404.貝かと思ったらイソギンチャク
貝から触手が伸びてきた。
そこからは完全に反射。手に持っていた魔石を軽く投げ上げれば、そっちに向かう触手をよそに、
空気玉をベルトから乱暴に一つ引きちぎり握りつぶす。
空気の空間が出来た所で、口元のコックを捻る。
そのまま襲い掛かってきた触手を避けるように、転がり宝剣を抜く。
ちらっと見えた聖石を守るように触手が動く様子を見ながら、宝剣に精神力を流し込む。
上に開いた二枚貝を支える貝柱に向かって剣を振るう。
本当に一瞬、自分が何をどう考えてそうしたかも分からないが、貝柱に斬撃が飛び、傷つけ、蓋が閉められなくなる貝。
ちなみに投げた魔石は食われた。
もぞもぞとイソギンチャク内部に引き込まれ姿を消す三羽烏に、
食われて中から倒す予定だったのにすまん、体が勝手に動いたんだ。と心の中で言い訳する。
まあ、でもこれで中から三羽烏、外から自分の構図が出来た。
三羽烏は空気玉を割り続けなければ霧の中で滞在出来ないし、ここは役割分担と行こうじゃないか。
さてさて、魔素を補給した邪天貝はどんな攻撃を仕掛けてきますかね?
紫蘇のような色のイソギンチャクは、如何にも毒がありそうだ。
そして、次から次から伸びてきて、こちらを突き刺そうとしてくる所を宝剣で切り刻む。
いつかの邪神の尖兵を思い出すが、今の自分には遅すぎるかな。
伸びてきた触手を選んで斬るんじゃない。片っ端から切り刻む。
切れた先から霊子と魔素に変わって消えて行く。
こちらに向かってくる触手が減ったところで、一歩下がり、飛ぶ残撃でイソギンチャクの胴体に一撃。
そこで、胴体から触手まで蠕動を始めるイソギンチャク、震えに合わせて色が赤っぽく変化する。
赤紫になったイソギンチャクは赤い霧を吐き出す。いつだかのグロ人参と同じ色の霧だ。
結局この霧の効果がよく分からないのは、自分のスーツの環境適応のせいだ。
きっと、重篤な状態異常か吸うほどに継続ダメージでもあるのだろう。
しかし、まあ効かないものは効かないので、飛ぶ斬撃で、傷つけまくる。
連射できる代物ではないが、相手の色の変化に時間がかかりすぎなので、どんどんダメージを積み重ねていく。
また、ろくに時間も経たぬまま蠕動をはじめ今度は黒く染まっていくイソギンチャク。
吐き出す霧は黒く、赤と白と黒の霧が交じり合わずに絶妙に視界が悪い。
そんな中、殺気を感じ剣を立て宝剣で受ければ、太い針か棘のような物が射出された様だ。
剣で受け、棘が地面に落ちる間もなく次が飛んでくる。
連射される棘を片っ端から剣で受けつづけるが、視界が悪く殺気でしか判断出来ない。
しかし、一瞬でも殺気を感じるならブロック可能。殺気を感じる前に斬られるよりよっぽどマシ。
そして、そんな中で明らかに軌道の違う殺気が混じり、棘を横に避けつつ、軌道のおかしい殺気の出所を斬れば触手攻撃だった。
直線的な棘攻撃の連射と、上下左右から回り込んでくる触手攻撃。
攻撃に転じる暇が無い。中では三羽烏達ががんばってくれてるのだろうか?
どれ位経っただろうか、只管防御回避だけの時間が過ぎる。集中しすぎて時間を確認する間もない。
こりゃ失敗か?食べられた3人には申し訳ないが、一回撤退か?
いや、それは全身タイツの効果が切れてから考えればいいか。今は防御だ。それしかできないんだから、そこに集中しよう。
ちらっちらっと、諦める事を頭をよぎるのを我慢する。ただの我慢比べタイム。
そんな時、でかすぎる怒声が遠くから聞こえる。
「隊長殿!!!どこにいるか!!!」
騎士殿だ。何か久しぶりに聞いた声だな。
今力を溜めて大きな声を出そうとしたら、一発食らう覚悟をしなきゃならない。
でも、この如何にも毒々しい触手や棘を食らっても平気か?否。
何とか食らわずに合図を出さなきゃならない。となればワンチャン賭けてみるしかないか。
棘を回避する度に一歩引き、一瞬の時間を稼げる間合いを探す。
そして、実行する。
棘を横に避け、斜め上から襲い掛かってくる触手を斬り、ジャンプして飛んできた棘を避け、さらにもう一段ジャンプ。
そして、腰から引き抜いた銃で、空に氷片を発砲。
氷片は霧を突き抜けただろうか、それを誰か発見出来ただろうか。
空中でも襲い掛かってくる攻撃をひたすら撥ね退ける。
そして、地面に着地した瞬間、背中にこれまで感じた中でも異常な威圧感を感じる殺気に、完全に反射で横に転げる。
その瞬間は棘の事も触手の事も頭から消えていた。
飛んできたのは一本の突撃槍。空気も霧もつき抜け、まるでそこだけ空間を抉り進むような異様な威力の突撃槍が邪天貝に突き刺さる。
びくりと痙攣して動かなくなった貝に飛ぶ斬撃を食らわせると、聖石が露出したので、
さっと近寄り叩き割る。
霧がすぅっとまるで夢でも見てたかのように一瞬で消え、大量の霊子と魔素が空気中に放出され貝も消えた。
「ページワン!」
そして、貝のいた場所では三羽烏が、トランプをやってた。
「何やってんの?」
「いや、外から玄蕃の合図があったらいつでも動けるようにと思って・・・」
「トランプやってたんだ?」
「いや、凄い勢いで空腹になる空間だったから、節約をしようと思ってだな・・・」
「ページワンやってたんだ?」
「いや、ポーカーは半蔵が強すぎるからな」
「ふーん」
何を思ったわけでもないが、何となく邪天使本体と思われる建造物を見上げると、
「わっ!」
佐助の声に視線を戻すと同時に自分の目の前に生える何か。
すぐに飛びのくと次から次から竹が生えてくる。
何が起きているのか分からないので、三羽烏達といったん退避。
生えてくる竹に追われる様に走って逃走。