428.面倒臭い仕掛けと
大霊峰の向こうの海から流れ込む滝。
どうやって裏側に回ろうかと、取り合えず滝の流れ込む池の底まで潜ってみる。
流石に底は落ちてくる滝の勢いも無く、滝の下をくぐりあっさり滝の裏に出れた。
そのまま、浮上し滝裏の岸辺の先は暗い。しかし装備している鬼面についた暗視効果で別に周りが見えないとかそんな事は全く無い。
少しくだり気味に真っ直ぐ進むと壁。
そしてそこにはうっすら文字が光っている。仮面を外すと全く見えないという事は暗視状態じゃなきゃ見えないのだろう。
『原初のヒトを根を育む者を訪ねるのであれば、この先に進め。しかしながら一度足を踏み入れば、当分戻る事叶わぬ。十分な準備と覚悟を持って進むが良い。この先は常闇の国、陽の光届かぬ地なり。もし、準備と覚悟が出来たのなら三歩下がって上を見よ。紐を引け』
と言う事なので、三歩下がって上を見る。確かに岩陰に紛れるように黒い紐が繋がっているので、引いてみる。
すると右手に扉が現れるが、
『この扉触れるべからず!触れれば、大霊峰の麓まで飛ばされる。もし、常闇の国に用あらば、壁の左右の岩の窪みのレバーを探せ、右のレバーを右回しに1回、左のレバーを左回しに三回回せ』
なるほどね、文字が読めずにうっかりな人に対する仕掛けって訳か。
まあ、自分は食料は大量にお酒も大量にあるので、なんの憂いも無い。
レバーを操作すれば、先程の壁の文字が変わった。
『この壁を下に降ろせ、5秒後に再び扉は閉まる』
なるほどね~。下に降ろす扉とは斬新だ。これならうっかり開けちゃう人もそうそういないだろうし、当分一人だ。
壁を下に引くとあっさり穴が空き、そこに身を入れれば、壁が勝手に閉まる。
真っ暗、ただ真っ暗。どうしよう。
そう思って一歩踏み出すと、足場が無い。
踏み外し仰向けに倒れると同時に、なんか風を感じる。
そして、次の瞬間にはお尻で滑っているのを理解した。すぐに周りを掴もうとするが、虚空しかない。
足を踏ん張ろうにも、もう加速がついているのか、足が滑っているのか、何にも変わらない。
どんどん加速がついていき、
「こういうの嫌って!怖いって!スノボーの時言ったのに!」
もう、何も抵抗出来ない、ただ重力加速度に従い加速力を増すのみの重量物それが自分。
そして、お尻の下に何の感触も無くなった時に、気がつく、今自分は浮いてると・・・。
上は真っ暗、横も真っ暗、下はただの暗き深淵。
ああ、駄目だ・・・今まで碌な生き方をしてこなかったから地獄に落ちるんだ・・・。
そんな事を思ったのも束の間、お尻に衝撃、また滑り台。
右に左に振られ、スピンし、もうどうなってるのか分からない。
突如こうもりの群れが頭上を通過するが、もうどうにもならない。
ただただ、加速し、万歳して意識を保ってるのか飛んでいるのか分からない。
そして、急に、
ずざざざざーーーーーーー!
と、音がしたと思ったら、お尻が熱い。
でも、もう抵抗する気力も無いまま、お尻も背中も擦られ、後頭部が偶にバウンドして地面にぶつかりながら、減速する。
そして、いつの間にか止まったが、自分は万歳のまま地面に寝転がり動けない。
周囲の状況はよく分からないが、一個光源があった。蓄光の様なうっすら緑に色づいた茸。
それのおかげで、光を暗視で増幅し、周囲がだんだん見えるようになってくる。
どうやら、空中に太い根が張ってるようだ。周囲を見回せば、遠くに根が見える。
つまり地下なのかな?木の根が張ってあちらこちらに向かっていて、隙間を縫ううように土道があった。
やっと気持ちが落ち着いてきて、早々。
『ねぇ!ねぇねぇ!明るくて温かいもの知らない?』
急に声を掛けられるが、どこから声が聞こえるんだ?と周囲を見回しても正体が分からない。
『右だよ!右!』
そう言われて、右を見てよーーーく目を凝らすと、影が一つ。
尻尾の長い獣の骨の影。何で獣かって言うと四足歩行だから、トカゲの可能性も無くは無い。
「明るくて温かいって、火の事かな?」
『火ってなぁに?』
そう言われたので、鞄からコンロを出して、炭火を焚いてみせる。
「これが炭火。もっと火をたてたければ、普通の薪も焚いてみる?」
そう言って、まきを一本投げ込めば、火がつく。
『ああ~これじゃない』
そうか、火じゃないのか。
「え?じゃあ、家族とか?」
『君の家族は明るくて温かいの?』
「祖父母は、まあまあね。親とは疎遠」
『それは、明るくて温かいとは言わないんじゃないの?』
「じゃあ、未来とか?」
『へ~!そんなに明るい未来が広がってるの?なんか凄い事?』
「いや、自分はお先真っ暗だけど」
自分で言ってて、鬱になってくる。
『大丈夫だよ。この辺の人は皆そんな感じ』
「へ~この辺の事詳しいんだ?」
『詳しいって程じゃないけどね。でも君みたいに僕の話をちゃんと聞いてくれて色々考えてくれるヒトはいないかな。君がこれからどこ行くか知らないけどついて行っていい?』
「いいよ。どこに行くかも決めてないけどね。ここに来るの初めてだし」
『そっか!君に似たヒトなら、あっちの方にいるよ。ここからじゃ見えないけど太い根が空から地面まで繋がってる場所があるから、その辺りに住んでる』
「へ~、どんなヒト達なのかな?」
『ん~ご飯食べたり、寝たりしてる』
へ~、自分と一緒じゃん。確かに似たヒトだ。