429.どこかの地下の旅
動物の骨の陰は小さくまとまり、左腕に巻きつくが、重量感も熱も無い。
「左腕のその蛇の刺青は隠さないで欲しいんだけど」
と言えば、うまい事避けてくれる。
まあ、旅は道連れ世は情け。しがらみが面倒くさくなったけど、こんな暗い場所じゃ、しゃべり相手の一人位いてもいいのかもしれない。
少し歩けば、道が途切れ周囲の根も無くなり、開けた場所に出る。
真っ暗だと思っていたが、どうやら根が影になっていたようで、開けた場所は、仄暗い。
太陽が沈みきった直後みたいな暗さ。遠くを見れば、見えないことも無いけど、近くの文字が読めないくらいの暗さに、星も月も出ていない。
ただひたすらに広いだけの空間、ところどころ天井から地面に繋がる根や何か大型魔物のような影。
「さっき言ってた太い根ってあれ?」
『いや、あんな細いのじゃないよ。ここからじゃ見えないと思う』
「あっちの方って、どれくらいあっちの方?」
『分かんないけど、何日か位あっちの方』
ですよね~。距離については言ってなかったもん。この世界のヒトじゃない存在は気が長い!
まあ、いいか走りますかね。大きな影は避けるようにガンガン飛ばしていきましょうか。
さっと、走り始めると、
『速い!凄い!もっと速くなる?』
「やろうと思えば出来るけど、どこか休む場所探したいんだよね」
『じゃあ、ちょっと待って』
そう言って、元の大きさに戻ると、匂いを辿っているのか音を辿っているのか、あちこち見回す陰。
待っている内に、手のひらに乗るくらい小さな羽の生えたヒトのような陰に声を掛けられる。
『何か甘い物もってない?』
「飴でよければ」
そう言って差し出すと、
『ありがとう!代わりにこれ上げる!』
と言って、飴を持って何処かに飛んで行く陰。手には見慣れない銀貨が一枚。
『休める場所だけど、向こうにヒトがいるみたい』
そう言って、鼻先で指された方向に、向かってみる。
当然獣の陰が左腕に巻きついていた状態で走り始めたよ。
そして、早々にヒトが見えてきた。
ただ体の上の方がヒトで、足の方は蜘蛛だったけども、アラクネってやつかな。
全体的に黒く、下半身の前足二本は鎌、その鎌で羊の毛を刈っている。
別に羊は嫌そうにしてないので、日常の光景なのだろう。
「どうも、こんにちは」
「ん?こんにちは」
「この辺りで休める場所ってありますかね?」
「???さあ?セーフゾーンならそこらにあるんじゃ無いか?」
「そうですよね、どうもありがとうございました」
うん、塩対応。懐かしい。
やっぱり隔絶されたフィールドだから、好感度とか信頼度とかゼロからやり直しなんだなきっと。
何とかクエストこなして、信頼されないと、何にも出来ないなこりゃ。
早く街なり見つけて、仕事しよう。
取り合えず、その場を立ち去り、セーフゾーンを探す。
しかし、火のたっている所も煙のたっている所も見つからない。
『ねぇ、何探してるの?』
「セーフゾーンだけど」
『それなら、あの茸のところだよ』
どうやら、この暗い国ではセーフゾーンは光る茸だったらしい。
取り合えず、茸のところに座り込み食事にする。
「そう言えば、何食べるの?」
『何も食べないよ?』
「さっき小さいヒトが飴持っていったけど」
『多分甘い物が好きなんだろうけど、別に食べないよ』
「不思議なもんだ。どうやって生まれてくるんだろう?」
『いつの間にか、いるんだよ。皆好きなものとか欲しい物とかばらばらだし、何なら話が通じない個もいる』
「個ね?つまり血のつながりがあるとかじゃないんだ」
『うん、皆ばらばら。僕達はこの辺りじゃ一番弱くて誰からも見向きもされないから、同種に対して仲間意識もあるけど、完全に個の場合もあるし、何も言わずに襲い掛かってくる事も少なくないよ』
「襲われるんだ?どうしよう襲われたら」
『倒せるなら倒すしかないね。倒されて仲間になる個もいるよ』
「そう言えば、名前とか種類とかあるの?」
『それは内緒。君とはまだ契約出来ないから。明るくて温かい物見せてくれたら、契約しよう。それまでは仮ね』
「分かった。そうしようか。それにしても、弱いって言ってたけど、遠くの事とか分かるし、能力は優れてると思うけどね」
『皆は出来るだけ強い個と契約したいんだよ。だから弱い僕達の事は気にもかけない』
「へ~、別に強いとかそんなの自分が強くなればいいだけなのに」
そんなこんな話ながら、ホワイトミネストローネ(自分がそう言ってるだけのスープ)を作る。
オリーブ油で玉ねぎを焦がさないように炒めて~。
しんなりしたら~にんじん、じゃがいもも炒めて~、
そこに水に青い瓶のスープの素を溶かして入れて沸騰させて~、
そのあとはことこと煮込みます~。野菜がやわらかくなったら牛乳を入れて塩、こしょうで出来上がり~。
トマトがあまり好きじゃないので、牛乳味の具沢山野菜スープ。
は~ほっとする味だ。それ以上の感想は無いんだけど、
一人になって、寒い(体感そこまででもない)山登って、変な滑り台落下して、
疲れた体に沁みるってこういうこと。途中でおにぎりも食べたけど。
取り合えず、ログアウトしよう。
「じゃあ、何日か寝るね」
『うん、お休み』