413.邪神の化身狩り
「お茶が入りましたよ」
「おっ悪いねカヴァリー、自分は酒しか飲み方分からないから」
「僕は紅茶党なんで、ローズヒップティーですが」
「ブランデー入れてもいいかな?」
「これからボス戦なのにやめておくの」
「いや、お前らこれからボス戦なのに緊張感無さ過ぎだろ!」
「落ち着けアンデルセン。今はティータイムだ」
ボス到達予定時刻にプレイヤーが現場に集まる。そして自分達はお茶の時間。
一応下の現地の様子が分かるように自分を中心に隊を組む形にはなっている。
つまり、状況によっては自分が連絡係、混乱収拾係だ。
さて、ボス戦前は食事派だが、今回は最前にでる訳じゃないので、お茶も悪くない。お茶請けはどうするか・・・。
「お茶請けはナッツとドライフルーツに溶かした飴をかけただけの物ですが」
「気がきくね~。味なしのビスケットか煎餅でも出そうかと思ったところだった」
程よくお腹も満たしつつ、邪神の化身を待つ。
ふと、気づくと餌のレギオンボスが硬直している。
よく、目を凝らすと徐々にレギオンボスに巻き付く生き物の姿が、ハッキリしてくる。
「蛸だ」
「タコなの」
「たこですね」
「なんで、陸上なのに海の生き物出してくるんだよ!道理で、今回も時間に余裕あるな~とか思ったよ」
ドゴン!!!!!
その時、強大な爆発音とも建物が崩壊するととも取れるような音が鳴り響き、レギオンボスが、倒れる。
倒れた音にしては、妙に破裂するような音だ。
「多分、例の衝撃の能力なの、巻きついた密着状態で使ってたの」
「つまり接触型の能力か、レギオンボス一撃なんだから威力は相当な物として、触られなければいいなら、対策も出来そうだね」
蛸の能力を分析している内に、プレイヤーが参戦し始めた。どうやら、レギオンボスを吸収させずに、枯渇させてやろうって腹らしい。
レギオンボスを吸収してまた完全隠蔽されても困るしって事かもしれないが。
蛸の動きを牽制するように攻撃を撃ち込んでいく、プレイヤーも正念場と心得ていて、容赦ない攻撃が降り注ぐ。
なんなら攻撃を防ぐ透明の壁を使えばいいのに、現状中々使わない。
八本ある足を振り回し、プレイヤー達を薙ぎ払ったり、締め上げたり、地味な攻撃を繰り返している。
しかし、薙ぎ払いで出来た隙間に、つま先を立てるかのように足先だけを地面につけると、
ドゴン!!!!!
先程の衝撃波の音がして地面が揺れ、それは狙撃台のほうにまで伝わってきた。
蛸を囲んでいたプレイヤーは軒並みその場に倒れ伏し、
結構なダメージを貰ったようで、聖女様率いる【教国】の支援隊が大急ぎで回復。
邪魔された食事の続きを始める様に再び倒れたレギオンボスを触手で絡め取る蛸に、再び攻撃を再開するプレイヤー達。
ソタローが集団術でプレイヤー達の戦闘力を底上げし、先程よりさらに激しい攻撃を仕掛ける。
どうやら、衝撃を発生させる足は特定の一本と決まっているようで、その一本を地面につけさせない様に、妨害している。
「あの衝撃の足だけ、先から爪みたいなのがはえてるの」
流石ビエーラ、ここからでも、違いが分かるのか。自分の目には足の区別など全くつかない。
押されに押される蛸。ついには墨を吐き出し、一帯を真っ黒に染めた。
ここからでは、どうなっているか全く分からない。
少しして、徐々に墨の煙幕が薄らいで行く。そして姿が消えたレギオンボス。咳き込むプレイヤー達。
「タコの聖石が、目のとこにあるの。アレを壊せば、一個能力を削れるの」
ビエーラと同じ事に気がついてであろうプレイヤーが、そこに一斉に向かい、宝剣で攻撃を加えようとした時、
蛸の頭がバカっと割れ、中には大きな角を持つカブトムシの様なシルエットが見えた。
そして、その一瞬後には空中に移動し、角先を地上のプレイヤー達に向けている。
そのまま、角先からいつか見たビームを発射。
右から左へと薙ぎ払い、着光した場所から熱された空気と地面が爆発。
一瞬で蒸発するかのように消えて行くプレイヤー達。
今までに見たことない圧倒的破壊力に息を飲む。
「獲ったの」
「へ?」
しかし、そんな事はお構い無しに蛸の目にバリスタの矢を放つビエーラ。
割れてへにゃっとした蛸が、魔素と霊子に変わって蒸発していく。
「早く!次弾装填なの」
「今、やってる」
すぐさまクラーヴンが次の矢をセットし、カブトムシに撃ちこむビエーラ。
しかし、それは今度こそ透明な壁に阻まれた。
透明とは言うものの矢が当たる瞬間その場所だけ光を放つのは確認できた。
カブトムシは三本の角がある。角ごとに能力が違うのかもしれない。
「ナイス、ビエーラ!でも、ここからどうするか」
「今までなら、形態変化で時間が貰えたんだがな」とアンデルセン。
「今回は形態変化した状態で、出てきたの」
「死に戻りにはある程度待機時間があるし、しかも最寄の町に死に戻りのポイント変えてたとしても、ここに辿り着くには少しかかるよね」
「俺達で、時間稼ぐしか無いか?」
そんな事を言っているうちにカブトムシがこちらに向かって走ってきた。
飛ばないのがせめてもの救いだが、かなり早い。
馬で追いかけてやっとか、やっぱり時間稼ぐしか無いか。
カブトムシは近くで見ると、甲殻も何も無い、神経や筋肉が寄り集まったような筋ばった姿だ。
そして、蠍のような尻尾までついてる。つまり実質角の生えた蠍っぽい筋肉。
わけ分からないので、カブトムシにしておこう。