。
後ろには19匹の犬型を率いて。青い狼型を先頭に2列縦隊を作っている。
機動奇襲部隊か。
「軽騎兵隊!あの青いのに面当てして例のところに誘い込め!ルーシーは伏せてる連中にそろそろ出番だと伝えてそのまま一緒に戦ってくれ」
「了解、あの青いやつは、やっちまっていいんだろ?」
「ああ、頼む。後から、横槍入れられると困るからな。」
軽騎兵隊は一目散に青い狼型に突っかかり数体蹴散らしたところで、明後日の方へ駆けて行く。激昂したらしい青い狼型もそれを追っていく。
すると敵の圧力が一気に引き始めた。
赤い奴がまっすぐ前に出てきてそこを頂点として広がるように後ろに並んでいく。
今度は全軍で当たってくるつもりだろう。
一番遠く最も横に展開している中心に黒い奴がいる。未だ遠くてよくは見えないが。何をたくらんでいるのか。
つまりここからが第2ラウンドってことか。
「総員、密集隊形!重装兵隊を前線に置き全密着しろ。弓兵隊は砦の上でいいからな。ここからが正念場だ『行くぞ!』」
戦陣術 激励
敵もこちらのタイミングを見計らったように隊形を完成
「ウォォォン」赤い狼型の遠吠え一つとともに突撃してくる。
戦陣術 方陣
前衛の重装兵の間から歩兵の槍が突き出される。
「弓兵は射ちまくれ!敵を減らせるだけ減らしていけ!」
増していく圧力はさっきの比じゃない。
そうこうしているうちに、隊形の中央が隙間をこじ開けられる。その隙間から赤い狼型が飛び込んできた。
兵たちは、隊形を維持するのでやっとの状態だ。そうなれば自分が相手をする他あるまい。この狼もでかいが、せいぜい兎くらいだ。何とかするしかない。
まずは、様子見とばかりに突進を食らわしてきたので、剣でブロックする。盾を装備できないのがつらいところだ。
硬直したところを喉元に一刺し、隣にいたカピヨンは下がった頭に一撃、それ以外の衛生兵たちも所構わず殴りつけていると、硬直が解けた瞬間、体を傾けるようにして左右の衛生兵を体で弾き飛ばす。自分はその隙にもう一発喉に食らわせる。急所に入ったのか一瞬硬直したのでもう一発。
噛み付いてこようとしたところに狼の目に矢が突き立つ。チラッと振り返るとルークが手を振っていやがる。なんとも余裕のあるやつだ。
すかさずもう一発喉に食らわすと、出血した。スリップダメージのデバフだろう。
弱気になったのかこちらに尻を向けたところで、一斉にボコボコにする。
意を決したのか再度自分を振り向いて噛み付いてこようとした瞬間、口の中に剣を突きこむ、数秒か数十秒かそうしていたら、赤い狼型が倒れた。
同時に犬共の圧力も一気に減る。
「よし、敵先鋒はやったぞ!そのまま押し返せ!『いくぞ!』」
戦陣術 激励
士気の上がりきった中隊の連中は一斉に反撃を開始する。攻撃的な術を持っていないのがもどかしいところだ・・・・
戦陣術 突撃
戦陣術 援護
歩兵と弓兵の<戦陣術>で一気に追い込む。
うちの連中、もう自分要らないんじゃないの?ってくらい強い。
「隊長、戻った」
ルーシーがいつの間にか傍らにいる。
「そうか!青いやつはどうした?なんとかなったか?」
「ふっ、もちろんだ。<戦陣術> 伏兵 で混乱させて、危なげなく刈り取った」
さて、そろそろ敵も切羽詰まってきたかね?とうとう黒い奴が動き出す。白い犬共を轢き飛ばしながら一直線にこっちに向かってくる。
とうとう最終ラウンドって訳か。
黒いボスは、やはり狼型だ。若干ハイエナにも似ている気がするが。雪上にも関わらず重さを感じない様子で滑るように走ってくる。
頭頂部から背中まで直線に赤い鬣があり、モヒカンとでもあだ名したいくらいだ。
に、してもでかい!ビル何階建てとか表現するやつに違いない。
「軽騎兵は残った犬共を各個撃破しろ!もう動きはばらばらだ。衛生兵は怪我人が手遅れになる前に離脱させろ!残りは黒いやつに集中。」
突っ込んでくる黒いボスを正面から受け止める。
自分を中心にV字に展開し、包囲する。
硬直したところを一斉攻撃、自分と違って兵科の隊員たちは各々チャージ攻撃や武器術のようなものを当てていく。
やっぱり自分より強いやつらばっかりだ。今この瞬間は頼もしいぜ!
「全員防御!」
案の定硬直が解けた瞬間に攻撃してくる。回転して四方にダメージを与えて吹き飛ばす。
直撃したものはいなかったようだが、自分以外はかなり吹っ飛ばされている。
「無理をしないで余裕のあるうちに回復しろ!」
と指示を出してる間に、黒い狼が一足で一気に飛びのいた瞬間、飛び掛ってくる。正面から受ければ踏み潰されるのが容易く想像できる攻撃に、不恰好ながら<跳躍>を使用して横っ飛びに避けて転がる。
ぎりぎり避けきって向き合った瞬間前足でなぎ払ってくる。とっさにブロックで防ぎ、一瞬の間を得る。体格差故かブロックの上からの貫通ダメージが多い。回復の丸薬を飲み込む、徐々に生命力が回復するのを感じる。自分以外はどんどん攻撃に移る。
しかし、よく見ると足には甲殻があり、あまりダメージになっていない気がする。地味に使用している<分析>さえ付けてれば生命力くらいは分かったのだが、勘を頼りに進むしかない。
「次に相手の攻撃が止まった時、衛生兵隊は敵の足一本に攻撃を絞り何とか体勢を崩せ。鈍器持っているのはお前達だけだ、頼りにしているぞ」
今度は頭突きを食らわしてくるが、こちらからすれば『待ってました!』のタイミングだ、ブロックし硬直させる。
右前足に集中する攻撃、思わずひざを折る黒い狼。
「足以外を一斉に攻撃しろ!」
と自分は、いつも通り首をめったざしにする。
「全員防御だ!」
先ほどと同じパターンで、回転攻撃を加えてくる。が、これもまともには食らわない。
攻撃再開と思ったら今度は後ろ足で立って、一気に振り下ろしてくる。
とにかく下敷きにならないように避けるが、風圧と衝撃で吹っ飛ぶ。
さらに、思いっきり息を吸い始める黒い狼、
何かを吐き出そうとした瞬間、背中に冷や汗が流れるような感覚に
策戦 兵糧攻め
一か八かだったが、急に呆然としたように立ち尽くす黒い狼、
一斉に攻撃にかかる。衛生兵が足を狙って、ひざを折ったところをボコボコにする。
体を起こし再始動するかと思った瞬間よろめいて再度伏せる黒い狼、突然生えるように首の後ろ辺りに露出する魔石?
直感に従い背に乗り剣を思い切り魔石に叩きつけると驚いたように飛び跳ね、後方に身を翻す黒い狼。
思わず長剣を落としてしまうが、背の毛を掴んでしがみつく。
そのまま動きが止まるたびにひたすらショートソードで魔石を叩きまくる。
動いてはしがみつき、止ってはひたすら叩く。
どれほど繰り返しただろうか、伏せたまま動かなくなる黒い狼
ずるずると背から降りると突如頭の中にアナウンスが聞こえる。
比喩ではなく、明らかに耳を通してない状態で声が聞こえるのだ。懐かしさを感じるようなダサいファンファーレと共にだ。
軍狼が討伐されました。MVPを発表いたします。
うん、運営よリアリティの追及とか何処行ったよ。いや、いいんだけどさ、なんかさ、落とした剣を拾いながらアナウンスを聞いてると
クエスト発見者
ラストアタック
MVP
と自分の名前が挙がっている。三つも何かもらえるらしい。
一つは、メダル?勲章かな?造幣局の博物館で見たことあるやつに似ている。
二つ目は、でっかいナイフ、なんとなく古風なイメージの形だ。
んで、三つ目が、冑だな。フルフェイスの目のところだけ開いた毛革冑、あの狼の毛並みを表現したように、赤いとさかのような鬣がある。
「お疲れ様です。隊長。何とかなりましたね」
「ああ、お互い無事でよかったなスペーヒ」
「たいちょーーーすごかったですね。あんなでかいやつの背中に乗っかっちゃってがしがし叩いて、背中に隊長が乗っかってるから攻撃できなかったですけど、援護もなしに倒しきっちゃうとは流石隊長ですよ。ところで、倒した魔物<解体>持ちで総出でドロップ品集めてるんですけど、どうします?」
「どうって、適当に皆で分けたらいいだろうよ。白いやつは多分前にルークが言ってた犬だろ?それはそこまで珍しくないんだから、青と赤と黒は素材が欲しいやつを希望募ればいいんじゃないの?」
「ああ~あ、絶対そういうと思いましたよ。とりあえずですね、さっき見てましたけどヘルムが黒くなるんですよね、そうすると蟹素材の防具が足りなくなるから、蟹の甲殻を使った籠手を作りましょう。前腕部を守るやつです。素材はまだ残ってましたよね?報酬にかえちゃ駄目ですよって言いましたよね?で、頭に合わせて『黒い狼』の素材で外套と長靴と手袋それにさっき手に入れてたダガー用の鞘。最低でも、そこまでは作ってもらいますよ。」
「いや、自分ばっかり貰ってたら隊のみんなに悪いだろうよ」
「それ位貰っても全然余るし隊の皆に報酬を渡すくらいなんとも無いですよ。むしろそれしか貰わないんじゃ、他の隊のみんなが欲しいもの言えなくなりますよ?」
「ルークは何が欲しいんだ?」
「さっきの青い狼の毛皮ですね。今兎の白い装備ばかりだから矢筒で挿し色しようかと」
「折角今まで雪にまぎれる色だったのに目立つじゃないか」
「い、いや青だったら空の色と一緒だからそこまで目立たないですよ」
「大体いつも曇ってるじゃないか」
「とにかく青い狼の毛皮が欲しい!!」
「別にいいけどさ、他の連中と喧嘩はするなよ」
「十分すぎるほど素材が大量に手に入るので喧嘩になんてならないですよ。それよりさっき言った装備は絶対ですからね!!」
「忘れそうだから、メモ書いておいてくれ、今日は疲れた。砦に戻って飯食って寝る」
すみません。ちょっと長くなりました。