400.魚ボスだもんね
翌日、平日夜ながら集まれるだけ集まる。
本当に雑多なメンバーだが早ければ早い程有利なら、やるしかない。あくまでアンデルセンの予想だけどね。
「じゃあ、作戦はアンデルセンから!」
「作戦も何も、一個試したいことがあるって言っただけなんだがな。まあ、取り出したるは滋養に良さそうな魔石を一つ」
サイズ的にユニオンボスの魔石。滋養があるのか分らないけど、餌って事かな?敵が魔素を必要としているなら。
「こいつを餌に邪天使魚形態を釣ろうと思う」
予想通り過ぎて、何も言えない。
「なんで、何も言わないんだよ!本気で言ってるぞ俺は!釣りと言えば、うちには最高の釣り人がいるからな。これだけは負けん」
「まあ、釣りおじさんは釣りクエストで世界巡ったみたいだし、最高である事は認めるけど」
「え?釣りおじさんて呼んでたのか?うちのメンバー・・・。まあ、いいや。その通りだし」
「それで、霧の中でも釣りってできるの?水といえば、水だけど」
「相手が魚範疇なら何でも釣るぞ?」
あっさり答える釣りおじさんは、相変わらず麦藁帽子にシャツ、ズボン、武器は釣竿。
釣り糸の先に魔石をくくりつけ、軽く釣り竿を一振りして、霧の中へ、魔石を投げ込む。
霧の中でどうなっているのか分からないが、忙しく釣りおじさんの腕が動く。
ものの一分で、釣竿がしなり霧の方におじさんが引きづられはじめるが
アンデルセンは動かないので、様子を見る事にする。
おじさんは助けを呼ぶでもなく、釣竿の動きに集中して霧を睨み、細く息を吸い込む。
ひゅっ!と息を吐き出す瞬間に釣竿を立て、一気に邪天使魚形態を霧から釣上げた。
そのまま、地面に叩きつけた所を一斉攻撃。
激しい豪雨のような攻撃、ただのリンチにちょっと引く。
なんなら誰が取り出したのか、網を被せて地面に網の端を杭で打ち付けて、身動き取れないようにしてしまった。
骨ばった蛇状の胴体がトゲトゲになったが、お構いなし。
口からなんかやばそうな液体を吐き出したが、お構いなし。
叫び声を上げて、士気が低下したので、
「まあ・・・『行くぞ!』」
戦陣術 激励
士気低下を中和。
胴体をどれだけ揺らして、網から出ようとしても、より激しい攻撃で黙らせる。
聖石が露出した所で、誰がとどめを刺すか、相談。
「今回のMVPは釣りおじさんじゃない?」
「妥当な所か」
「じゃあ、遠慮なく」
釣りおじさんが竿を仕舞って、代わりに珊瑚のような杖を出して、聖石を叩く。
【海国】の宝剣は珊瑚風なんだな。潮宝樹がそんな感じの見た目だったしな。
っていうか、宝杖かこの場合。
大量の魔素と霊子が空気中に吹き上がり溶けた所を確認して、
「じゃあ、ちょっと自分、霧の中の様子見てくるね」
「ああ、頼むぜ。これで変化が無いとまた何か考えないとな」
一日で空気が貯まる全身タイツの口元のコックを捻り、全身に空気が行き渡った所で、霧に突入。
一見様子が変わらないけど、少し歩き回ってみる。
そして、デカイ影が一つ。
何だろう、塔の様な建造物?これまでのような、生き物感のある姿じゃない。
これが繭の中にあったのかな?
にしても、何で急に姿が見える様になったんだ???
塔に近づくと、塔の立っている地面に霧を吐く、殻に包まれた何かがいる。
霧の聖石は貝だな。こっちの塔はどうなってるんだろうな。
ちょっと分からないな。結構なでかさだけど、邪天使本体って事なのかな?
しかし、何で急に姿を現したんだ?そこが引っかかる。
準備が出来て、隠蔽の必要がなくなったのなら、何故動き出さない?
エネルギー切れだとしたら、霧を止めて隠れてた方がいいんじゃ無いか?完全隠蔽だもんな。
あの魚がトリガーって事は無い筈。十中八九あれは空中を泳ぐ能力だし、分離した聖石の能力を使ってましたなんておかしいじゃん。
外周をぐるぐる回ってみるが、何も動きが無い。貝も近づかなければ何もしてこないようだし、
一旦時間切れになる前に霧の外へ。
「どうだった?隊長」
「なんか、でかくて細長い建造物が出来てた」
「そうか!姿を現したか、じゃあ霧を攻略して何とか本体を叩きたいな」
「それなんだけど、どうしても気になって」
「なんだ?」
「なんで、急に姿を現したのかって」
「ああ・・・それは気になるな」
アンデルセンも自分と同じ事を考えてるのか、一瞬思いついてもやっぱりおかしいなと考え直している。
「まさかとは、思うけど。また分離したのかな?」
「魔素供給を絶たれたわけだからな。目的地に向かいつつ補給って可能性はあるか。しかし完全隠蔽状態の邪天使がそこいらをうろついってるのもぞっとしないな」
「目的地は世界樹、つまり大霊峰と絞って、広範囲に監視を広げるしか無いか」
「どうやってだ?」
「瘴気はまだこの辺りに漂ってるんだから、分離した方はNPCに任せることも出来るじゃん」
「あくまで予想だからな。そんな事で動かしていいものなのか?」
「相談してみるわ。何もしないで大変な事になっても嫌だし、アンデルセンは霧と霧を吐き出す貝を倒す方法考えて」
「分かった。監視依頼は任せるぜ」