426.一方その頃嵐の岬
「新スキルや新武技や新素材、どんどん情報は上がってるが、新フィールドの情報は未だ無し」
「そうっすねって事はこの作戦がうまく行けば、俺達が新フィールド探索の最前線ってわけですねボス」
「そう言う事だ。心してかかれよ」
大型アップデート後、航路から外れた場所に現れた霧地帯。
すぐに確認に行けば、幽霊船が浮いていた。
以前ならば100人長のクエスト用ボスだったのにも関わらず、常駐する様になったのは何故か?
それを確認すべく、嵐の岬メンバーを集め幽霊船に乗り込む。
中の敵はあまり変わっていない、海に呪われたか侵食されたような死体。
「上はやっぱり変わらんな。やってみるか・・・。アンデルセン!」
「あいよ!ボス!作戦開始だ!代表は飛び込むぞ!」
そういうが早いか、バルトを含む嵐の岬メンバーが数名海に飛び込む。
船の下に回りこんだところで、巨大魚が大口を開けメンバーをあっという間に飲み込んでいく。
しかし、メンバーは予めそうなると分かっていたように無抵抗。
そして、数秒もたたないうちに、魚の腹が膨れ上がる。
爆発するかのような勢いだが、魚は気にもしていない。
そのまま徐々に膨らんでいき、魚の腹が透けるほどに膨らんだ所で、船の下を離れ深海に向かって泳ぎ始めた。膨らみきった魚の腹が温かい光で満たされ、海中を照らす。
「作戦成功か?」
「今のところは予想通りの動きだな」
魚の腹の中では、嵐の岬のメンバー5人が座り込んで話している。
「隊長に普段は幽霊船の下にいて深海に向かう魚がいるって話を聞いた事はあったが、本当にこいつが深海へ向かう定期便代わりなのかは分からんぞ」
「でも隊長の話じゃ、宝樹よりさらに深い深海に行くらしいし、ワンチャンやってみる価値はあるぜ」
「しかし、魚に食われて、空気玉で腹を強制的に膨らませて、居座るなんて、よく考えたなアンデルセン」
「まあ、なんていうか、隊長がやりそうなこと考えたらこうなったな」
「しかも、もしかしたら消化されるかもしれないから、酸に強い陶器の床敷きも用意したが悪くなかったな」
「いや、でもこれで本当に深海の国に行けたら、もう俺達一歩出し抜いた所の話じゃ無いっすね。誰も知らない新フィールドで、誰も知らない魔物を狩りまくり、誰にも作れない装備を作って売る!」
「まあ、まだ取らぬ狸だ。そう焦るもんじゃねぇ。下手したら、深海まではいけても俺達が深海で行動出来ないから、一瞬で水圧で死に戻りの可能性もあるんだぞ?」
「それは、辛いな。でも深海で行動って、それこそ隊長の環境適応服でもなけりゃ無理じゃ無いっすか?」
「おれも、そうは思ってんだ。だから一回深海行ってみて、様子を窺おうってんじゃねぇか」
「もし水圧にやられそうな時は、空気玉使って一瞬でも時間稼いで、周りの様子確認するぞ。一つの事を全員で共有して置けば、誰かしらがうまくやれるはずだ」
透ける魚の腹から見る海中の世界、話しているうちに、かなり深くまで潜ったようだ。
と言っても、ずっと真っ暗で、何があるわけでもないが、
唯一明るい場所があったが、それが潮宝樹なのだろう。
隊長は随分深くまでもぐって、邪神の尖兵を倒しに来たものだ。
魚人族の街までは何とか辿り着けたが、その深さで戦闘をしようなんてのは流石に無謀・・・の筈だったんだが、やるやつはやるって話。頭がおかしい。
まあ、でもおかしい位じゃなきゃ、このゲームのトップとは言われて無いか。
そんなおかしいやつの言動をヒントに、おかしい事をしようとしている俺達が、次のトップになろうってそう言う事。
「なあ、ボス。こんな時隊長だったらどうする?」
「こういうなんか時間が有る時は、何してるんだろうな?」
「飯作ってるんじゃねぇか?初めて行くフィールド、初めて会うヒトがいるなら、緊張するかもしれないし、先に飯食っておこうとか言うんじゃ?」
「魚の腹の中で飯食うのか?」
「まあ、シチュエーションはあれだけど、思ったより快適だし。胃酸がぼたぼた垂れてくるような環境じゃ嫌だったけど、灯り用のランタン置いてもなんとも無いし」
「まあ、いいか。飯にしよう。火を使うのはまずいが、何にするか」
「サンドイッチでいいんじゃねぇか?おにぎりじゃ米焚かなきゃいけないし」
「じゃあ、保存用に作ったシーフードのオイル漬けと野菜を挟んだシーチキンサンドイッチな」
「うぇーい!ボスの料理バリエーションもぼちぼち増えてきて、深海で食事ってのも悪くない」
嵐の岬、最強を自負するクランは次こそ自分達がメインで邪神の化身を倒そうと闘志を燃やしている。サンドイッチを頬張りながら。