417.今度こそ最後
トカゲの尻尾だけが魔素と霊子に変わり、そのまま瞬間移動。
トカゲだけあって、尻尾を切って脱出か?
人だかりから少し離れた場所に尻尾の無いトカゲが、後ろ脚で立ち上がり、全身が溶け落ちた。
溶けて黒いタールのような池ができ、そこから黒い人が立ち上がる。
今までと比べたら、一気にサイズが縮み普通の人と同じサイズだ。そのまま池のタールを体内に再吸収。
完全に真っ黒な人、右手だけが剣。
胸元と剣に最初から聖石が露出しているが、一撃入れればいいって事か?
でも、弱点丸見えの割りに、なんかヤバイ雰囲気がぷんぷんするんだよな~。
そして、さっきまでより明らかに早すぎるスピードで、瞬間移動&必殺が始まる。
高速の虐殺にあっという間にフルプレート装備のタンクは平らげられ、ハーフプレート装備のプレイヤーが狩られていく。
所々で、自爆している者が未だにいるが、スイッチを押す頃には斬り抜けて、次に飛んでいる。
「隊長、これは多分、生命力が多いものから標的にされてますよ」
「剣聖の弟子は、自分がタイミング作れば合わせられる?」
「あれですよね?奥義ですよね?」
「それしか、思いつかないんだよね。自爆すら追いつかないスピードで切り抜ける相手倒す方法って」
「分かりました。それで、どのタイミングで?」
「自分が〔連結の首輪〕使ったタイミングで、いける?」
宝剣を抜き、集中する。
目を閉じ、ゆっくり呼吸をして、グリップを握りなおす。
狙いは胸の聖石か。剣を振る角度をイメージ。
この戦い終わったら、何食べるかな。連戦で疲れたもんな。
ニラと豆腐と卵とかいいな~。ニラは刻んで、唐辛子とごま油で軽く炒めて・・・。
「隊長?」
「うん、大丈夫!めっちゃ集中してるよ!」
ふっと細く息を抜き〔連結の首輪〕を操作。
一瞬の間の後、胴に刃が触れる感触に、何を考える間もなく、右に剣を振り抜く。
振りぬいてから、状態を理解する。
自分の胴を刃が通り抜け、自分の剣は邪神の化身の胸の聖石を真っ二つに、
剣聖の弟子が縦切りで、自分の体から抜けた剣の聖石をきっちり破壊した。
邪神の化身は魔素と霊子に変わり、消えて行く。
どうやら死に戻りせずに済んだようだ。
「はぁ~終わった~」
詰めてた息を吐き出し、無意識に一言漏れた。
その声で皆緊張がとけたのか、歓声が上がる。
油断した時が一番やばいとは言え、流石にこの状況で何か起こったりしないだろう。
その時頭の中にいつもよりかなり豪華で長いファンファーレが鳴り響き、ちょっとクラッときた。
今回は自分がMVPって事だ。
手に入ったのは勲章。称号だけって事???
「ねえ、何か手に入った?」
「僕は保留ですね。何か選べるみたいですよ?隊長は?」
「へ~、自分は何か勲章だった」
一応分析してみると、
討天君の称号 邪天使の能力を使用できる。代償としてレギオンボス級の〔魔石〕が必要となる。
うん、おかしいな。魔石を使用して、邪天使の能力が使えるって、実質邪天使じゃん。
「どんな称号だったんですか?」
「〔魔石〕と引き換えに邪天使の能力を使えるらしい」
「う・・・わ・・・でも、初邪神の化身討伐特典だし、それ位の物は貰えるんですかね?」
「称号だから譲渡も不可だしな。それにしても、破滅の光とかボスに使ったらどうなっちゃうんだろう」
「単独で、レギオンボス倒して、手に入れた〔魔石〕でまたレギオンボスを倒す・・・?」
「まさかね、流石に威力とかは下がってるでしょ」
とりあえず、撤収しますか。
残ったプレイヤー達が引き上げて行くと、追ってきてくれてた歩きのプレイヤー達と合流できた。
歩きのプレイヤー達も邪天使討伐を知り「もうちょっとやりたかったな~」なんて、嘯いているが、それも倒したから言える事。
皆、気の抜けた雰囲気で、適当に広がって、最寄の町に凱旋。
そこからは、それぞれに宿を取りログアウトしたり、連れ立って飲みに行ったり。
自分は飯食って寝る。
問題は何を食うか。
さっきニラの事を考えててた所為か、キムチ鍋食べたくなってきた。
キムチは漬物の壷で作ってあるぞ~。
白菜、ニラ、葱、キムチ、豆腐、茸、ニンニク、生姜、豚肉って所か?
まずは、鍋にごま油!豚肉とキムチを軽く炒めて。
お湯と青い瓶のスープの元を入れて、後は具材に火が通るまで、煮る!
熱いキムチ鍋にお酒で、ゆったり晩食。
まず、何がいいってスープがいい。五臓六腑に滋養が染み渡る。豚肉の油とキムチの辛味とすっぱみが野菜でまろやかに。
スープでお酒って結構いけるよね。
肉を噛み潰して、一杯やって、ニラを啜って、一杯やって、白菜噛み千切って、一杯やる。
気温低めの高原の町で、体が熱くなる鍋で、何の憂いも無く一杯やる幸せ。
は~、中々長かったな~今回も。
疲れた!おやすみ!