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40.聞き込みの騎士

 「本当に寒いわい。何でこんな仕様にしたのか製作者にまじめに問いたいわい」


 「もう、【帝国】に入ってからずっとその調子ですよ?そろそろ慣れても良いのではないですか?もうすぐ目的地の【古都】ですわ。マスターの真意は測りかねますが、例の【兵士】に私も一度お会いしたいものですね。何故そこまでマスターの興味を引くのか」


 興味も何も孫じゃもん、会いたいじゃないか、現実じゃ仕事が忙しいらしくてとんと会えないしの。話を聞く限りだと、エジプトの奴隷か!って言いたくなるような会社らしいがの。ピラミッドでも作ってるのか!それを社長の墓にでもするのか!そもそも・・・・


 「【古都】に到着しましたが、【兵舎】に向かうと言うことでよろしいんですね?マスター」


だいたいじゃいまどき労働基準法を守らないどころかアスベスト対策もしなければ健康診断もしない。会長は親会社のトップとグルになってインサイダー取引だのとそんな事許されるわけ無いわい。


 「マスター?なにかまずいことでも?」


 「むう?」


 まずい何も聞いておらんかった。


 「とにかく例の【兵士】に会わぬことにはどうしようもないわい」


 「では、予定通り【兵舎】に向かい情報を集めると言うことで。しかし『都』と付く場所の割りに寂れていますね」


 「趣のある建物なぞは結構多いじゃないか。いかにも昔ながらの雪国って感じがするぞ。写真で見る北欧やらロシアやらそんなイメージじゃの」


 「趣は確かにあるかもしれませんね。華やかではありませんが質と実を感じさせます。きっとクリエイターの方の中にこういうのが好きな人がいらっしゃるのでしょうね」


 「ふむ、しかし【兵舎】はどこじゃろうの?鄙びた割りに建造物の数だけはあるし、広い土地だしの」


 「ちょうどプレイヤーがいますので聞いてみましょう」


 「申し訳ないのですがお兄さん【兵舎】の場所を教えていただけますか?」


胡散臭いものを見る目でこちらを見やるプレイヤーは、どうやら生産職のようだ。なんとなく動きが戦闘職のものとは違う。このゲームをしているとなんとなくそういうものが見えてくる。体を実際に動かしているのと同じ感覚で動かせることが原因なんじゃろうが、最近ではたたずまいからなんとなく実力まで推し量れる、気がする。ちなみにわしは、騎士が好きでその時代の資料から剣の型やなんかを真似するのは趣味だが、別に武道家でも達人でもない。いっそ葡萄農家になって、ワインの騎士になりたかったわい。


 「まあ、なんだ【兵士】メインって言ったら、一人しかいないし兵長に話を聞いてみな。クエストの依頼を出してる受付の人な。スキンヘッドのおっさんだからすぐ分かる」


 まずい、孫の情報らしかったのに全然聞いておらんかった。最近で一番まずいの。


 「親切にどうもありがとうございます。やはり【帝国】では有名ですのね?その方」


 いや、やっぱり一番はあれだの。ばあさんのプリンを勝手に食べてしまったことだの。冷蔵庫に入ってたから普通におやつだと思って食べてしまったのじゃ、まさか、限定品とはの。普通のプリンだと思って食べたから、普通の味しかしなかったわい。そもそもいい年して何が限定品じゃよ。ぷっちんプリンこそ至高にして最強のプリンじゃろ、何が良いって見た目がいい!!


 「マスター。【兵舎】に行かれないのですか?」


 「いや、行こうか。そして情報を集めるとしようの」


 全く聞いておらんかった。が、多分こ奴が聞いておろうから、後で聞きだすとしようか。『情報を整理しよう』とか言っておけば、きちんとまとまった形で教えてくれるまじめなやつじゃからの。


 【兵舎】に着くとやたらごっついスキンヘッドのおっさんが受付にいる。怖いじゃないか。来るもの全力で拒んでるじゃないか。だから【兵士】やろうってプレイヤーが少ないんじゃなかろうか?


 「で?何が知りたいんだ?あんた方の言うようなやつは確かにうちに所属してるし、この【兵舎】に寝泊りしてることも多いぞ」


 「して、じゃの、誰かに会おうとかそんな話は聞いて無いかの?」


 「そういう話は聞かないな。たいがい言うことといえば、しょうもない皮肉のような冗談か『飯食って寝る』だな」


 「そうか、何処に知り合いがいるとかも聞かないのかの?」


 「知り合いって、あいつは飯食って寝る以外は任務しかしないやつだぞ。知り合いなんぞ少ないだろうに」


 「ふむ、ところでの今はどれくらい強くなっているかの?」


 「それならよ、最近は・・・・・・」

 

 「お久しぶりねアンデルセン」


 「なんでこんな僻地に騎士がいやがる」


 「ちょっと用事があったのよ。それよりあなた目的のものは見つけたのかしら?見つからないなら素直に我等のクランの一員になるといいわ。はっきり言ってそれこそが最強の近道よ。」


 「最強の道について一々あんたにご教授いただく覚えは無いよ。騎士がそうそうたどり着けないレア職だってことは知ってるし、あんた方を卑下する気もないがな、ジョブひとつで最強を気取られてもな」


 「じゃあ、実力で示しましょうか?運の良いことに私も貴方も支援系をベースに鍛えているのだし、条件的にどちらが優位と言うことも無いでしょう?」


 「あんたって言う支援職がすでにいるなら今更俺を勧誘したところでどんなメリットがあるって言うんだよ。そもそもあんたの所は堅苦しくて俺には合わないって言ってるだろうが!」


 「より多くのプレイヤーが心地よくゲームをプレイする環境を作るには、相応の実力者を一人でも多く集めたいと思うのは当然じゃないかしら?これでも貴方のことを高く評価しているのよ」


 「だからと言って、別に俺を訪ねてこんな僻地まで来たわけじゃなかろうに、『嵐の岬(うち)』でも【帝国】にそんな有望なプレイヤーがいるなんて情報は無いぜ?」


 「そうね、私も聞いたこと無いわ。貴方でなかったらせいぜい『白い黒神』位かしら。でも今はちょっとでも情報が欲しいところなの【兵士】メインのプレイヤーについて知ってることは無いかしら?」


 「知ってるぜ、まさかあんた達まで目をつけていたとはな。まさに俺の目的のものをすでに習得しかけてるやつだ。たまに会っては話す程度の仲だがな。悪いやつじゃないし少なくともあんた達みたいに堅苦しいやつでもない。少し変わってるがな」


 「今何処にいるかは分かるかしら?一度会って話をしたいのよ」


 「あんたがか?」


 「いいえ『鈍色の騎士(マスター)』が、よ。私もその【兵士】の事は知らないわ」


 「そうか、爺さんなら悪いようにはしないだろう。とは言え何処にいるかなんて簡単にはいえないぜ、任務で【帝国】東部をうろうろしてるやつだからな。なんだかんだ頼られる男さ、頼りなさげな割にな」


 「マスター、例の【兵士】は残念ながら一つ所に留まっているわけではないようですよ?どうなさいますか?」


 何じゃ?一体。今この禿のおっさんと孫トークで盛り上がっているのだからそれ所じゃないわい。


 「このまま【古都】に留まるか、運を天に任せて【帝国】東部をうろつくか決めましょう?」


 「ならば、うろつくとしようか。この前のイベントで出てきたレア食材とやらを少しお土産に持って帰っても良いだろう。調理しなければ、いくらかはもつからの材料の類は」

 

 「分かりましたわ。ではアンデルセン、気が変わったらいつでも『Kingdom(うち)Knights』においでなさい。歓迎するわ」


 「そんな事は起こりえないから俺のことは忘れればいい」


 「それではの兵長殿その【兵士】のことよろしく頼むの」


 「ああ、頼まれなくとも悪いやつじゃないしそれとなく気にはかけるさ。安心してくれ」


 しかしあれだのうちの孫は誰からも信用される子になったようじゃ。昔からなんとなく人の話を聞いているようで聞いてない子じゃったのだが、ちゃんとした子に育ってくれて嬉しいことこの上ないわい。

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[一言] この祖父にして、この孫あり……?笑
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