42.思い込みの騎士
「ふむ、しかし都から離れると何も無いの、森と山と雪しかない。こういう光景が好きな者もおるのじゃろうが、しんどいものがあるの」
「確かに『ガラー街』に向かった【兵士】の集団があると聞いて向かうのは良いですが、雪道を歩き慣れていない我々にはなかなか苦しいものですね。いっそ馬でもあればよいのですが」
「確かにの。我が愛馬が居ればこのくらいの雪物ともしないわい」
「我等の馬は【王国】の平地になれていますので、人の多い場所は平気でも、雪道は苦手でしょう」
「分かっておるわい、ただの表現じゃ。雪道の山道に辟易しただけじゃ。いくら雪山用の靴を手に入れたとは言え、苦しい事には変わりないからの」
孫を探して、ふらふらと【帝国】を旅している訳じゃが、悪路に悪天候とだんだん気持ちが萎えてきたところである。
誰が好き好んでこんなところを拠点にしてゲームをするというのだろうか、本当に物好きも居たものじゃ。
そんな折、たまたますれ違った【騎兵】の青年から話しかけられた。
「こんにちわ、見かけない方ですが、珍しいですね。こんな辺鄙なところに」
いかにも慣れた雰囲気で颯爽と馬?から下りて挨拶をしてくる青年プレイヤー。この爽やかさ人当たりの良さ、まさか・・・・
「こんにちわ、ご丁寧に【兵士】のプレイヤーの方ですね。NPCを連れているという事は、クエスト中なんでしょう?お邪魔して申し訳ないですが少し話をうかがってもよいかしら?」
「ええ、構いませんよ。この前のイベントのおかげで【帝国】に多少人が増えたとは言え、相変わらずこの辺りは過疎状態ですし、どなたでも歓迎しますよ。ただ、こちらの住人の前でNPCって言う方はあまり良くないと思いますがね。」
「え?これは失礼、ロールを大切にされている方でしたわねそう言えば、任務をしているみたいですけど珍しいですわね?『ニューター』なら魔物を狩って素材を拠点に卸したほうが圧倒的に儲けも出ますし、貢献度も溜まるでしょう?戦闘系のスキルの熟練度を上げるにもそっちの方が効率が良いはず、やはりロールを楽しむ趣味プレイヤーなのかしら?」
「特にロールを意識しているつもりは無いのですが、こちらの世界のことはこちらの住人に聞いたほうが良いとアドバイスされましてね。その流れで、任務を受けているだけですよ。<騎乗>の二人乗りスキルを探していまして」
「まあ、噂には聞いたことがありますけど、見つけたのですか?」
「ある程度ヒントと道筋だけは、まだ取得にはいたっていませんがね」
「なるほど目的のスキル取得の為に任務を行っていると、やっと納得できましたわ。メインジョブで【兵士】ロールをしている方がいると聞いて、噂を辿ってきたのですが、しかも有名な猛者達も気にし始めているようでしたので、一度お会いして話を伺ってみたいと思っていましたの」
「ああ、それでしたら僕のことではないですよ。むしろこの世界の住人に聞いたほうがいいとアドバイスしてくれた方です。僕は【兵士】と【狩人】半々ですね、やはり効率を考えるなれば魔物を狩ったほうがよっぽど良いと思いますよ。生産職でもない限りは」
「あら、残念ですわ。また空振りでしたのね。ちなみに貴方から見たその方はどんな印象なのかしら?やはり強者の雰囲気を感じますの?」
「目当ての方でなくて申し訳ないです。単純に変わった人だなと思いましたよ。悪い雰囲気を感じる人ではないですね。まあ【兵士】ロールをするにしても支給の装備を着て歩き回る位なら分かるのですが、まじめに【座学】やら【訓練】やら、挙句に【整備】【料理番】なんかもされる方ですからね、初心者服のまま。それなら生産職をサブでやった方がよっぽど良いと思うのですが、僕には意図は分かりません」
「そう、ですか。何か特殊な情報を隠匿しているようなイメージはありませんの?」
「ない、ですね。本当に自然にこちらの世界の住人に溶け込んでますよ。今僕と貴女が話すように、【ヒュム】と会話してるのを見かけますし」
「なるほど、それでしたらこちらに居るマスターもよく【ヒュム】と世間話をしてますわ」
「ええと、お二人は主従なのですか?」
「いえ、特殊なジョブに就く時に教えを請うたのでそれ以来そう呼んでいるだけですわ」
「なるほど、なんとなく件の【兵士】に雰囲気の似た方ですね。たたずまいと言うか、率直に言うと人の話を聞いているのかいないのか分からないところとか」
「私では、到底及ばぬほど先を見ている方ですので思考が先を行き過ぎてしまうのですわ、あなたの言うように率直に申しますと、多分聞いておりませんわ、後で、確認されますもの」
「マスター、どうやらこの方では無かったようですよ?」
うむ、この馬?絶対あれじゃ。孫が若い頃、学生にもなってはまりぬいてテープが擦り切れるまで見ていたビデオに出てくる鹿に山羊の角つけたような馬じゃ。でっかい白い狼と少女が出てくるあれじゃ。なるほどのやはり騎士の相棒といえば馬!そこにあえて世界観に合わせたこだわりを持つとは、流石に思いつかなかったわい。その柔軟にしてこだわりぬいた発想!流石・・・・
「ご老体、僕は貴方の探している方とは別人ですよ?」
え?空振りかの?そう言えば孫にしては話し方が少々丁寧な雰囲気じゃの。
「そうじゃったか、すまぬの足止めをしてしまって」
「いえ、この辺りで初めてみる【ニューター】は珍しいので僕もお話できて楽しかったですよ」
「ちなみに、その【兵士】の方の居場所について心当たりはあるのかしら?」
「なんとも言えないところですね、僕より大人数を率いてあちらこちら歩き回っている人ですから、見つかりさえすれば、すぐ分かるのですけど」
「あら?大人数で移動していますの?」
「ええ、【兵士】系のジョブを地道に上げていって今では【士官】に成られたようですので20人から率いてあちらこちらに【輸送】任務をしていますよ。確か『【帝国】東部輜重隊』だったかと」
「あら?聞いたことの無いジョブですけど何か特殊な条件でもあるのかしら?とは言え『輜重隊』では、あまり強そうな雰囲気はありませんね」
「そういう特殊なことを探してプレイする方には見えないのですけどね。普通に【兵舎】で頼まれごとをしてただけのような気がしますよ」
「ふむ、そうかもしれぬの。では、もう少しわしらも歩き回ってみるとするか」
「雪景色しかない場所ですが、どうぞごゆっくり、無事見つかるといいですね」
「ありがとうございます。そちらこそ無事目当てのスキルが見つかることお祈りしますわ」
現れたときのように颯爽と馬?に乗り立ち去る青年。強者の雰囲気こそ無かったが、あれはもてるだろう。孫ももう少し見習って欲しいものじゃ。ひ孫まで見れたらワシの興奮も天元突破なのじゃが、そういうことは今のところ無さそうじゃ。
「雰囲気の良い方でしたね。もし、機会があれば我々のクランに勧誘してみても良かったかもしれませんね」
「その辺りは好きにしたら良いわい。あの佇まいでは【騎士】には成れ無さそうじゃがの」
「マスターが言うのであれば、そうなのでしょうが、そういった目はどうやって養うのでしょう?」
「お主も【騎士】に成れたんじゃから、相応の強者なのじゃし分かりそうなもんじゃがの」
「私はたまたま難敵との相性が良かっただけですわ。でなければ支援職で【騎士】になど成れないでしょうし」
「ふむ、そういう事もあるかの」
「それに私の場合は支援職からの【聖騎士】ですから、ちょっと状況が変わりますわ」
「ま、そうじゃの、それでは旅を続けるとしようかの」
全く孫は何処へ行ったのやら【士官】だかになったらしいが、なんでまた輜重隊なぞやっておるのか不思議でしょうがないわい。